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宮崎市定の文章論

「カマヤンの燻る日記」から転載。
宮崎市定は私の好きな学者だが、私は彼の本を新刊で買ったことはない。古本としては見つけにくい著者だが、いずれ出遭うこともあるだろう。彼の「東洋史」は古本で下巻だか中巻だかの一冊だけ買ったが面白かった記憶がある。この本で、元帝国が世界の半分を征服できたことの「理屈」が分かった。歴史書を読んで、物事や出来事の「理屈」が分かるというのは実に得難い経験である。
下の記事の文章論は半分くらいは同感する。だが、書く側の事情と読む時の印象はそれほど直結的だとは思わない。単に、「気持ちよく書きたい」という、書く側の希望や我が儘にすぎないのではないかwww

記事の一番最後の「読むべかり」は転記ミスではないか。少し前にある「読むべかりけり」が正しい。「べかり」は連用形で、文末には不適である。「読むべし」なら可。


(以下引用)


2016-10-06

[]宮崎市定の文章論 22:57 宮崎市定の文章論を含むブックマーク 宮崎市定の文章論のブックマークコメントAdd StarBUNTENwatto

1

宮崎市定『東風西雅抄』に以下記述がある。これは宮崎市定の文章論だと言っていい。以下記す。


概説と同時代史


概説書ならどの時代でも書いて見せる、といった失言がたたって、罰として今まで書いたことのない近代史の部分〔略*1〕を書かねばならぬ破目に陥った。〔略〕


読者に興味をもって読ませるためには、著者がその問題に興味をもつばかりでなく、書くこと自身に興味をもって当たらなければならない。〔略〕ただし此方で面白がって話をしても、相手がともすれば居ねむりをするのと同じように、たとえ書く方が興味をもって書いた場合でも、読者が喜んで読んでくれるとは限らない。


概説を書く自信があるからといって、書こうとすることが全部頭の中にしまってあって、何でもすらすらと引き出せる、というわけにはいかない。どういうところに問題があるかの点に、大体の見当がついているだけのことである。そこで原稿を書きながら、どうしても途中でやめて調べ直さなければならぬ個所がでてくるわけであるが、それをどう処理するかが、一番の問題である。


というのは、執筆の途中で筆を休めると、文章がどうしてもそこで腰折れになる。文章を書くにはやはり、ある程度の速度が必要である。書いてはやめ、書いてはやめした文章ほど読みにくいものはない。原勝郎教授がその名著、英文『日本歴史』を書いていたときのこと、三浦周行教授の部屋にいきなりとびこんできて、応仁の乱の東軍、兵力何万、西軍の兵力何万、すぐ言ってくれ、と尋ねる。三浦教授が、ちょっと待って、今調べるから、と答えると、


見込みでいい、見込みでいい、


とせきたてたのは有名な話だが、この気持はよくわかる。本当はブランクにしておいて後でうずめればよいのだが、やはり実数を書いておかぬと書く気分がのらない。すぐ近くに尋ねられる人があれば仕合せだが、それがないときは、しばらく当てずっぽうの数を入れておく。あとで直すつもりでも、時間が経つとそれを忘れてしまって、つい大きなまちがいをしでかすことがよくある。こうしたケアレス・ミステークはそれがきわめて重要な意味を持ったものでない限りは、あんまり深く咎めないでもらいたいと思う。参考書を全部手もとへ引きよせておいて、調べては書き、調べては書きすれば、そうした誤りはなくてすむのだが、そういう本は読みものにはならない。〔略〕〔136-138p〕



読書日録 十二月十八日


〔略〕読むための本にはリズムが必要である。人類の歴史にはリズムがある。それをどう捉え、どう表現するかが、現在の私の関心ごとである。一日五枚は少し早すぎるようだが、これ位でないと、思考の流を文章のリズムに写すことはできないのだ。本を書くのはもちろん、人に読んで貰う為だが、同時に著者が自己を表現する為でもある。自己を抑えてまで、有益な本を書かねばならぬ理由もない。


書く方では興に乗って書いたつもりでも、読者のほうは、何だ詰まらない、と思うかもしれぬ。併し買ったからには読まねば損です。コンチキショ、コンチキショと唱えながら読むと印象が深くて反ってよい。狐灯の下、


  本は身銭で 読むべかりけり 〔319p〕


2

なお同書に以下のような読書論が記述されているのでそれも記す。


読書目録 一月七日


〔略〕『漢籍国字解全書』の中の「易経周易釈故」を見付けて買う。こんな大事な文献が二厚冊で只の二千五百円とは、どうしたことだろう。もっとも易経は本気になって読むべき本ではない。無理に分かろうとと思って苦心して読むと、必ず頭を悪くするとは、ある先輩からの教え。だからこれですぐ勉強に取りかかるというのではなく、何かの折の参照のために備えておくのが目的なのだ。世には難解の書が多過ぎる。君、うっかり手を出し給うな、


  本は題だけ 読むべかり  〔321p〕


東風西雅 抄 (岩波現代文庫)

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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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