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「平均への回帰」という知識は教育を変える

「混沌堂主人雑記」から転載。
これは素晴らしい記事である。「平均への回帰」という概念は、これまでの現場教育思想を根底から覆すのではないか。

私自身、かつて子供を教えていた時に、生徒をほめると次には成績が落ち、叱ると成績が上がるという現象を何度も体験し、「褒めて伸ばすより叱った方が伸びる」のではないか、と思っていたのだが、それがまったくの錯覚であったことをこの記事で知った。つまり、それは「平均への回帰」にしか過ぎなかったのである。
叱られて反省して頑張るとか、褒められて慢心して怠けるとかいうのではなく、単に「その生徒の実力以上の成績を取れば、次には落ちるし、実力以下の成績を取れば次には上がるのが自然だ」というだけのことだったのである。
褒めたり叱ったりは、生徒の気分を良くするか不愉快にするかの違いだけだ。それなら、いい気分で勉強するほうが不愉快な気分で勉強するよりいいに決まっている。
こういう記事を若い教師は全員読むべきである。

運動競技における罵声や体罰の意味(有効性があるかどうか)については、まだ研究する余地もあると思う。
もちろん、体罰や罵声ほど私が嫌悪するものは無いが、運動競技でそれがまったく意味が無いとは思わない。つまり、「咄嗟の反応」が必要な運動競技においては、罵声や体罰で培われた「本能的反応」「瞬間的反応」が有効かもしれないからだ。もちろん、そこには人間の尊厳は無い。動物を訓練するのと同様の訓練方法だ。だが、人間も動物である以上は、その有効性は否定しきれないと思う。
まあ、「勝つことが至上命題」であるようなタイプの部活が横行していることが最大の問題点であるのではないか、と私は思っている。そうでない部活の価値がもっと認められていい。




http://www.jcer.or.jp/column/otake/index449.html  

上記文抜粋
・・・・・・・・・
大竹文雄の経済脳を鍛える


2013年2月13日 体罰の有効性の錯覚は「平均への回帰」が理由


桜宮高校体罰と柔道全日本女子前監督

 大阪市立桜宮高校のバスケット部のキャプテンが自殺した問題から、顧問教諭が行っていた体罰が大きな話題となっている。選手が試合でミスをした際に、この顧問はその選手に体罰を与えていたという。このような体罰が行われているのは、この高校に限られたことではなかったことが、その後の一連の報道で明らかになってきた。

 しかも、このような体罰の問題は、学校におけるクラブ活動に限られた話ではないことが、柔道全日本女子の選手15人による園田隆二・全日本女子前監督の暴力行為告発で明らかになった。日本のスポーツのトップクラスの場で、体罰や暴力が存在していたということは、桜宮高校の実態が例外的なものではないということを象徴している。

 学校教育法(昭和22年法律第26号)では、第11条で校長および教員は、懲戒として体罰を加えることはできないと明記されている。最近になって決められた法律ではない。教育関係者は、この規定のことはよく知っているはずである。それにも関わらず、体罰がなくならないのはなぜだろうか。

体罰の有効性を信じる?

 それは、生徒や選手がミスをした時に、体罰をすることで、生徒や選手の能力を向上させると、多くの指導者が信じているからではないだろうか。例えば、2013年2月10日の読売新聞朝刊に掲載された日本オリンピック委員会理事の山口香氏へのインタビューによれば、園田前監督は、2012年10月下旬に行われた世界団体選手権で優勝してきた選手に対して『俺はたたいたりしたけど、ちゃんと成果がでただろ』と選手に語ったという。この発言が正しいとすれば、園田前監督は、体罰によって選手が努力して、その結果優勝できたという因果関係を信じているようだ。

 選手がミスをした際に体罰を与えることが、能力向上に効果があるという認識は日本のスポーツの指導者の間で広く行き渡っているように思える。それが、いくら体罰に対する批判が強まろうとも、体罰がなくならない背景にあるのだろう。もし、選手がミスをした際の体罰に効果はない、ということが指導者の間に知られれば、自然にこのような指導法はなくなってしまうはずだ。「そんなはずはない。ミスを厳しく叱ることは選手の能力向上に有効だ」という反論がすぐにでてくるだろう。

 そういう反論をする人たちは、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン教授の『ファスト&スロー:あなたの意思はどのように決まるか?』(早川書房)の第17章「平均への回帰―誉めても叱っても結果は同じ」を熟読すべきだ。

