あまりに気持ちがよくて思わずウトウト。美容院や理容室のシャンプーでリラックスする人は多いが、洗髪が終わった後にめまいや冷や汗、頭痛などがして気分が悪くなったことはないだろうか。
実はソレ、首を反らした状態で洗髪することで起こる脳卒中の前兆なのだ。命取りにつながる恐れがあるので、くれぐれもご注意を。
この気持ちのよい体勢が脳卒中を招く(写真はイメージです))
仏の文豪スタンダールもあわや命の危機に
この症状、医学的には「美容室脳卒中症候群」(ビューティーサロン・ストローク・シンドローム)と呼ばれる。あの名作「赤と黒」「パルムの僧院」などで知られる仏の文豪スタンダールにちなみ「スタンダール症候群」ともいわれる。スタンダールがフィレンツェのある聖堂を訪れた時、高い天井や窓に描かれた名画の数々を見上げている最中、至福感と同時に激しい動悸に襲われ、卒倒寸前になった。スタンダールがこの時の恐怖を「イタリア紀行」に書き残したので、医学用語として定着した。
高い所ばかり見上げる姿勢を続けると、首の動脈が圧迫され脳への血流が止まるので、動悸、めまい、吐き気、失神などが起こる。これと同じ症状が美容院のシャンプー台の上で起こる。東京医科大学整形外科では、ホームページの「脊椎班だより」の中で「スタンダール症候群」のコラムを設けて注意を呼びかけている。
それによると、発症のメカニズムはこうだ。首の後ろ側には小脳や脳幹、後頭葉などへ血液を運ぶ椎骨動脈がある。これは椎骨と密接につながっているため、洗髪で長時間首を後ろに反らせていると、血管が圧迫される。その結果、脳に行く血流が一時的に減ってしまう。すると、血小板の流れが滞り、小さな血の塊の「血栓」がたくさんできる。
洗髪が終わり、首を元の位置に戻す時、せき止められていた血流が一気に脳へ流れると、血栓が押し流され脳のすみずみの毛細血管に入り、詰まらせてしまう。これが脳卒中だ。頭痛や吐き気、めまい、手足のしびれ、冷や汗、首や後頭部の痛みや違和感が起こったら要注意だ。美容院では何でもなくても、帰宅後に倒れるケースも多く、重症の場合は命を落とすこともある。
シャンプー中に気になればすぐに美容師に声をかけよう
全日本美容業生活衛生同業組合連合会では、全国の美容院に(1)洗髪中は首への圧迫を避ける(2)首を左右に振らない(3)洗髪後にチェアを起こす時はひと声かけて首に急激な負担をかけない、などの注意を呼びかけている。しかし、利用者も次の点を注意したい。
(1)洗髪中にふらふらする、吐き気がする、手足がしびれるなどの違和感を覚えたら、我慢せずに美容師に伝えて、休ませてもらう。
(2)それでも症状が改善しない時は、すぐに神経内科や脳外科を受診する。
(3)血栓は、水分不足から起こるので普段から水分をまめにとる。特に二日酔いの時は脱水症状になるので、美容院に行く際は注意する。
(4)美容院に行く前に、肩甲骨や首を動かして首周りをストレッチをする。
(5)美容院によっては首の負担を軽くする台を使用しているところもあるので、問い合わせる。
いずれにしろ、シャンプー中に気になることがあれば、遠慮せずに美容師さんに声をかけよう。