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安倍処分が、岸田の軍国化姿勢のプレリュードだった?

副島隆彦と孫崎亨の共著「世界が破壊される前に日本に何ができるか」の孫崎亨の後書きを転載する。
「安倍処分」の意図が何だったか、私にはまだ確信はないが、その後の国政選挙で自民党が改憲可能な3分の2議席を確保した(と思うが)ことが、現在の岸田の前のめりの軍国化姿勢の前提だとしたら、議席確保を目的とした、安部射殺への「同情票」狙いだったのかもしれない。それにまんまと日本国民は嵌ったわけだ。
もっとも、今の軍国化政策はすべて閣議決定で行われており、国会に諮られていないので、議席確保のための安倍処分は本当は不要だったとも言えるが、それに怯えてマスコミは日本の軍国化への批判をまったくやっていないから、効果はあったわけだ。
孫崎の「護憲勢力批判」は、半分は正しいが、「閣議決定」で政治が行われたら、どんな護憲活動も無意味だろう。せいぜいが、国民の意識を正しい方向に向けるだけである。それはマスコミや政治家より在野のネット評論家が主にやっている。

(以下「学問道場」から転載)


=====
 おわりに   孫崎享

「武力行使反対」を唱えるだけでなく、和平の道を提示せよ
 私は今、日本は極めて危険な所に来ていると思う。もはや、「正当な民主主義国家」に位置しないのでないかとすら思う。

「正当な民主主義国家」であるためには、言論の自由が不可欠である。しかし、日本は言論の自由のある国ではなくなった。
「国境なき記者団」が毎年、世界の報道の自由度のランキングを発表している。2022年、日本は71位である。G7の国では、ドイツ(16位)、カナダ(19位)、イギリス(24位)、フランス(26位)、アメリカ(42位)、イタリア(58位)で、日本はG7の最劣等である。

 日本の周辺を見てみよう。エクアドル(68位)、ケニア(69位)、ハイチ(70位)、キルギスタン(72位)、セネガル(73位)、パナマ(74位)である。

 報道の自由度で同じような国で7カ国連合を作るのなら、日本はG7ではなくて、エクアドル、ケニア、ハイチ、キルギスタン、セネガル、パナマと作るのが妥当だ。
 なぜこんなことになっているのか。権力の圧力を、日本では、「忖度(そんたく)」という格好いい言葉で表現されているが、権力に対抗する発言を主要報道機関ができなくなっているという状況による。

 確かに日本では、言論人が殺されるという事態は少ない。しかし、彼らの発言が一般の人に届かぬように、次々と手段を打ってくる。

 いつから言論人の排斥が起こったのか。それは小泉政権(2001年4月26日―2006年9月)であろうが、2003年、安倍晋三氏が自民党幹事長になってからではないか。

 典型的な例は、マッド・アマノ氏が自民党のポスター「この国を想い、この国を創る」をパロディにして、「あの米国を想い、この属国を創る」とした時のこと。これに対して、安倍幹事長が「上記ホームページ上の本件改変図画を削除されるよう併せて厳重通告いたします」と言ったのが、外部に出た最初の事件ではなかったか。
 そうして、政府批判をする識者は次々と言論界から消えていった。

 2022年、11月29日、次のニュースが流れた。
「宮台真司(みやだいしんじ)さんは東京都立大学・人文社会学部教授で、現代社会や戦後思想など幅広い分野を論評する論客。警視庁によりますと、きょう午後4時半前、東京・八王子市の東京都立大の南大沢キャンパスで、都立大の中で男性が顔を切られた、と目撃者の男性から110番通報がありました」

 たぶん、この宮台氏襲撃事件の真相は明らかにならないだろう。だが、このような進展は当然予想された。
 政府・自民党は、反対の見解を持つ者を自らが排斥しただけではなく、世論工作でこうした人々への憎悪を掻(か)き立てる支援をした。その氷山の一角が次の報道に表れている。

