「特別な人に目を留めたものだな」と言って軽く私の肩を打った、長い八の字髭の金髪の少年士官は、同じ大隊の本部に付けられた中尉で、男爵フォン・メエルハイムという人である。「あそこにいるのは私が知っているデウベンの城の持ち主で、ビュロウ伯爵の一族である。本部の今晩の宿はその城と決まっているので、君もあの人々に交際する手がかりもあるだろう」と言い終わる時、猟兵(注:軽装備兵。機動力に富む。)が次第に我らの左翼に迫るのを見て、メエルハイムは駆け去った。この人と私が交際し始めてまだ久しくはないが、良い性格だと思われた。
寄せ手が丘の下まで進んで、今日の演習は終わり、いつもの審判も終わったので、私はメエルハイムと共に大隊長の後ろに付いて、今晩の宿に急いで行くと、中高に作った舗装道路が美しく、 切り株の残った麦畑の間をうねって、折々水音が耳に入るのは、木立の向こうを流れるムルデ河に近づいているのだろう。大隊長は四十を三つ四つ超えているだろうと思われる人で、髪はまだ深い褐色を失わないが、その赤い顔を見ると、早くも額の皺が目立つ。質朴な性質で言葉は少ないが、二言三言めには「私一個人にとっては」と断る癖がある。にわかにメエルハイムの方を向いて「君のいいなづけの妻が待っているだろう」と言った。「失礼ながら、少佐殿、私にはまだいいなづけの妻というものはありません」「そうなのか。私の言葉を悪く取らないでくれ。イイダ姫を、私一個人としては、そう思ったのだ」
寄せ手が丘の下まで進んで、今日の演習は終わり、いつもの審判も終わったので、私はメエルハイムと共に大隊長の後ろに付いて、今晩の宿に急いで行くと、中高に作った舗装道路が美しく、 切り株の残った麦畑の間をうねって、折々水音が耳に入るのは、木立の向こうを流れるムルデ河に近づいているのだろう。大隊長は四十を三つ四つ超えているだろうと思われる人で、髪はまだ深い褐色を失わないが、その赤い顔を見ると、早くも額の皺が目立つ。質朴な性質で言葉は少ないが、二言三言めには「私一個人にとっては」と断る癖がある。にわかにメエルハイムの方を向いて「君のいいなづけの妻が待っているだろう」と言った。「失礼ながら、少佐殿、私にはまだいいなづけの妻というものはありません」「そうなのか。私の言葉を悪く取らないでくれ。イイダ姫を、私一個人としては、そう思ったのだ」
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