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藤永茂博士「Hubris」

久しぶりに藤永茂博士のブログに行き、いろいろと啓発されたので、忘れないようにその記事を転載しておく。
なぜ「久しぶりに」かと言うと、私は本来、真面目一方の文章というものが苦手なのである。どうしても、学校時代の「お勉強」を思い出して、肩が凝る。藤永茂博士の立派な人格や真摯な文章に感動はしながら、あまり度々はブログを訪問しないのは、そのためだ。劣等生が学校の職員室にうっかり入ってしまったような居心地の悪さがあるわけだ。植草一秀氏の文章なども同様である。その反対の、ふざけ散らした文章はもっと嫌いだから、文章の許容範囲が極度に狭い、ということである。まあ、私の文体的好みなど他の人にはどうでもいいことだ。
下の記事は、誰にとっても有益な記事である。特に、アメリカという国家の特質や、その世界戦略というものについて詳しくない人は、ぜひ読むべきだろう。その「hubris」な国家の単なるATMとしてだけではなく、軍事的下僕として世界でこき使われることが現在内定している日本国の住人としては、なおさらだ。


(以下引用)


Hubris(ヒューブリス)

2015-04-08 22:21:37 | 日記・エッセイ・コラム


 2011年9月7日付で『気楽に英文記事を読む習慣』という記事を掲載しました。長くないので再録させて頂きます。:
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 前回の終りに掲げた英文記事の翻訳紹介を怠りましたら、桜井元さんが、前回のブログへのコメントの形で、その内容をまことに的確適切にまとめて紹介して下さいました。桜井さんはその中で「英和辞書を引きながら、わからない単語や表現は読み飛ばしつつ、なんとか大意はつかめたと思います」と申しておられますが、これは謙遜のお言葉でしょう。しかし、ここには私たちが英文記事を気楽に読むためのコツが述べられています。あとは慣れの問題です。とにかく、うるさがらず、好奇心を持って、ネット上に溢れる英文記事に目を通してみる習慣を身につけようではありませんか。すこし努力しながら続けているうちに、頭の中の英語の語彙は殆ど増大していないのに、いつの間にか、英文記事の内容が以前より随分と楽に読み取れるようになります。言葉というものに備わっている不思議さです。
  そうなると、何でもない場所で、「この情報は多分ありのままに近いのだろうな」という感じのする情報源に行き当たることがあります。犬も歩けば棒に当たるというやつです。リビアのトリポリの風景がNATO空爆以前にどんな具合だったかを教えてくれる記事にひょいと出会いましたので、紹介します。気楽に読んで下さい。クリスチャン・サイエンス・モニター(The Christian Science Monitor)はアメリカのオンライン新聞で、その2010年7月12日号の”Libya’s Path From Desert to Modern Country-Complete With Ice Rink” by Sarah A. Topol: という記事の一部です。ice rink は屋内スケート場、sanction は制裁、alleviate は苦痛などを和らげること、sleek はカッコいい、the place to be は居るべき場所、なかなか良い所、という意味でしょう。
■ "There's now on the economic side a pretty unstoppable momentum…. It’s the place to be,” says Dalton, now an analyst at Chatham House in London.
Libya’s nominal gross domestic product (GDP) rose from 16.7 billion dinars ($12.8 billion) in 1999 to 114 billion in 2008, according to the International Monetary Fund (IMF). The year after the US lifted sanctions, the country’s economy surged 10.3 percent in 2005. Foreign direct investment increased more than 50 percent from $1.5 billion in 2000 to $2.3 billion in 2007, according to the World Bank.
In Tripoli, the capital, cement skeletons along the city’s airport road will soon be sleek luxury high-rises as Libya tackles a 500,000 unit housing shortage. Known as the Bab Tripoli complex, the government-funded plush Turkish development is valued at some $1.3 billion and is set to be completed in November 2011. It boasts 115 buildings with 2,018 apartments as well as office spaces, and a giant mall complete with a 22-lane bowling alley, a movie theater, a five-star hotel. The changes aren’t just limited to Tripoli. In Benghazi, Libya’s second-largest city, two government-funded housing projects consisting of 20,000 units, costing approximately $4.8 billion, are half way to completion. To combat income disparity and alleviate the growing pains of privatization, the Libyan government has set up social fund to provide 222,000 families approximately $377 dollars per month from investment funds financed by oil profits. ■
2010年7月といえば、ベンガジで反政府勢力が突然旗揚げをした2011年4月の僅か半年ほど前のこと、私が判断する限り、この記事はその時点でのトリポリやベンガジの様子を伝えるごく日常的なinnocentな新聞記事です。残忍悪逆な独裁者にしては、結構、一般庶民のための出費を惜しまない国内政治をしていたように見えます。
  2011年5月25日付けのブログ『Win-Winの賭け事?』で、私が表現したかったことは、リビアやハイチやコンゴの近未来についての私の暗い予想は、実は、当ってほしくないという私の気持でした。今、私は、リビアに関する多数の英文記事をインターネットのあらゆるソースから取ってきて、せっせとストアしています。この頃のコンピューター・メモリーの信じ難い(特に私のような初期の磁気コア記憶装置の時代を知る者にとって)巨大さをつくづく有難く思っているところです。いくらでも貯められるからです。何故こんなにも貯め込むのか? 現在圧倒的多数の人々が「リビアでは事がうまくいった。人道主義と民主主義が勝利した」と言祝いでいます。それも、イラクやアフガニスタンの侵略戦争に反対する多くの論客が「The Libya Model(リビア方式)」は成功だったと評価しているのには、全く驚かされます。しかし、今こうして彼らの発言とマスメディアの報道を蒐集保存しておけば、 3年も経たない内に、彼らが正しかったか、それとも、私の悲観的見方が正しかったか、がはっきり分かると思うからです。
  「それが分かって何になる」という声が聞こえてくるような気がします。その通りです。あと3年、生きているかどうかも全くあやしい私にとっては、尚更のことと言えましょう。けれども、やはり、私は真実を知りたい。生半可な絶望の中に没するよりも、絶望を確認してから死ぬほうが、日本人らしい選択だとは言えませんか?

