私の好きな冬の俳句を二つ紹介する。一つは松本たかし、もう一つは川端茅舎の句である。松本たかしについての解説、茅舎の句についての説明をネットから拾って載せておくが、前者はサイト名が不明、後者は「八半亭のブログ」というところから取った。「八半亭」は蕪村の号、「夜半亭」のもじりだろう。蕪村は私も大好きである。
松本たかしは能の家に生まれたが、病弱なために家業を継げなかったと何かで読んだ記憶がある。山本健吉の「現代俳句」(名著である)かもしれない。下記記事にもそのことが詳しく書かれている。であるから、この「夢に舞う」能は、もしも自分の体が健康であれば舞えたかもしれない、「見果てぬ夢」の舞であり、その切実なあこがれと悲しみの思いがこの句をこの上なく美しいものにしている。
川端茅舎の句は、解説を読まなくても、作者の命が今にも消えるのではないか、という印象がなぜかする句である。山本健吉の解説が見事である。このようなありふれた言葉の連なりが、読む人になぜこれほど感動を与えるのか。これが芸術の神秘である。たった17字の言葉、しかも平凡な人生のある一瞬のスケッチが、世界の大長編名作小説に拮抗して聳え立つのである。
たかしや茅舎にはほかにも佳句はあるだろうが、私にとってはこの二つの句以外に存在しなくても、いっこうにかまわない。生涯にこれほどの句を一つでも作れば、偉大な俳人だと言える。
(以上、酔生夢人)
以下はすべて引用。
夢に舞ふ能美しや冬籠 (松本たかし)
________________________________________
代々江戸幕府所属の座付能役者の家の長男として生まれた松本たかしは5歳から修行に専念、8歳で初舞台を踏むのだが、14歳の時肺尖カタルを患い、見舞いにきた父が置いていった「ホトトギス」を手にしたことから俳句に興味を持つようになった。以後は病に身を預けながらの俳諧の道を歩むことになる。その作品の格調は高く「たかし楽土」「芸術上の貴公子」などとよばれる品位ある小世界を具象して伝統俳句の継承者の一人となったが、昭和31年5月11日、2月に脳溢血に倒れた体が悪化、強度の神経衰弱にかかって急逝した。享年50歳。
約束の寒の土筆を煮てください (川端茅舎)
この掲出の八句の中で、特に、六句目の、「約束の寒の土筆を煮て下さい」は、茅舎の傑作句の一つとして、今に詠み継がれている。この句についての、山本健吉の評(『現代俳句』)は次のとおりである。
この句棒のように一本調子だが、「約束の、寒の土筆を、煮て下さい」と呼吸切(いきぎ)れしながら、微(かす)かな声になって行くようで、読みながら思わず惹き込まれて行くような気持ちになる。いっさいの俳句らしい技巧を捨てて、病者の小さな、だが切ない執念だけが玲瓏と一句に凝ったという感じがする。
松本たかしは能の家に生まれたが、病弱なために家業を継げなかったと何かで読んだ記憶がある。山本健吉の「現代俳句」(名著である)かもしれない。下記記事にもそのことが詳しく書かれている。であるから、この「夢に舞う」能は、もしも自分の体が健康であれば舞えたかもしれない、「見果てぬ夢」の舞であり、その切実なあこがれと悲しみの思いがこの句をこの上なく美しいものにしている。
川端茅舎の句は、解説を読まなくても、作者の命が今にも消えるのではないか、という印象がなぜかする句である。山本健吉の解説が見事である。このようなありふれた言葉の連なりが、読む人になぜこれほど感動を与えるのか。これが芸術の神秘である。たった17字の言葉、しかも平凡な人生のある一瞬のスケッチが、世界の大長編名作小説に拮抗して聳え立つのである。
たかしや茅舎にはほかにも佳句はあるだろうが、私にとってはこの二つの句以外に存在しなくても、いっこうにかまわない。生涯にこれほどの句を一つでも作れば、偉大な俳人だと言える。
(以上、酔生夢人)
以下はすべて引用。
夢に舞ふ能美しや冬籠 (松本たかし)
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代々江戸幕府所属の座付能役者の家の長男として生まれた松本たかしは5歳から修行に専念、8歳で初舞台を踏むのだが、14歳の時肺尖カタルを患い、見舞いにきた父が置いていった「ホトトギス」を手にしたことから俳句に興味を持つようになった。以後は病に身を預けながらの俳諧の道を歩むことになる。その作品の格調は高く「たかし楽土」「芸術上の貴公子」などとよばれる品位ある小世界を具象して伝統俳句の継承者の一人となったが、昭和31年5月11日、2月に脳溢血に倒れた体が悪化、強度の神経衰弱にかかって急逝した。享年50歳。
約束の寒の土筆を煮てください (川端茅舎)
この掲出の八句の中で、特に、六句目の、「約束の寒の土筆を煮て下さい」は、茅舎の傑作句の一つとして、今に詠み継がれている。この句についての、山本健吉の評(『現代俳句』)は次のとおりである。
この句棒のように一本調子だが、「約束の、寒の土筆を、煮て下さい」と呼吸切(いきぎ)れしながら、微(かす)かな声になって行くようで、読みながら思わず惹き込まれて行くような気持ちになる。いっさいの俳句らしい技巧を捨てて、病者の小さな、だが切ない執念だけが玲瓏と一句に凝ったという感じがする。
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