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超訳「踊るドワーフ」#28

「それからどうなった?」
「それから?」彼は言った。「それから革命が起こったのさ。王は殺され、ドワーフは逃亡した」
私はテーブルに肘をつき、自分のジョッキを揺すってビールをゆっくりとすすった。私は老人を見て、そして尋ねた。
「それは、ドワーフが宮廷に入った直後に革命が起こったという意味かな」
「直後ではないが、遅くもない。1年くらい後だ」老人は大きなゲップをした。
「よく分からないな」私は言った。「前にあんたはドワーフのことは話したくないと言ったが、どうしてだい。ドワーフは革命と何か関係があるのか」
「大当たりだ。少なくとも、確実なことがひとつある。革命軍はあのドワーフをやばいところに連行しようとしていた。今もそのつもりだ。革命はもう昔の話だが、連中はまだ踊るドワーフを探している。たとえそうであるにしても、俺はドワーフと革命に何の関係があるのかは知らん。聞こえてくる話はすべて噂にすぎん」

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コンクリートとナイフ

太田忠司という小説家がいて、主にミステリーを書いているが、あまり全国的な知名度は無いと思う。昔読んでいたブログの主がこの作家のファンで、それで名前を知って幾つか読んだのだが、まあ、やはり全国区の人気は得られそうもない印象だった。だが、名前は覚えていたので、この前近くの図書館に行った時、児童図書の棚でその作品を見つけて借りてみた。この図書館は大人向けの本の蔵書数が呆れるほど少ないので、最近は児童生徒向けの棚を探すのである。
結果的には、昔読んで忘れていた作品だったのだが、物覚えが悪いと、同じ作品を何度読んでも同じレベルの楽しみがあるというメリットがあるww まあ、作品自体は、出て来る人物がみな性格が悪い印象で、あまり読んでいて楽しくはないのだが、最後になって、「これは主人公の主観で書かれていたので、周囲の人物は実はそれほど性格が悪くもないのではないか」、と思ったのは、私が最近「信頼できない語り手」という手法に関心があったからかもしれない。要するに、一人称視点の作品はすべて「その語り手が真実を言っているとは限らない」し、一人称ではなくても、主人公の視点を中心に書いていれば、それは「信頼できない語り手」になるのである。 何度も例に出すが、ディッケンズの「大いなる遺産」や、ドストエフスキーの「未成年」はそれだと私は思っている。そして、そういう作品は「映像化がほぼ不可能」という特徴がある。「大いなる遺産」は何度か映画化されていると思うが、たぶん成功したことは無いだろう。読んだことはないが、カズオ・イシグロの「日の名残り」なども「信頼できない語り手」の例のようだ。
で、最初の話に戻って、太田忠司のその作品には、推理小説としての欠陥(トリックが成り立たない)は幾つかあるが、コンクリートの劣化が中心トリックになっているのが興味深かった。というのは、今住んでいる田舎の町は過疎化が進んで、放棄住宅が多いのだが、特にコンクリートの建物の劣化が激しいのである。コンクリート住宅がこれほど劣化するのだという、見本市のようなものだ。
で、なぜコンクリート建築が劣化するのか、ということの説明がその小説の中にあって、それはコンクリートがアルカリ性だからだ、と聞いて成る程、と思ったわけである。アルカリ性だから、空気に触れていると酸化して中性化し、強度が減るわけだ。そして、内部の鉄筋が酸化、つまり錆びると、鉄筋の体積が増し、コンクリートに亀裂を入れる、という機序のようだ。これは私の見たコンクリート建築の廃屋の様子とよく一致している。ちなみに、コンクリートには砂利や砂を混ぜるが、その砂が海の砂だと、塩分のために劣化速度が速くなるようだ。つまり、誠実な業者の建てた建築と、不誠実な業者の建てた建築は、数年後にその劣化具合がかなり異なることになる。
なお、その小説の中で、私が無理だと思ったのは、木の枝か幹に縛り付けたナイフで、自分の背中を切るというトリックである。皮膚を露出した体なら刺すことは可能だろうし、少しなら切ることも可能だろうが、服の布地をそのナイフが「切る」ことは不可能だろう。布地というのは案外切れないものだ。剃刀ならともかく、ナイフでは無理だと思う。背中にナイフを当てて体を動かしても、ナイフが衣服を切るのは非常に困難だろう。釘などに引っ掛けて衣服が破れるのと「ナイフが切る」のは別なのだ。言い方を変えれば、ナイフは「刺す」武器なのである。顔などは切れるだろうが、衣服はほとんど切れないと思う。


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超訳「踊るドワーフ」#27

ここまで話したところで、その老人は自分のグラスをテーブルに置き、手の甲で口を拭い、象の形をしたランプに手を延ばして、それをいじり始めた。私は彼が話を続けるのを待ったが、彼は数分の間黙っていた。私はバーテンを呼んで、ビールとMecatolを追加注文した。居酒屋は少しずつ客が増えており、ステージでは若い女性シンガーが自分のギターのチューニングをしていた。

