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天国の鍵34

その三十四 南グリセリード

 数日後、ハンスたちは南グリセリードに入りました。
 ここは川の多いところで、川の上には小さな漁船がいくつか浮かんで、思い思いに魚をとっています。そして、川のそばには岩の多い山々が立ちならび、山の緑と川の碧(みどり)が美しく調和(ちょうわ)しています。
 季節は秋の終わりですが、昼間は、南国のこのあたりはまだまだあたたかく、風の中にわずかに秋を感じるていどです。
 ここで、ハンスとアリーナは、ピエールたちといったん別れることにしました。ピエールとヤクシーは、ヴァルミラが父の仇を討つ手助けをするということで、子供たちはそれにまきこみたくないからです。アリーナはハンスといっしょなら大丈夫(だいじょうぶ)だろう、というわけです。
 ピエールはハンスの持っていた地図を広げて、一月後にグリセリードの南西の砂漠の手前にあるアズマハルという町でおちあおうと言いました。
「もしも、約束の日までにおれたちがあらわれなかったら、お前たちは自分たちの好きなようにすればよい。旅を続けるのもいいし、アスカルファンに帰るのもいい」
 ピエールたちとわかれるのはさびしいのですが、父の敵討ちはヴァルミラの命をかけた願いですから、やめさせることはできません。
 ピエールたちに別れをつげると、ハンスはアリーナと二人きりになりました。アリーナも体はすっかり元気になって、自分で歩けるようになってますが、彼女はグスタフに乗せ、ハンスは歩きます。
 なんだか、二人きりになると調子がくるい、ハンスはだまりこみがちになります。
「ねえ、これからどこへ行くの?」
 アリーナが聞きました。
「うん……。南アルカードのどこかのブダオ教のお寺にブッダルタという偉いお坊さんがいるらしいんだ。その人に会おうと思ってる」
「じゃあ、そのへんの人に聞いてみなさいよ」
 アリーナの言葉にしたがって、川のそばにいた漁師に聞くと、ブッダルタという坊さんはギオン寺というお寺にいるそうです。そこは、ここから三日ほど南に歩いたところらしいです。
 南に進むにつれて、川よりも森が多くなってきました。
 森の中にはいろいろな動物がいますが、あまり人を見てもにげません。
「ブダオ教は生き物を殺さないんだ。だから、このへんの生き物は人間をこわがらないのさ」
 アリーナの言葉はまだ、男言葉と女言葉がまざってます。
 やがて、前方に大きな寺院が見えてきました。

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酔生夢人
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男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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