藤永 茂 (2011年9月7日)

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 上の記事を書いてから3年以上になります。私は今でもリビア関係の報道や論説をチェックし続けてはいますが、大多数の賢人、専門家の論説が正しかったか、老人ホームの一老人の判断が正しかったかがはっきりするのに3年の長い年月など不必要でした。なぜ私のような者が正しい判断を下し、マスメディアに登場する大多数の賢人、専門家、現地ジャーナリストが誤った見解を披瀝してしまったのか。考えられるほぼ唯一の答えは、彼らが自分の知っていることを我々大衆に告げず、意図的に嘘をついているのだろうということです。
 恐ろしい世の中です。我々自らのsanityを保ち、この世界で起こっていることの真相を見定めるためには、マスメディア以外の情報源に正しい知識を求めなければなりません。それは難しいことではありませんが、現在の状況ではインターネットで接することのできる英文記事を可なり沢山読み漁る必要があります。それで、出来れば、『気楽に英文記事を読む習慣』をつけて頂きたいのです。分からない単語が出てくるごとに辞書を引いていては時間がかかり過ぎますから、適当に読み飛ばして全体の“空気”を読めばいいのです。場数を踏むうちに、読めてくるものです。私の経験から例を挙げましょう。今回のブログの見出しである hubris(ヒューブリス)という単語をご存知ですか?多数の文章を読み飛ばしているうちに、私が何とは無しにその意味を感得した英単語の一例です。この度、本気で調べてみて、私の会得の仕方が間違っていなかったことを確かめました。あとでまた、この言葉に戻ります。
 我々の身辺に充満している、はっきりした意図を持った、為にする偽りの報道や論説の中から、真実の含有率の高い記事を探し出すにはどうすればよいか? 実は、その気になれば、そうした記事を提供してくれているウェブサイトは、日本語のサイトでも、いくらも見つかります。その中でも最高のものは『マスコミに載らない海外記事』というブログです。このブログの主の御努力には、まったく頭が下がります。この稀有のブログを起点として、何人かの真摯な、信頼できる発言者を見つけ出すことができます。Paul Craig Roberts はその代表的人物の一人です。米国のメディアが総力を挙げてその悪魔化(demonization)に励んでいるロシアのプーチン首相に関心のある方は是非ともPaul Craig Robertsの意見に耳を傾けてください。
 hubris というという言葉に戻ります。ランダムハウス英和辞典には、:(名詞)1.過度の自負、自信過剰、;傲慢、不遜 2.(ギリシアの悲劇で)神々に対する思い上がり、挑戦、その報いとして天罰を受ける。・・・・、とあります。nemesisという言葉もついでに勉強すると良いかもしれません。
 米国はウクライナでクーデターに成功し、それに勢いづいて、ロシアの現政府のレジーム・チェンジ、つまりは、プーチンの失脚追放を懸命に試みています。プーチンの暗殺と核爆弾(もちろん水素爆弾)による先制攻撃も選択肢の中に含まれています。同時に、ベネズエラでもマドゥロ大統領の現政府に対するクーデターを試みましたが、こちらは、計画が事前に漏れて失敗しました。しかし、石油価格の操作を強力な梃子にして、ベネズエラの経済を締め上げながら、マドゥロ大統領打倒の努力を続けています。
 3月9日、オバマ大統領はベネズエラに制裁を加えるための大統領令に署名しました。具体的な内容は、マドゥロ大統領の現政府に対する反政府運動に加わったベネズエラ人に対して過酷な弾圧を行ったと米国政府が名指しする7人のマドゥロ政府の軍部と司法の官僚の資産を米国が支配する国際金融システムの力で凍結拘束し、また米国への入国を拒否するという制裁を発動するというものですが、かなり長い原文を読んでみると、その異様さに背筋が寒くなります。まず、マドゥロ大統領の極端な無能の故に経済政策が破綻したこと、そのため反政府デモが起きると、市民多数を殺害してデモを制圧し、経済破綻の理由を米国の策動であると宣伝していることを述べ、ベネズエラ政府によるベネズエラ市民の人権侵害を激しく非難してあります。

