先日、出張で名古屋に行ったとき、知人が、彼のスピーチの口真似をしてくれたのですが、その内容を聞いて、「なるほど」と腑に落ちました。
彼が縦横無尽に駆使していたのが、アメリカのドナルド・トランプ前大統領をはじめ、いわゆるポピュリスト(大衆迎合主義者)の使う王道のコミュニケーション手法だったからです。
その第1のテクニックが、徹底的な「オレたちのタカシ」戦略です。
彼の売り文句は「気さくな72歳」。名古屋の名門旭丘高校を卒業し、一橋大学へ進学、と学歴的にはエリートなわけですが、徹底的に「庶民」を気取ります。
公用車は黒の軽自動車。選挙活動はわざわざ、ヘルメットを着け、選挙カーの後ろを自転車で回り、その自転車も「28年乗っとるやつですわ~。あそこの〇〇サイクルで買った」というビンテージの代物であることをアピールするのです。
「私みたいな零細企業の息子は~」などと言いながら、「どえりゃー」「また来てチョーよ」といったきつい名古屋弁をまくしたてます。
「名古屋弁」は有権者と彼を強く結びつける「共通言語」。一部の人に嫌悪感を与えても、支持者に「彼はわれわれの仲間だ」という意識を覚えてもらえばそれでいいのです。
政治家に投票するのは「2つの理由」?
「俺は庶民の味方」「あなたたちのことを誰よりもわかっている」。そういったアピールは民主主義においては、支持を受けやすく、SNS時代の昨今は、そうした政治家の「親しみやすさ」がますます重要視されるようになってきています。
アメリカの大統領選では「どちらの候補者と一緒にビールが飲みたいか」がひとつの判断材料であり、ジョージ・ブッシュ元大統領は「有能さ」よりもそんな「人の良さ」が当選の理由になったと言われているほど。
では、市民はいったい、どういった理由で政治家を選ぶのでしょうか。人柄? 政策? 品位? 実はそんなものはほとんど重要ではないという研究があります。
政治心理学が専門の米エモリ―大学のドリュー・ウェステン教授いわく、有権者は、
②私のような人を理解し、気にかけているのかどうか?
この2点だけで、候補者に投票するかどうかを判断しているのだそうです。つまり、自分と同じ考えで、自分のことを理解してくれているかどうか。これが投票の決め手というのです。
そういった意味で、「私はあなたと同じ出身で、同じ靴を履き、同じ洋服を着ている」と発信し続ける河村氏の戦略が、ある一定の支持を受けるのは当然ということになるでしょう。