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マルキ・ド・サドの「道徳観」

次に引用する文章はマルキ・ド・サドの「末期の対話」の1節で、サド自身の信条だったと思われる。ある意味では、私がいつも言う「社会主義的精神」の根本がここにあると思われるので引用する。で、これはすべての道徳の根本でもあり、道徳を成立させるには神も仏も不要で、理性だけで十分だ、ということ、そして他者に害を為す行為は愚者の行為にすぎない、という思想である。
さて、「われらの同胞に害を及ぼすものはけっしてわれわれを幸福にすることができない」という言葉の前に恥じないでいられる為政者や上級国民がどれだけいるだろうか。

(以下引用)

理性のみがーーそうです、神父さんーー実に理性のみが、われわれに教えてくれるはずです。われらの同胞に害を及ぼすものはけっしてわれらを幸福にすることができない、自然がこの地上においてわれらに許した最大の配与は、われらが同朋の幸福に貢献することであると、人類の全道徳は、次の一語に含まれております、すなわち、「みずから幸福たらんとせば、これを他にも施すべし」そして他より害を受けたくなければ、けっして他にも害を及ぼすな、です。

          (澁澤龍彦訳「恋の罪」河出文庫より)

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