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超訳「踊るドワーフ」#26


そうするうちに、ドワーフは宮殿内に部屋を与えられ、そこで侍女たちが彼を風呂に入れ、絹の服を着せ、王にお目通りする際の適切なエチケットを教えた。次の夜、彼は大きな広間に連れていかれたが、そこでは王のオーケストラが、指揮のもとに、王の作曲したポルカを演奏した。ドワーフはポルカに合わせて踊ったが、最初は音楽に体を慣らすように静かに、そして段々とスピードを上げ、しまいにはつむじ風に巻かれたような速さになった。人々は息を呑んで彼を見つめた。誰も話すこともできなかった。貴婦人の数人は気絶して床に倒れた。王の手からはgold-dust wine(訳者注:そういうワインがあるのかどうか知らないのでそのまま英語表記しておく。)の入った水晶のゴブレットが落ちたが、誰一人としてその砕ける音に気がつかなかった。

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疾風に勁草を知る

孔徳秋水氏の3月11日以降のブログ記事タイトルだが、アメリカ経済の激動についてまったく記事にしていない。「経済を知ることが社会(世界)を知ることだ」「株を買え、買え」という思想を鼓吹していた秋水氏には、アメリカや西側世界の経済的破綻は都合が悪いのだろう。
まあ「疾風に勁草を知る」である。普段言っていることが、どの程度の価値があるか、発言者がどういう人間か、こういう場面で試される。
ただし、私のブログで何度か引用しているように、彼の「臍曲がり」な物言いには私は一定の価値を置いている。無難な発言より過激な発言のほうが読み物として面白いのである。もちろん、信頼度は低い。
ところで、表マスコミ世界では、アメリカ経済の崩壊の序曲について、まだどの「経済評論家」もコメントを出していないようだが、あまりにいい加減すぎるのではないか。

なお、増田俊男も3月15日の記事で、アメリカの経済的激動について一言も書いていないww
今さら、米国株(あるいは日本株)の空売りをしろ、と言っても時既に遅しだろう。

(以下引用)

2023年3月の記事(16件)

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社会道徳と「生きることのコスパ」

某スレッドから転載。
私も、現代社会で真面目に生きることのコスパの悪さについて考察しようと思っていたのだが、これは「犯罪者」特有の傾向ではなく、「下級国民」に共通した感想なのではないか。私のように、立小便以外の犯罪をしたことがない小市民でも「真面目に生きることはコスパが悪い」だろうと思っているのである。
ただし、コスパの中に「安全性」を要素として入れればもちろん、コスパの数値は「真面目に生きる」ほうが跳ね上がる。そして、一度犯罪的な行為をした者は、その後も犯罪に手を染めやすくなるのは理の当然だろう。つまり、「もはや後戻りはできない」状態になるからだ。そして、犯罪者には犯罪者の仲間世界があるから結構生きてはいけるのだろう。
バルザックの「ゴリオ爺さん」の中で悪党ヴォートランが主人公のラスティニャックに「美徳は切り売りできないんだぜ」と言っているのはそういうこと、つまり一般市民と犯罪者の人生の不可逆性だろう。


(以下引用)
■Twitterより


少年院の先生などいろいろ経験させてもらったけども、多くの犯罪者と呼ばれる人は「犯罪ってコスパ悪いよね」という一般的な感覚よりも「真面目に生きるのってコスパ悪いよね(もう諦めている)」が勝っている人が多い。

そしてなぜか被害者意識が強い人も多い。自分勝手に見える人が多いのはそのせい



個人的に最近の闇バイト(特にタタキ)に手を染める人の傾向で、自分の残りの人生を賭けて人生一発逆転狙っちゃっている感じする。

小さな犯罪や逸脱行為を繰り返し、「真面目に生きるのってコスパ悪いよね」という考えが骨の髄まで浸み込んでしまっているため、救いがない




<このツイートへの反応>

昔より努力が報われにくい時代ですからな…

欲望の形は人それぞれですからね
欲しい物がどうやっても手に入らないと確信した時が1番危うい気がします。


言い方悪いけど、パパ活も似たようなもんよな。
真面目に働く方が馬鹿らしいって言う価値観。
一応売りも犯罪なんだけどな。


「普通の幸福が得られる人生ゲーム」に参加できなくなって、「犯罪込み込み」で人生博打化するこの傾向、本当にマズいなあと思ってます。

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超訳「踊るドワーフ」#25


踊るドワーフの話は遂には、製象工場に強いコネを持ち、工場近くに領地を持つ貴族評議会議長の耳に達した。この貴族は、後に聞いたところでは、革命軍に逮捕されて煮えたぎるニカワの壺に投げ込まれたが(訳者注:話全体が大人の御伽噺風なので、この妙な処刑法もそのまま訳しておくが、原書ではどうなのか知らない。)まだ存命していると言われているが、その、踊るドワーフに関する話が若い王様まで届いた。音楽愛好者である王は、そのドワーフのダンスを見ることにした。彼は王家の紋章付きのvertical-induction ship(訳者注:意味不明。直訳すれば垂直誘導船か。これも御伽噺的な洒落だろうか。なぜ船なのかも不明。宇宙船という可能性もある。)をこの居酒屋に急送して、王室付き親衛隊がドワーフを丁重に宮廷に護送した。居酒屋の持ち主は、この損失について寛大すぎるほどの保障を得た。常連客たちはドワーフを失ったことにぶつぶつ文句を言ったが、彼らは王に文句を言うよりマシなことを知っていた。彼らはドワーフのことはあきらめて自分たちのビールとMecatolを飲み、若い娘たちがダンスをするのを眺める毎日に戻った。

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HN:
酔生夢人
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男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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