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子供の読書、大人の読書

私が市民図書館から借りて来る本の中には、子供のころ読んだ本も含まれたりする。つまり、子供の頭では理解できなかった部分が、大人(まあ、年寄りだが)の今なら理解できることもあるからだ。あるいは、子供のころには何とも思わなかった部分を面白く思うこともある。つまり、名作文学は、子供の本も含め、一生、何度も読み返す価値があるというわけだ。

興味の無い人には何とも思われないことを面白く感じることもある。たとえば、R・L・スチーブンソンの「宝島」の創作が、実は一枚の絵から始まったという話なども面白い。子供がよく冒険物語の地図を書いて遊ぶ、あれである。スチーブンソンの再婚した相手の連れ子と一緒に遊び半分で描いた、宝島の地図を見ているうちに、物語がどんどんできていったという。その地図で見ると、縦6マイル、横3マイルくらいの大きさの小島で、南の湾は「骸骨島」という島を囲んでいる。問題は、日本の子供には、このマイルという単位がイメージできないことだろう。
それよりも大きな発見が私にはあり、それは「タール」についての注釈である。こう書いてある。「タールは、石炭、木材などを乾留してつくる黒色の液体で、船の塗装に用いられる」
まあ、子供には語釈など読まない者が多いだろうし、これを読んでも何とも思わないだろう。しかし、あなた、大人のあなたは「乾留」とはどういうものか知っているか? 私は知っているような気もしたが、念のために調べた。すると、例の便利な「百科語辞典」には、「固体有機物を、空気を遮断して加熱し、分解する操作。石炭から石炭ガスやアンモニア、タール、コークスなどを得ること」と説明している。さらに「コークス」を調べると、「石炭を高温で乾留して揮発力を除いた灰黒色、多孔質の固体。発熱量が大きく燃料として重要」云々とある。これでかなり利口になった気がするというか、知識が増えた(石炭が揮発性があるとは初めて知った)のが嬉しいが、そこで気が付いたのが、「コールタール」とは、「コール」が石炭の意味の英語だから、「石炭由来のタール」ということだろう、ということだ。つまり、最初の「石炭、木材を乾留して」の説明にあるように、木材由来のタールもあるから、わざわざタールの種類を分けたのだろう。これで、「コールタール」という、頭の中に何十年も眠っていた、自分でも気づかない謎がひとつ解決されたわけである。


また、たとえば、私は「ラストモヒカン(モヒカン族の最後)」の小説をこの前、やはり児童図書のコーナーで見つけて借りて読んだのだが、その作者フェニモア・クーパーへの言及がスチーブンソンの「宝島」の序文の中にあり、英文学、特に児童文学におけるクーパーの存在感の大きさを再確認したのだが、そういうのも、「大人としての読書」のメリットだろう。英語圏外の子供では「クーパーって誰?」としかならないと思う。ちなみに、「ラストモヒカン」は、プーシキンの「大尉の娘」と似た雰囲気のある(状況が似ている)、面白い冒険小説である。ユーモア性やキャラの造形はプーシキンの方がかなり上だが。「大尉の娘」の雰囲気はジョン・フォードの「黄色いリボン」あたりに近いか。案外、ジョン・フォードは「大尉の娘」の西部劇への換骨奪胎をしたのかもしれない。

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酔生夢人
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男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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