https://caracaschronicles.files.wordpress.com/2014/12/mrw146341.pdf

しかも、この大統領令の発効にあたって、オバマ大統領は、このベネズエラの政情は“an unusual and extraordinary threat to the national security of the United States(アメリカ合州国の国家安全保障への異常かつ並外れの脅威)”だと宣言しました。
 ここで、R2P(Responsibility to Protect, 保護する責任)という標語を思い出して下さい。この忌まわしい標語を口実として、米欧はリビアという国をめちゃめちゃに壊してしまいました。どう勘定をやり直してみても、カダフィという独裁者に数十人か、数百人のリビア人を殺させておいた方が、少なくとも10万のオーダーの一般市民が殺され、数百万人が塗炭の苦しみを舐めさされるよりは遥かにましだったという結論に落ち着くでしょう。R2PのPが泣きます。現在のシリアについてもほぼ全く同じことが言えましょう。国連という組織が今の惨状にある限り、R2Pよりは古き良き「内政不干渉」の方がずっとましです。R2Pは、現実には、他の真のagendaの隠れ蓑に過ぎません。
 一つ思考実験をしてみましょう。南アフリカに本当の革命が起こって、それがジンバブエ、ザンビア、アンゴラ、コンゴ地域などにも波及し、新しく強力な黒人国家が生まれたとしましょう。可能性はゼロではありません。南中アフリカ合衆国と名付けましょう。南中アフリカ合衆国の国会が、米国国内で公然と行われている警察当局の黒人に対する暴力行為(射殺、大量投獄)を非難し、その責任者の米国政府官僚たちを名指しで制裁を加え、南中アフリカが産出するコルタン、金、ダイヤモンドなどの地下資源の持ち出し利権を関係米国人から剥奪する法案を採択して、大統領令発令に至ったとしましょう。米国はどういう反応を示すでしょうか? 想像してください。これが私の提案する思考実験です。
 米国は世界で唯一例外の特別な国であるから、自分の気に入らない外国政権は軍事力を含む内政干渉によって打倒してかまわないと考える傲慢さ、これこそ將にヒューブリスという言葉にぴったりです。途方もないバカバカしさも臭ってきますが、限りを知らぬ彼らのhubrisは、世界核戦争ももたらしかねないとあれば、馬鹿馬鹿しいと笑っているわけには参りません。
 米国国会とオバマ大統領の、ベネズエラに対する暴挙に対して、マドゥロ大統領はヒステリックでない立派な語調のレターをオバマ大統領に送りました。

https://libya360.wordpress.com/2015/03/17/letter-to-the-people-of-the-united-states-venezuela-is-not-a-threat/

その書簡は見事な言葉で結ばれています。:

“Venezuela is not a threat, but a hope.”

この一行を、あまりにも文学的、と感じる人もおいででしょう。私は、むしろ、この一行を建国の父シモン・ボリバルから借りてきたスピーチライターの文学的なセンスと余裕を讃えたいと思います。考えてみると、一昨年惜しくも癌に倒れたウゴ・チャベスが創生した新生ベネズエラに未来への希望を託す人々の数がますます増えていること、その人たちの胸に育ちつつある“ホープ” ––Another world is possible! ––こそが、帝国主義米国にとっての最大の脅威であるのかもしれません。だとすれば、チャベスの衣鉢を継ぐマドゥロのベネズエラが米国にとっての“an unusual and extraordinary threat”だと判じるオバマ大統領のセンスは全く正常で的確と言うべきでありましょう。

藤永茂 (2015年4月8日)

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