自民党の中にもまともな知性と経済知識を持った人間はいるようだ。
「企業が倒産・休廃業すれば培われた技術や伝統、文化も途絶え、回復は困難です」
この指摘は、言われて初めて気が付いた。なるほど、である。企業自体の持つ「技術・文化・伝統」の価値、というのは案外大きく、「新しいものほどいい」という思想に凝り固まった現代人にはいい指摘だろう。日本の場合には無名の中小企業でも、世界的に重要な技術を持つことがあり、しかもそれが経営困難や後継者難で廃業する例が多いらしい。
安藤裕の名は、今後の「有望株」として覚えておくといいかもしれない。
(以下引用)
――恐慌到来です。
回避には、国が損失を全て補償し、生産能力や雇用を維持するしかない。表稼業はもちろん、性風俗も含めた裏稼業まで、あらゆる社会の矛盾はあるけれど、そのままキープする。そうすれば終息後はV字回復し、コロナ後の世界で日本は存在感を発揮できます。これだけ大規模な対策を打てる国は世界を見渡しても、ごくわずかです。
――どういうことですか。
条件はまず、国の経済的基盤がしっかりしていること。日本は先進国で生産能力があり、金融システムと法律も整備されています。あとは通貨の問題です。日本は自前の中央銀行があり、自国通貨建てで国債を発行できる。この条件を満たすのは他に米英両国と中国ぐらい。イギリスがEU離脱前から通貨を統合しなかったのは賢明でした。ドイツやフランスは財政規律を取り払って、特例的に巨額のコロナ対策を打ち出していますが、自国通貨で国債を刷れない以上、財政破綻の懸念は拭えません。
――独仏両国はEU加盟国の経済回復に向け、融資ではなく、59兆円規模の補助金計画を発表。これを上回る財政出動が日本にできるのですか。
可能です。極めて有利な条件にあることを、日本政府が気づいていないだけです。国の借金は「悪」で将来にツケを残すな、と唱える財政規律派はいまだに多い。財務官僚をはじめ、政治家や学者、マスコミにも数多くいます。彼らが自動的に財政出動を拒み、非常時でも「平時の政策」から抜け出せないのです。
――平成の時代から引きずっている構図です。
財務省ですら、自らHPで「先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」と認めています。私が新規国債発行の「真水」にこだわるのも、国の借金は国民の資産だからです。分かりやすい例が一律10万円給付です。約13兆円の財源は全額国債。国の負債により、皆さんの懐に10万円の資産をお配りできるのです。今、財政支出を拡大しないと、企業も雇用も守れません。
――現実には上場企業のレナウンが経営破綻し今年の倒産は1万件超、休廃業は2・5万件との予測もあります。
企業が倒産・休廃業すれば培われた技術や伝統、文化も途絶え、回復は困難です。潰さなくてもよい会社を1社でも潰せば約560兆円の日本のGDPは維持できません。400兆円、300兆円と縮小すれば元に戻るのに途方もない時間がかかる。財政出動をためらう方が、よっぽど将来世代に禍根を残します。
――「消費税ゼロ」への党幹部の反応は?
