四方の壁と丸天井には、鬼神竜蛇さまざまの形を描き、長櫃(ながびつ)めいたものをところどころに据え、柱には獣の首を刻み、古代の盾や剣槍などを掛け並べた部屋をいくつも過ぎて、階上に導かれた。
ビュロウ伯は普段着と思われる黒の上着の寛(ゆる)やかなものに着かえて、伯爵夫人とともにここに居り、以前から相識の仲なので大隊長と心良さそうに握手し、私をも引き合わせて、胸の底から出るような声で自ら名乗り、メエルハイムには、「よくいらっしゃった」と軽く会釈した。夫人は伯爵より老いているかのように起居(たちい)が重かったが、心の優しさが目の色に出ている。メエルハイムを傍に呼んで、何であろうか、しばしささやくうちに、伯爵は「今日の疲れがさぞあるだろう。退出してお休みなさい」と、人を使って我々を部屋に案内させた。
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