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E.M.フォースターの言葉(続き)

(イギリスにおける「反逆煽動法」の議会成立に際して)
(この法律に対して)強い抗議がよせられたにもかかわらず、その事実は新聞でもBBCでも報道されませんでした。抗議は無駄ではなく、原案の比較的危険な条項は委員会に上程中に撤回されました。この種の法律は、政府が危急の場合にそなえて用意しておくもので、ただちに使おうというわけではありません。それにもかかわらず、効果は即座に現れます。ある印刷業者が平和主義的な児童書の印刷をことわったという噂がありました。この本が軍人の手にわたって、反逆を煽動したとされては困るというのです。この印刷業者はあまりにも臆病です。しかし、必ずこういうことになるのであって、またそれがこの種の法律を制定するときの狙いなのです。一般大衆は何となく怯えて危うきには近づくまいとするようになり、行動でも発言でも、ものを考えるにも、いつもより控えめになります。このほうが、法律を現実に行使する以上のほんとうの弊害なのであります。心理的な検閲が成立して、人類の文化遺産を歪めることになるのです。(「イギリスにおける自由」より)

酔生夢人注:官僚による心理的民衆支配の例として掲載。これは戦時中のイギリスの事例だが、現代の日本でも同様の手法の民衆抑圧は定期的に生じている。(下線は酔生夢人による)

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E.M.フォースターの言葉から

E.M.フォースターの言葉

「老人はたいてい愚かなものだが、賢いばあいでもその英知を伝えることはできない。語るのは老人の口で、聞くのは若者の耳なのだから。」(「老年について」より)

「民主主義は能率優先の体制によくあるように、国民をいばる人間といばられる人間に分けたりはしない。私が憧れる民衆とは、感受性がゆたかで新しいものを創り出したり何かを発見したりはしても、権力の有無など考えない人びとである。そしてこういう人びとに活躍の場が与えられるのは、どこよりも民主主義国なのだ。」(「私の信条」より)

「イギリスにはファシズムの危険はあまりありません。われわれを脅かしているのは、それよりももっと陰湿なものーー私に言わせれば「持久的ファシズム」とでも呼ぶべきもの、合法的な仮面をかぶった専制政治の精神でありまして、これが目立たない法律を成立させたり、局部的な圧制を是認したり、国家として秘密を守る必要を強調したり、ラジオで毎晩「ニュース」と称するものを甘い声でささやいて、ついには反対意見を手なずけたり、たぶらかしてしまったりするのです。」(「イギリスにおける自由」より)

以上、フォースター「老年について」(みすず書房 小野寺健編)から

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「天国の鍵」後書き

以上で「天国の鍵」は終わりです。
私自身、地上からあらゆる不幸を無くす天国の鍵を見つけたいと思っている人間なのですが、残念ながら政治家になるだけの能力がないので、次代の子供たちの中から天国の鍵を見つける人間が出てくれることを願っています。
ついでですが、この作品は「少年マルス」「青年マルス」という作品の世界が背景になっていて、そちらは対象年齢がやや高めに設定して書いてあります。ドラマ性という点ではそちらの方が少しは高いかと思いますが、そのうちアップしようかと思っています。

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天国の鍵71

その七十一 話は終わるが、問題は終わらない

「そうよ。だからうちの子供の名前はそれにあやかってオズモンドなの」
マチルダの言葉に、ハンスとアリーナは顔を見合わせました。いったいどうして、国を救った英雄と、国王の妹が、こんな片田舎で、だれからも知られず暮らしているのでしょうか。ロレンゾのさっきの話だけではまだまだよくわかりません。
「いずれその話は、『軍神マルス』という本になるから、それまで待ちなさい。お説教の多い『魔法使いハンス』とはちがって、血湧き肉踊る冒険の本じゃよ」
 ロレンゾはみょうな事を言ってます。なにかの宣伝でしょうか。
「それで、ハンス、この旅はお前の役に立ったかな」
ザラストがハンスに言いました。
「はい、とても勉強になりました。でも、正直言って、善と悪の意味についてはまだよくわかりません」
「それでいい。大事なのは、自分が正しいと思う事を行い、まちがったらすぐに改めて、二度と同じあやまちをしないことだ。そして、先人たちの言葉から多くを学ぶことだ。そうすれば、魔法など使わなくても、人間は自分を幸福にできるのだ。お前は、これからはふつうの人間として生きるがいい」
 ハンスはちょっと考えてしまいました。だって、苦労して身に付けた魔法を捨てるなんてもったいないですからね。
「魔法の力を捨てろとは言っていない。なるべく使うな、ということだ。魔法使いよりも賢者になるがよい。しかし、頭脳を過信して、自然をわすれてはならんぞ。昔、ファウストという博士がいて、あらゆるものを知り尽くして、それでも少しも幸福にはなれなかったと嘆いたことがある。真の賢者は、知識ではなく、知恵を求めるものだ。お前はすでに賢者の見習いにはなった。いまさら、自らの欲望だけのために魔力を求める愚かな魔法使いになってはならん」
「ザラストにしてはいい説教だ。わしも、魔法などほとんど忘れてしまった」
とロレンゾが口をはさみました。だから自分は真の賢者だ、と言いたいのでしょうか。

 さて、これで魔法使いハンスの話はおしまいです。アリーナはマルスの家で好きな動物たちと遊んだり、子供の子守りをしたりしながら楽しく暮らしています。ハンスもマルスの家で農作業の手伝いをしていますが、そのうちまたソクラトンやブッダルタのところに行って、七つの噴水のある賢者の庭をさがそうと思っています。
 もうすぐグリセリードの戦争も終わるでしょう。ピエールやヤクシーやヴァルミラが無事でいればいいのですが、たとえ戦争が終わっても、人間が自分たちのちっぽけな欲望でこの世を動かそうとするかぎり、地上の天国が現れるのは、まだまだ先のことになりそうです。でも、それを作るのは、もしかしたらあなたかもしれません。

