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ピケティがわざと言わないこと

今日も「世に倦む日々」からの抜粋転載である。
「世に倦む日々」氏は経済学についての理解が深いようで、学問的素養も本格的なようだ。いろいろと勉強になる。ただし、こちらは自分にとって興味深いところだけを聞きかじりするだけだが。
「世に倦む日々」ブログの著者(管理人氏)は、他のブログやサイトのように社会主義への闇雲な嫌悪感を持たず、右も左も冷静に批評してる。やや、社会主義寄り、か。そういう点は私に似ているかもしれない。だからこそ、こうして引用することも多いのだろう。
下記記事は最近ブームのピケティの著作(「21世紀の資本」だったか?)についての(というよりは、その解説本についての)批評だが、これを読むとピケティの著作には人々を大きくミスリードするところがあるようだ。
確かに、20世紀中盤の労働者待遇の改善、福祉政策の増進は、誰が考えても「ソ連の躍進」に怯えた資本主義国家が、自国の共産主義化(赤化)を恐れた結果だろう。一方では「赤狩り」を行いつつ、一方では労働者待遇の向上によって資本主義の優位をアピールするという「アメと鞭」である。そういう基本を(わざと)無視しているところに、この本が世界的ベストセラーになることが「許された」背景があるのではないだろうか。


(以下引用)赤字部分は夢人による強調。



以上は、竹信三恵子の要約をさらに要約したもので、ネット等の整理でも同じ中味が書かれているに違いないのだが、説明の内容に少し首を傾げる部分がある。それは、ピケティの論述に問題があるのか、竹信三恵子の要約に欠落があるのか、よく分からないが、議論全体のポイントとなるところの、20世紀の格差縮小の原因について、社会主義の要素がクローズアップされてない点だ。戦争のため、軍備に税を徴収しなくてはならず、富裕層への課税が大きくなったとか、戦争が国民を平等な方向に持って行ったという説明がされている。これは、歴史の事実とは少し違うし、米国のニューディール政策や日本の戦後改革の意味を見誤る点だろう。この時代は、ロシア革命が各国に波及することのないよう、とにかく社会主義革命を防ごうとして、各国が社会政策を充実させ、中間層を作って行ったのであり、すなわち修正資本主義の時代なのだ。何より強調されるべきなのは、ケインズ主義に他ならない。ピケティの原著の方は不明だが、なぜか竹信三恵子の要約ではケインズの名前が上がらない。この時代がケインズの時代であった一般論が確認されず、ケインズを否定するハイエクとフリードマンという経済学史の流れが出て来ない。このことは、普通の者には奇異に感じられる。マルクスとケインズという一般的な図式ではなく、マルクスとクズネッツという図式が持ち出されていて、その意図を訝る不思議な説明になっている。

1980年代以降、世界の諸国で格差が拡大していくのは、社会主義革命の危機や脅威が消え失せたからであり、資本側が労働側に遠慮することなく、規制を取っ払って自由自在に搾取できるようになったからだ。日本では、その波は中曽根政権から始まり、小泉改革で劇的な形となって現れ、製造業での派遣労働が法律で解禁されるに至る。どれほど輸出で利益が出ても、資本側は労働側に春闘で妥協することなく、賃金は上げずに内部留保に蓄えこんで行った。それに対して、総評を潰された労働側の抵抗は弱く、労働側の利益を担った政治勢力(革新)も衰退と縮小の一途を辿り、資本主義のあり方は19世紀の原初の姿に戻って行く。今度は、いよいよ残業代がゼロにされる搾取が合法化されようとしている。労働側は、20世紀(日本では戦後)に獲得した権利を次々と失い、収入を減らされ、中間層たる地位と基盤を失い、19世紀の無一物のプロレタリアへと没落させられている。これが格差拡大の実態だ。ケインズ的な、ニューディール的な、資本主義を修正させる契機が否定されて、ハイエク・フリードマン的な世界が出現したということだ。これが、新自由主義の台頭と制圧についての基本認識というものだろう。なぜ、クズネッツがそこで注目されて特筆される必要があるのか、論理と意味がよく分からない。20世紀の修正資本主義(格差是正と中間層育成のシステム)は、ロシア革命と社会主義とケインズとニューディールで説明されるのが当然だ。




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