「一般市民を装って野党やメディアを誹謗(ひぼう)中傷するツイッターの匿名アカウント〝Dappi(だっぴ)〟発信元企業が、自民党東京都支部連合会(自民党都連)から昨年も業務を受けていたことが、17日、東京都選挙管理委員会が公表した2022年分の政治資金収支報告書でわかりました」
〝Dappi〟のようなサイトで憎悪を掻(か)き立てられた者が、最後には殺人まで犯すのは十分予測されたことである。

 こうして言論人が次々姿を消す中、政府を厳しく非難する副島隆彦氏が生き残っているのは凄(すご)いことだ。それは確固とした副島ファンを確立したことにある。その力量には、自らの力不足を痛感するにつれ敬服するばかりである。

 そうした中、せっかくの場所の提供をいただいたので、私が今、発言したいことを次に記す。
 日本は今、国会では9条を主体に、憲法改正に賛成する勢力が3分の2を占めている。防衛費の増大を当然のことのように議論している。
 他方において、公的年金の実質的目減りを当然のようにしている。安保三文書、「国家安全保障戦略(NSS)」「防衛計画の大綱(大綱、「国家防衛戦略」と名称変更)」「中期防衛力整備計画(中期防、「防衛力整備計画」と名称変更)」が成立しようとしている。明らかに戦争をする国に向かって動いている。

 なぜこうなったのか。
 申し訳ないが、私はリベラル勢力、護憲グループの怠慢によると思う。
 平和的姿勢を貫くには、① 武力行使に反対と、② 対立があれば「平和的」手段を貫くという政策の両輪が必要である。平和的な帰結が行われるためには、常に当事者双方の妥協が必要である。
  妥協が成立するためには、過去の経緯、双方の主張、妥協点の模(も)索(さく)をなさねばならない。前者だけで後者がないとすると、どうなるか。
 
 ウクライナ問題を見てみよう。
 2022年2月28日、英国ガーディアン紙は「多くがNATO拡大は戦争になると警告した。それが無視された」という標題で、「ロシアのウクライナ攻撃は侵略行為であり、最近の展開でプーチンは主たる責任を負う。だがNATOのロシアに対する傲慢(ごうまん)で聞く耳持たぬとの対ロシア政策は同等の責任を負う」と述べた。
 
 この間、日本では溢(あふ)れるばかりのウクライナに関する報道があったが、こういう報道を知っていますか。
 日本等はロシアに対する経済制裁を主張した。しかし、これは有効に働かない(西側はロシア原油の購入を止める動きをしたが、中国、インドが輸入し、他方原油価格の高騰でロシアの石油収入は逆に増大した)。「糾弾」と「制裁」の主張は、結果として武力行使、武装の強化にいく。
 
 日本が平和国家なら、当然、和平をまず考えるべきである。日本のどの政党が、どの政治家が和平案を提示したか。
 世界を見れば、トルコ、イスラエル、インド、インドネシア、中国は和平を、ロシア、ウクライナの両国に呼び掛けた。米国統合参謀本部議長ですら、「和平で解決する時になっている」と主張している。なぜ日本は、それができないのか。

 かつて夏目漱石は日露戦争について、短編『趣味の遺伝』(1906年)の中で、「陽気のせいで神も気違(きちがい)になる。『人を屠(ほふ)りて餓えたる犬を救え』と雲の裡(うち)より叫ぶ声が、逆(さか)しまに日本海を撼(うご)かして満洲の果まで響き渡った時、日人と露人ははっと応(こた)えて百里に余る一大屠場(とじょう)を朔北(さくほく)の野(や)に開いた」と書いた。「神も気違(きちがい)になる」と表現した。
 
 同じくトルストイは「知識人が先頭に立って人々を誘導している。知識人は戦争の危険を冒(おか)さずに他人を煽動(せんどう)することのみに努めている」と書いた。

 繰り返すが、今日の政治混乱の一端は、日本のリベラル勢力、護憲勢力の怠慢による。
「武力行使反対」を唱えるだけでなく、和平の道を提示しなければならないのだ。

 2023年1月   孫崎 享 

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