忍者ブログ

手紙配達者(文づかい)2

「特別な人に目を留めたものだな」と言って軽く私の肩を打った、長い八の字髭の金髪の少年士官は、同じ大隊の本部に付けられた中尉で、男爵フォン・メエルハイムという人である。「あそこにいるのは私が知っているデウベンの城の持ち主で、ビュロウ伯爵の一族である。本部の今晩の宿はその城と決まっているので、君もあの人々に交際する手がかりもあるだろう」と言い終わる時、猟兵(注:軽装備兵。機動力に富む。)が次第に我らの左翼に迫るのを見て、メエルハイムは駆け去った。この人と私が交際し始めてまだ久しくはないが、良い性格だと思われた。
 寄せ手が丘の下まで進んで、今日の演習は終わり、いつもの審判も終わったので、私はメエルハイムと共に大隊長の後ろに付いて、今晩の宿に急いで行くと、中高に作った舗装道路が美しく、 切り株の残った麦畑の間をうねって、折々水音が耳に入るのは、木立の向こうを流れるムルデ河に近づいているのだろう。大隊長は四十を三つ四つ超えているだろうと思われる人で、髪はまだ深い褐色を失わないが、その赤い顔を見ると、早くも額の皺が目立つ。質朴な性質で言葉は少ないが、二言三言めには「私一個人にとっては」と断る癖がある。にわかにメエルハイムの方を向いて「君のいいなづけの妻が待っているだろう」と言った。「失礼ながら、少佐殿、私にはまだいいなづけの妻というものはありません」「そうなのか。私の言葉を悪く取らないでくれ。イイダ姫を、私一個人としては、そう思ったのだ」

拍手

PR

この記事にコメントする

Name
Title
Mail
URL
Comment
Pass
Pictgram
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

カレンダー

04 2024/05 06
S M T W T F S
10 11
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31

カテゴリー

最新CM

プロフィール

HN:
酔生夢人
性別:
男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

ブログ内検索

アーカイブ

カウンター

アクセス解析