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第一章 ポニーを連れた少女(1)

最初に言っておくが、これは第一稿というか、未定稿であり、後で訂正すべき部分はたくさんあるが、その部分もそのままにしておく。そういう推敲課程も記録しておくわけだ。(夢人)
各部の間の空白部は原書のものではなく、翻訳の都合上空いたもの。決定稿ではその空白は無くなる予定である。



第一章 仔馬を連れた少女 2016/04/21 (Thu)


毎年、三月の終わりには、ガラの首都クリアでは大きな市が開かれた。東の国々の、彼女以外の数千もの人々と同様に、オヌア・チャムトンもそこに仕事のために行った。仕事とは、彼女の場合は仔馬たちを買うことである。この年は彼女はほかの交渉ごとがあり、それはうまく行かなかった。市に滞在した50日めの日の暮れるころには、彼女に必要な助けはもはや得られないように思えた。力になる人もなしに、彼女の家畜たちを南まで連れていくことになるのは、面白くない展望であった。 
「あのう、馬買い人のオヌアさんですか?」そう話しかけたのは、内気で田舎育ちに見える一人の少女だった。「あなたが人を雇うつもりだと聞いて。私は―」少し間を置いて、彼女は続けた「動物を扱うのがうまいんです。どんな動物でも」彼女はオヌアが彼女を観察する間、待った。緑に染めた羊毛の服を着て、スカートは長靴とレギンスが見えるくらいの短さだ。巻き毛の髪は頭巾で巻かれて、その余りが細い肩にかかっている。柔らかでふっくらとした唇が、彼女の繊細さを示している。顎はしっかりとしている。背中には矢の入った箙を負い、手には弦を外した弓を持っている。



(追記)別の場所でも書いたが、「仔馬」は「小型馬」の誤り。つまり「ポニー」である。固有名詞以外はなるべくカタカナ語を使いたくない(そうするとファンタジー性が薄れる)ので、つい「仔馬」と書いてしまった。いずれ全体を見直すまでは、そうしておく。今は、訳しながら考える、というその過程そのものを重視して、そのままにしておく。




「それはあんたのかい」馬買い人は弓を指差して言った。
灰青色の目が閃いた。「これ以外に持ち歩くやり方、知らないんです」
「ふん、弦をかけなよ」少女は言われてためらった。「そう思っただけさ」オヌアはからかうような口調で言った。「で、本当はいったい誰のだい」
少女は巻かれた弦糸を帯の間から取り出した。楽々と弦を弓の一方にかけ、足の前でもう一方をかける。弓の弦の一方を上げ、もう一方まで下げ渡して弦をきれいに張る。弦のかかった弓を彼女は握って体の横に持つ。二つの指で弦を耳のあたりまですらりと引き、射る姿勢を見せた。オヌアは、この少女が射手の篭手をはめているのに今気づいた。
「今は矢は箙の中だけど」少女はゆっくりと弦を射放しながら言った。「的が何だろうが、確実に射るよ」
オヌアはにかりと笑った。「感心したよ。私じゃあ、弓をそんなに大きく引けないね」


少女は弓から弦を外し、それを巻いて帯の間に収めた。「私もよ。最初は。これ、解体したの。でなければ、今でも引けなかったでしょうね」
「十字弓(クロスボウ、弩)だったの?」その質問はオヌアが意識するより先に口から出ていた。(この娘は雇いたくない。彼女をその母の元に送り返したい。彼女は家出娘に違いない。)
「ええ。奴らが来るの―」何かが彼女の目の中で羽ばたいた。彼女は下を向いた。「いえ、来たの。山賊たちが。私は羊たちを見ているしかなかった。だから、十字弓と長弓と投石器のやり方を習ったの。」―かすかな笑いが現れた。―「自慢しているんじゃないのよ」
(山賊たちが来たー)オヌアは考えた。(「来た」と言い換えたのは、彼女が家を離れるのは少しの間のことだと私に信じさせたいからだろうか、それとも家がもう無いからだろうか)
何物かがその少女の側に現れ、大きな茶色の目でオヌアを胡乱げに見た。毛に覆われた、山岳地特有の小型馬である。(訳者注:この章の題名にうっかり「仔馬」と書いたが、原語の「ポニー」は小型馬であり、仔馬とは別なので、今、訂正しておく。前に書いた部分の訂正は、気が向いたらする。)鉄灰色の雌馬だ。肉付きがよく、毛並みもよく手入れされて、荷物二つは容易に運べそうだ。




「あなたの?」少女は頷いた。「いくらの値で売るの?」オヌアは小型馬で一杯の背後の囲いに向かって身を動かした。「私は市にいるんだからね」
「私はクラウドを売れません。彼女は家族です。たった一人の」再びオヌアは悲しみの閃きを見たが、それはすぐに脇に押しやられた。
「あんたの名前は何かね」クミール(訳者注:何を意味するか不明。魔術的な何かだと思う。あるいは、「クミール」と「目の光」は同一かもしれない。)が小袋の中で彼女の指にくっつき、「目の光」と呼ばれる粉を探らせた。
「ダイネです。奥さん」柔らかな声が返ってきた。「ベラリダイネ・サッラスリ」
「目の光」はオヌアが自分の魔術の才を使うときにはその指を痒くした。「いま何歳だね、ダイネ」
「十五歳です」オヌアだけに見える赤い炎の輝きが少女の顔を取り巻いた。この嘘は悪い嘘ではない―顔をしかめるような気持ちで馬買い人は考えた―彼女はそう言うべきだと街路で学んだのだろう、だが、嘘は嘘だ。彼女は13歳ほどに見えた。




「どこから来たの?」
「スノウスデール、北の方。二週間ほど歩いたところ」
赤い炎は見られなかった―彼女は本当のことを言っている。オヌアはため息をついた。「あなた、逃亡者? 家から、あるいは悪い主人から」
「いいえ、奥様」柔らかな唇が震えた。「私には家族はいません。クラウドだけです」
今度も赤い炎は見えない。オヌアは手から粉を払い落とした。「私はオヌア・チャムトン、クミリ・ラーデーの」
ダイネは困惑した表情になった。「ク、ク、―何?」
「クミールは東に住む人々よ。ラーデーはクミリ部族の、1支族の名前」ダイネの困惑は少しだけ和らげられたようだ。「気にしないで。あんたは動物を扱うのが上手いと言ったね。こっちへ来な」彼女は少女を自分の囲いへと導いた。その中にはさまざまな色とさまざまな大きさの27頭の毛深い小型馬が動き回っていた。

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酔生夢人
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職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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