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王族論

目覚めの寝床の中で、バルザックの「暗黒事件」を少し読んでいたら、ナポレオンの「帝政」というのがよくわからなくて、寝床の中だと調べることもできないので、あれこれ考えた。すると、(「皇帝」が治めるのが帝政なのだろうが、)皇帝とは何か、帝国とは何かもまたあいまいな感じがしてきた。ついでに、歴史用語で「王莽の簒奪」という言葉があるが、なぜ王莽だけが「簒奪」とされるのか、あるいは、ピピンだったか、「宮宰」から国王になったと記憶しているが、それがなぜ特別に「宮宰だった」と強調されるのか、などの疑問が浮かんできた。
これらを総合して考えると、「王族」とは何か、というのがおぼろげに分かる気がして、そして、日本の「天皇」は、国王でも皇帝でもない、何か特殊な在り方だな、という方向に思考が向いて行ったが、「天皇論」はまた別に考えることにして、「王族」あるいは「国王」と「皇帝」の違いについて考えてみる。何も調べないで書くので、完全な独断であり、信頼性はゼロに近いことを先に断っておく。

ひと言で言えば、「王族」とは血統である、ということだ。で、フランス革命以前の欧州のほとんどすべての国の王族は、ほぼ親戚関係だったということだ。革命後もしばらくは王族による反撃があり、それが各国の幾つかの革命を経て、現在は、王族はほぼ天然記念物的存在として、あるいは表向きは影を潜めて棲息している、ということである。
この「欧州のほとんどすべての国の王族はほぼ親戚関係である」というのが重要なのではないか。だから、彼らは一致してフランス革命を叩き潰すことに血道を上げたわけである。フランス革命は彼らにとって「王族(自分たち一族の)支配という『堤防』『城塞』を崩壊させる小さな穴」になりかねない出来事だったわけである。
この「血統による支配」というのが王政(王族支配という制度)の肝心な点で、その点で王族と貴族は完全に別の存在になるというのが私の考えだ。もちろん、王族から貴族への降嫁というのも頻繁にあっただろうが、それはあくまで「傍流」であり、いざという時の「保険」でしかないだろう。地方を支配する領主は「藩侯」と見るのがいいだろう。これは王族の末流がなることも貴族の有力者がなることもあったと思う。だが、あくまで国王には王族の血が濃い者がなるのだと思う。
だから、王族の血が濃い者がいなくなれば、「敵国」だったはずの国から、自国の王族の血縁者を持ってきて、国王にするという奇妙奇天烈なことも平気でやるのである。つまり、そこで王族と貴族が截然と区別されるわけだ。

ついでに言えば、ナポレオンは王族でないから「皇帝」になったのだろう。つまり、「自分は国王の上に位置する存在だ」と誇示したわけだ。確かに、帝国とは、諸国を征服して領土を拡大した巨大国家であり、その支配者を皇帝と呼ぶが、たとえばローマ皇帝は必ずしも血縁での相続ではない。いわゆる「同列者の長」なのである。その意味では、皇帝と国王の優劣比較は難しい。
で、ナポレオンは、確かに数度の他国との戦争に勝ったが、それは欧州を支配下に置いたということにはならない。単に敵対する存在がイギリス以外には無くなっただけで、欧州支配を組織化していないと私は思う。つまり、ナポレオン時代のフランスは、「フランス帝国」ではなかったとするなら、ナポレオンは「帝国でもない国の皇帝」という奇妙な存在になるのである。彼の支配の短命さの原因はそこ(欧州支配が制度化、あるいは実効化されていなかったこと)にもあったのではないか。自分の兄弟を各国の王にしたところで、血縁的に「あんなのは王族じゃない。貴族ですらない、賤民の成り上がりだ」と貴族や上級国民に見られていた気がする。
トルストイの「戦争と平和」の中にも、ナポレオンを軽蔑的に見るロシア貴族の姿が描かれている。これは、「自分が貴族だから」だと思う。歴史教科書の王莽やピピンへの蔑視(?)も同じ視点の反映なのではないか。

まあ、「王族支配」のメリットとデメリットなど、論じることはたくさんありそうだが、面倒なのでこれくらいにしておく。
なお、私は学校の社会科は苦手で、歴史でもまともな点を取ったことがないことをお断りしておく。だからこそ、教科書や参考書に頭を汚染されていないと逆に自慢できるかもしれない。

今考えたことを追記しておく。
「国民国家」とは、近代国家を総称的に言う言葉だと思うが、これは「国民を国の主体とする国家」という思想で、つまり特定層が国の所有者ではなく、国民全体(身分や階層を論じない)が国の所有者である「国民の国家」であるわけだ。逆に言えば、近代より前には「国民」は存在しなかった、という奇矯な考えも出て来る。一般国民は奴隷にすぎない、というのが王族や貴族の意識だったのではないか。もちろん、個別的には温良で慈悲深い君主や領主もいただろうが、それは領民からの搾取の正当化とは別の話である。


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