死刑確定後、別の2件の殺人事件への関与を告白し、殺人罪に問われた指定暴力団住吉会系元会長、矢野治(おさむ)被告(69)をめぐり東京地裁で13日開かれた裁判員裁判の判決公判。死刑囚が被告となった初の裁判員裁判で、裁判員は有罪となっても新たな刑罰が科されない事件を判断することになった。結局、告白の目的が「死刑執行の引き延ばし」だとされ、無罪という結果に。証拠も乏しく、審理を終えた裁判員からは困惑の声が漏れる一方、被害者遺族の気持ちを踏まえ、意義を強調する意見も出た。
刑法は「確定死刑囚に他の刑は執行しない」と規定しており、有罪となっても処遇に影響はない。だが事件の真相解明を求める遺族らは公判に期待を寄せた。「誰に殺されたのか真実が知りたい」。公判では遺族の調書も朗読された。
ところが、矢野被告は公判で「(告白は)虚偽」と述べ無罪を主張。裁判終結まで死刑の執行はないため「告白は執行の先延ばし目的だったのではないか」(捜査関係者)との見方も広がった。
いずれも20年以上前の事件で、関係者の多くは既に死亡。直接的な証拠がほとんどない中、裁判員は難しい判断を迫られた。
裁判員を務めた50代の男性は「証拠をみても話し合いをしても最後まで何があったか分からず、もやもやした気持ちがあった」と振り返った。補充裁判員の女性会社員(33)は「延命目的との話も出ていたので、裁判をしたら相手の思うつぼなのでは、と思ったが、遺族の気持ちを考えると裁判はやる意味があったと思う」と話した。
遺族の代理人弁護士は「これ以上控訴されても、(死刑執行が)一日一日と延びるだけで、遺族を振り回すことになる」とし、東京地検に控訴しないよう求めたことを明らかにした。