(以下引用)
「先生、私は糖尿病ですか? インスリン治療が必要ですか? 一生ですか?」
これまでガマンしてきたことが溢れ出るように、言葉が止まらなかった。でも、先生は私の質問に対する回答をすぐにはくれず、問答が続いた。
「糖質制限」をすると血糖値が上がる?
「問診票に書いてあった糖質制限について、もう少し詳しく教えてもらえますか?」
「はい。会社の健康診断で糖代謝検査の結果がC判定でした。太ってしまったのが悪いのだろうと思い、以前に実践して体重を一時的に落とせた糖質制限ダイエットをしました。糖質を減らせば血糖値も上がりにくいから、糖尿病にもいいと思って」
「具体的に減らした食品は何ですか?」
「ご飯、パン、麺などの炭水化物メインの主食は2週間食べなかったです。いも類もほとんど食べず、甘いお菓子もガマンしました」
「主食を抜く糖質制限中に、経口ブドウ糖負荷試験を受けたということですね?」
「はい。『糖質制限をしても血糖値が高いから、糖尿病の治療が必要です』と、検査を受けたクリニックの先生に言われました」
「なるほど……」
と言ってうなずき、少し間をおいてからO先生は話し始めた。
「食後に血糖値が高い状態が続いて下がらなかったのは、主食を抜くレベルの糖質制限をしていることが影響したと考えられます。空腹時血糖値だけを見れば、現段階で坂田さんは糖尿病ではなく、薬やインスリンによる治療も必要ありません」
おどろきで言葉に詰まっていると、先生は続けた。
「糖質制限は医師も患者さまもよいものと思っていることが多く、“糖質を減らしても結果が伴わないなら薬の服用しかない”と判断されてしまうことが多いんです。坂田さんのようなケースで紹介状を持参されるのはめずらしくないんですよ」
正直よくわからない……。
誤診を引き起こした「糖質制限中」の検査
「えっと、糖質制限をすると血糖値が上がるんですか? 私が思っていたことと逆なので、混乱しています」
「その可能性があります。わかりやすいように少し乱暴な言い方をすれば、糖質を含む食品を食べなければ血糖値は上がりません。ここまでは、いいでしょうか?」
「はい」
「ただ、糖質制限をしている状態で高糖質の食品を摂取すれば、血糖値が上がっても血糖値を下げるホルモンであるインスリンの反応が遅れたり、悪くなったりします。そして、血糖値が高い状態が続いてしまいます。これが、今の坂田さんの体で起きている状態と考えられます」
だめだ、私はまだ理解が十分にできていない。
「坂田さんは血糖値を下げるために主食や甘いものをすべて抜いて、血糖値を上げない生活を送っていました。つまり、インスリンのほうも反応をしなくていい状態です。要は“サボりグセ”がついたと考えてください。この状態でブドウ糖液を一気に飲む糖負荷試験を受けたため、急激に血糖値が上がったけれど、インスリンが適切に働かずに血糖値が下がらなかったというわけです」
そして、先生は続けた。
「検査の10〜14時間前までは絶食が必要ですが、本来、検査前には糖質を150g以上含む食事を3日以上摂取することが条件なんですよ」
「えっ、そうなんですか!?」
「おそらく検査を受けるに当たって、そういったアナウンスがされていたと思うのですが……」
「とにかくやせなきゃ、糖質を控えなきゃと頭がいっぱいで、検査の受け方の詳細までよく確認しませんでした」
「そうでしたか。ただ糖尿病の一歩手前である“境界型”には該当すると思われるので、血糖値を速やかに下げられる体質を取り戻す必要がありますね」
〈先生からの処方箋〉
血糖値を下げにくい体質になるため、極端な糖質制限を続けるのは危険!
大坂 貴史
糖尿病専門医・指導医
総合内科専門医