「消費税を上げるのには苦労した」と嘆く幹部が多いですね。しかし、昨年10~12月期のGDPは年率マイナス7・1%と衝撃的な落ち込みを記録。明らかに消費税増税の影響です。政府が強調した「万全の対策」は役に立たなかったと言わざるを得ません。それでも政府は今年2月まで「景気は緩やかに回復」との判断を維持した。「増税対策は間違っていた」とキチンと総括しないから、政権不信につながる。不要不急の検察庁法改正案があれだけ反対されたのも仕方ありません。
――コロナ禍以前に日本経済の土台は崩れかけていた、と。
そうです。われわれが政権を取り戻した時の最初の目標はデフレ脱却でした。もう7年半も経つのに残念ながら実現できていません。どう考えても、この間の経済政策を見直す必要がある。
――アベノミクスは失敗との認識ですか。
「始まっていない」と捉えています。金融緩和の第1の矢は打ち続けても、財政出動の第2の矢を放ったのは1年目だけ。2年目以降は緊縮財政に逆戻りし、その象徴が2度の消費税増税です。財政出動を続けていればデフレ脱却は達成できたはず。アベノミクスは原点に立ち返るべきです。
――真水100兆円と消費税ゼロは、れいわ新選組の山本太郎代表の主張と同じです。ツイッターでも「れいわに来い」と書き込まれています。
党派が違っても経済政策を突き詰めれば、同じ結論に達するのは自然なことでしょう。
――共産党の小池晃書記局長も提言に賛同しています。実現に向け与野党の垣根を越えた部分的な共闘は考えませんか。
何らかの協力はできるかもしれませんが、共闘は考えていません。日本の政策を変えるには自民党の政策を変えるのが一番早いと思っていますので。私は、緊縮派が主流だった平成の政治を終わらせたい。構造改革の加速で皆、散々痛い目に遭ったでしょう。緊縮財政で通貨供給量が増えないから、奪い合いになる。勝ち組はホンの一握りで大半は貧困化。1億総中流の昭和の成功が破壊されてしまいました。
――ムダ撲滅の事業仕分け、公共事業・公務員削減などを掲げた民主党政権も緊縮路線でした。
与野党とも緊縮派だった平成の政策は大部分が間違っていたのです。維新なんて大阪で医療機関のリストラを徹底した結果、コロナ禍で医療崩壊しかけました。敵をつくって叩いて喝采を浴びる手法は非常に危うい。
――維新こそ緊縮政党の極みですからね。
この20年、世界の経済成長の度合いで見れば日本は完全な劣等生。コロナは産業の空洞化やインバウンド頼みなど、やみくもなグローバル化の弊害も可視化させました。今の日本の対立軸は「右か左か」ではなく、「緊縮か反緊縮か」。令和の政治は奪い合いから、皆が豊かになる経済政策に変えなくてはいけません。
*インタビューは【動画】でもご覧いただけます。
(聞き手=今泉恵孝/日刊ゲンダイ)
▽あんどう・ひろし 1965年、神奈川県生まれ。87年、慶大経済学部卒業後、相模鉄道に入社。95年に税理士事務所に転職。2年後に税理士試験に合格し、独立。2012年の総選挙で京都6区から出馬し、比例復活で初当選。以来、当選3回。現在は麻生派所属。17年「日本の未来を考える勉強会」を立ち上げ、今年2月に議員連盟となり、会長に就任。加盟議員は29人に上る。
「企業が倒産・休廃業すれば培われた技術や伝統、文化も途絶え、回復は困難です」
この指摘は、言われて初めて気が付いた。なるほど、である。企業自体の持つ「技術・文化・伝統」の価値、というのは案外大きく、「新しいものほどいい」という思想に凝り固まった現代人にはいい指摘だろう。日本の場合には無名の中小企業でも、世界的に重要な技術を持つことがあり、しかもそれが経営困難や後継者難で廃業する例が多いらしい。
安藤裕の名は、今後の「有望株」として覚えておくといいかもしれない。
(以下引用)
――恐慌到来です。
回避には、国が損失を全て補償し、生産能力や雇用を維持するしかない。表稼業はもちろん、性風俗も含めた裏稼業まで、あらゆる社会の矛盾はあるけれど、そのままキープする。そうすれば終息後はV字回復し、コロナ後の世界で日本は存在感を発揮できます。これだけ大規模な対策を打てる国は世界を見渡しても、ごくわずかです。
――どういうことですか。
条件はまず、国の経済的基盤がしっかりしていること。日本は先進国で生産能力があり、金融システムと法律も整備されています。あとは通貨の問題です。日本は自前の中央銀行があり、自国通貨建てで国債を発行できる。この条件を満たすのは他に米英両国と中国ぐらい。イギリスがEU離脱前から通貨を統合しなかったのは賢明でした。ドイツやフランスは財政規律を取り払って、特例的に巨額のコロナ対策を打ち出していますが、自国通貨で国債を刷れない以上、財政破綻の懸念は拭えません。
――独仏両国はEU加盟国の経済回復に向け、融資ではなく、59兆円規模の補助金計画を発表。これを上回る財政出動が日本にできるのですか。
可能です。極めて有利な条件にあることを、日本政府が気づいていないだけです。国の借金は「悪」で将来にツケを残すな、と唱える財政規律派はいまだに多い。財務官僚をはじめ、政治家や学者、マスコミにも数多くいます。彼らが自動的に財政出動を拒み、非常時でも「平時の政策」から抜け出せないのです。
――平成の時代から引きずっている構図です。
財務省ですら、自らHPで「先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない」と認めています。私が新規国債発行の「真水」にこだわるのも、国の借金は国民の資産だからです。分かりやすい例が一律10万円給付です。約13兆円の財源は全額国債。国の負債により、皆さんの懐に10万円の資産をお配りできるのです。今、財政支出を拡大しないと、企業も雇用も守れません。
倒産企業の技術は取り戻せない |
――現実には上場企業のレナウンが経営破綻し今年の倒産は1万件超、休廃業は2・5万件との予測もあります。
企業が倒産・休廃業すれば培われた技術や伝統、文化も途絶え、回復は困難です。潰さなくてもよい会社を1社でも潰せば約560兆円の日本のGDPは維持できません。400兆円、300兆円と縮小すれば元に戻るのに途方もない時間がかかる。財政出動をためらう方が、よっぽど将来世代に禍根を残します。
――「消費税ゼロ」への党幹部の反応は?