イスラエル空軍の訓練教官

 カーネマン教授は、この章の冒頭で、彼がイスラエル空軍の訓練教官に訓練効果を高めるための心理学を指導していた時の話を書いている。彼は、「教官たちを前にして、スキル強化訓練における重要な原則として、失敗を叱るより能力向上を誉めるほうが効果的だと力説した。この原則は、ハト、ネズミ、ヒトその他多くの動物実験で確かめられている」と訓練教官たちに講義した。ところが、講義を受けていたベテラン教官が、訓練生の場合はうまくできたときに誉めると次には失敗し、しかりつけると次にはうまくいくので、カーネマン教授の話は飛行訓練生にはあてはまらない、と発言して、叱る方が訓練には有効だ、と主張したということだ。

 これに対して、カーネマン教授は、「誉めると次に失敗し、叱ると次に成功する」というこの教官の観察は正しいけれど、「誉めるとへたになり、叱るとうまくなる」という推論は「完全に的外れ」だという。

平均への回帰

 これは、「平均への回帰」として知られる純粋に統計的な現象であって、因果関係を示すものでもなんでもないのである。どういうことだろうか。あるスポーツ選手が、何かの技を練習している途中であるとしよう。何回も練習していると選手はだんだんうまく技ができるようになるが、時としていつもの技の水準よりずっとうまくできることがある。逆に、たまたま技がうまくできないときもある。たまたまうまくいったときは、その時の実力よりもうまく行ったのだから、次にその技を行うときは、いつもの水準に戻ると予測するのが、統計学的には正しい。逆に、たまたま技を失敗したときには、次の回にはいつもの技の水準に戻ってよりよい技を発揮できると予測するのが正しいのである。誉めなくても、叱らなくても、いつもよりよかった際は、次の回は平均的には前よりも悪くなり、いつもより悪かった際は、次の回には平均的には前よりもよくなるのだ。これは、指導の成果でもなんでもなくて、純粋に統計的な現象だ。

 したがって、失敗した時に体罰を含めて厳しく叱ったら次回に成果がでるというのは、因果関係ではなく、平均への回帰が観察されているだけなのである。厳しく叱ったことで本当に成果が上がるのかどうかを識別するためには、同じ場面で叱らなかった場合と比べて、成果があがる程度が本当に異なるか否かを検証する必要がある。逆に、うまくいったときに誉めた場合に、誉めた効果があるかどうかを識別するのも難しい。誉めた次の回に、平均的に成果が下がる程度が、うまく行ったにも関わらず誉めなかった場合と比べて、どの程度小さくなるか、ということを検証する必要がある。失敗を叱るよりも能力向上を誉める方がスキル強化訓練で効果的だという心理学の研究の成果は、このような比較を行って得られたものだ。

 一方で、インセンティブの与え方として、プラスの報酬を与えるか、マイナスの報酬である罰則を与えるかという問題であれば、罰則の方がインセンティブは大きいということも知られている。人は現状を維持したいと思っているので、それが維持できないことを大きく嫌う。損失の心理的影響は、同じ額の報酬の2倍以上になるという損失回避という特徴は行動経済学でよく知られている。体罰という損失を避けるために、人々が努力するという側面はある。それが体罰の有効性と認識されることにもなるだろう。しかし、訓練して能力を身につけるという場合には、損失をインセンティブに使う場合よりも報酬をインセンティブに使う方が有効だと、心理学の実験で知られているのだ。

平均への回帰の罠に陥らないために

 科学的な比較対照実験をしないで、単なる経験からだけで体罰の成果の因果関係を識別することは非常に難しい。現場の指導者が、体罰の効果があると経験的に思い込んでしまうのも仕方ないところがある。病気に対して様々な民間療法が多く人に信じられているのも同じである。普段よりも体調が悪い時には、何もしなくても次第に体調がよくなっていくはずだ。しかし、そのような時に、本来は全く効果がない薬を飲んだり、効果のない処置を受けたりすると、あたかもそうした民間療法の効果があったように錯覚してしまう。

 経験豊富なはずのイスラエル空軍の訓練教官でさえ、平均への回帰の罠に陥っていたのだ。日本のトップクラスのスポーツの指導者が、平均への回帰の罠に陥って、体罰の有効性を信じていたとしても不思議ではない。

 だからこそ、指導者は最低限の科学的なものの見方を身につけておく必要がある。人々の意思決定における様々なバイアスを説得的に示したカーネマン教授の『ファスト&スロー』は、すべての指導者の必読書だろう。少なくとも、第17章「平均への回帰」の14ページという短い章だけでも、指導者は何度も熟読すべきである。学生や選手がミスしたときに体罰や叱責をすることはいかに意味がないことかを指導者がよく理解すれば、不幸な若者はずいぶん減るはずだ。

<文献>
ダニエル・カーネマン(2012)『ファスト&スロー:あなたの意思はどのように決まるか?』、早川書房

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