「消費税を上げるのには苦労した」と嘆く幹部が多いですね。しかし、昨年10~12月期のGDPは年率マイナス7・1%と衝撃的な落ち込みを記録。明らかに消費税増税の影響です。政府が強調した「万全の対策」は役に立たなかったと言わざるを得ません。それでも政府は今年2月まで「景気は緩やかに回復」との判断を維持した。「増税対策は間違っていた」とキチンと総括しないから、政権不信につながる。不要不急の検察庁法改正案があれだけ反対されたのも仕方ありません。
――コロナ禍以前に日本経済の土台は崩れかけていた、と。
そうです。われわれが政権を取り戻した時の最初の目標はデフレ脱却でした。もう7年半も経つのに残念ながら実現できていません。どう考えても、この間の経済政策を見直す必要がある。
緊縮派主流の政治は全て誤り |
――アベノミクスは失敗との認識ですか。
「始まっていない」と捉えています。金融緩和の第1の矢は打ち続けても、財政出動の第2の矢を放ったのは1年目だけ。2年目以降は緊縮財政に逆戻りし、その象徴が2度の消費税増税です。財政出動を続けていればデフレ脱却は達成できたはず。アベノミクスは原点に立ち返るべきです。
――真水100兆円と消費税ゼロは、れいわ新選組の山本太郎代表の主張と同じです。ツイッターでも「れいわに来い」と書き込まれています。
党派が違っても経済政策を突き詰めれば、同じ結論に達するのは自然なことでしょう。
――共産党の小池晃書記局長も提言に賛同しています。実現に向け与野党の垣根を越えた部分的な共闘は考えませんか。
何らかの協力はできるかもしれませんが、共闘は考えていません。日本の政策を変えるには自民党の政策を変えるのが一番早いと思っていますので。私は、緊縮派が主流だった平成の政治を終わらせたい。構造改革の加速で皆、散々痛い目に遭ったでしょう。緊縮財政で通貨供給量が増えないから、奪い合いになる。勝ち組はホンの一握りで大半は貧困化。1億総中流の昭和の成功が破壊されてしまいました。
――ムダ撲滅の事業仕分け、公共事業・公務員削減などを掲げた民主党政権も緊縮路線でした。
与野党とも緊縮派だった平成の政策は大部分が間違っていたのです。維新なんて大阪で医療機関のリストラを徹底した結果、コロナ禍で医療崩壊しかけました。敵をつくって叩いて喝采を浴びる手法は非常に危うい。
――維新こそ緊縮政党の極みですからね。
この20年、世界の経済成長の度合いで見れば日本は完全な劣等生。コロナは産業の空洞化やインバウンド頼みなど、やみくもなグローバル化の弊害も可視化させました。今の日本の対立軸は「右か左か」ではなく、「緊縮か反緊縮か」。令和の政治は奪い合いから、皆が豊かになる経済政策に変えなくてはいけません。
*インタビューは【動画】でもご覧いただけます。
(聞き手=今泉恵孝/日刊ゲンダイ)
▽あんどう・ひろし 1965年、神奈川県生まれ。87年、慶大経済学部卒業後、相模鉄道に入社。95年に税理士事務所に転職。2年後に税理士試験に合格し、独立。2012年の総選挙で京都6区から出馬し、比例復活で初当選。以来、当選3回。現在は麻生派所属。17年「日本の未来を考える勉強会」を立ち上げ、今年2月に議員連盟となり、会長に就任。加盟議員は29人に上る。
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