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天国の鍵70

その七十 王族がいっぱい
 
セイルンに手を振って別れを告げ、ハンスとアリーナはマルスの家に入りました。
 すると、そこにはマチルダとロレンゾだけではなく、ハンスのお師匠のザラストまでいるではありませんか。
「おお、ハンス、無事にもどったか」
ザラストはうれしそうに言いました。
「ただいま。でも、天国の鍵は見つかりませんでした」
「いや、それでよい。ロレンゾから話は聞いた。お前は三人もの賢者に会ったというではないか。それだけでもたいしたものだ」
「その三人の中にわしは入れたかの?」
ロレンゾが疑わしげに言いました。
「いや、四人じゃった」
「ここで二度目にロレンゾさんにお会いした後、ソクラトンという人にも会いました」
「では、五人じゃな。それはすごい」
「天国の鍵は手に入りませんでしたが、天国のそばまでは行きました」
ハンスは三人に、これまでの旅の話をしました。
本当は長い話ですが、なんと言っても十歳、いや、この時はもう十一歳になってましたが、そのていどの子供ですから、ごく簡単にしか話せません。子供のこまるのは、こういう時、表現力のないことです。作者の私も、子供のころ一番苦手だったのは作文でした。
それでも、アリーナの助けを借りながらこれまでの出来事をすべて話し終えると、マチルダがアリーナに向かって、おどろいたように言いました。
「まあ、あなたはマルスの妹だったの?」
「ええ、母親はちがいますけど」
心の中には、自分の母親はグリセリードの女王なのよ、とちょっと自慢したい気持ちもありますが、もちろん口には出しません。
「でも、お願い。マルスには父親のことは言わないで。そうすると、あなたが妹だってことも秘密にしなければならないから、あなたにはかわいそうだけど」
 マチルダの奇妙な言葉に、ハンスとアリーナはびっくりしました。
「こういうことじゃよ」
 ロレンゾが、マチルダに代わって説明しましたが、それはおどろくべき話でした。なんと、あの平凡な若者にしか見えないマルスが、このアスカルファンを救った英雄だという話です。でも、それは別のお話ですから、今はこれ以上は言えません。
「では、あなたは国王オズモンドの妹さんなのですか?」
ハンスはびっくりして、マチルダに聞きました。
マチルダはにっこり笑ってうなずきました。 

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天国の鍵69

その六十九 二万メートルのダイビング

 ハンスとチャックは、空中浮遊の術を使って、山頂から飛び下りました。ハンスはアリーナを、チャックはセイルンを抱えています。(ここは、あまりに高すぎて、雲すら存在しないのです。空気はわずかにあります。科学的に言えばまちがいかもしれませんけどね)
 空中浮遊と言っても、しばらくはただ落ちているだけですから、いわばスカイダイビングですね。高度二万メートルからのスカイダイビングです。やってみたいですか? 平均時速百キロでも十二分かかりますから、たっぷり楽しめそうです。でも、本当にやったら、重力加速度のために途中から大変なスピードになって、ロケットの地上突入みたいに、空気摩擦で燃えてしまうでしょうね。
 ハンスとチャックは科学など知りませんから(実は作者もですけど)加速度も空気摩擦も関係ありません。なにしろ魔法の世界ですからね。途中からは空中浮遊の術で、落ちるスピードをゆるめて、のんびりと下降していきます。そして、雲のあるところまで来たら、セイルンは口笛を吹いて雲を呼びました。
「ちぇっ、悪魔なんかの助けを借りてしまった」
雲に四人が乗った後で、セイルンはいまいましそうに言います。
「結局、天国の中には入れなかったわね」
アリーナが言いました。
「うん、でも、いろんなことを知ったから、ここまで来てよかったよ」
ハンスは答えました。じっさい、この旅のあいだにハンスが得た物は、魔法だけではありません。アリーナやピエールたちとの出会い、五人の賢者や魔法使いとの出会い、そして、自分の中に生まれた知恵や勇気、それこそがこの旅で得た本当の宝でしょう。
「じゃあ、ぼくはここでお別れするよ。いつか人間が本当の善に目覚めるまでは、ぼくはこの世の大きな一要素でいられるわけだ」
チャックが三人からはなれて、ふわりと浮かび上がりました。
「あまり悪い事はするなよ。君とは敵になりたくないからな」
ハンスが言うと、チャックはにやっと笑って、すばやく体をアリーナに近づけ、そのほほにキスしました。アリーナはびっくりして顔を赤くしました。
「いずれまた会おう」
そう言ってチャックは手を振り、そのまま飛んで行きました。
「もうすぐカザフだ。君たちを下ろしたら、ぼくもグリセリードに帰ろう」
セイルンが言いました。アトラスト山からはアスカルファン側に飛び下りたのです。
 カザフの村が見えます。いつの間にか世の中はすっかり春になっていたらしく、ぽかぽかと暖かく、山村のカザフののどかで美しい風景が、なんだかひじょうに懐かしいものに思えます。セイルンは、ハンスとアリーナをマルスの家の前に下ろしました。
「じゃあな。戦が終わったら、そのうちまたグリセリードに遊びに来な」

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天国の鍵68

その六十八 神さまの夢

「神ならもちろん知っている。だが、私は神と人間の間にいる者だ。未来を知る力はない。そして、神でさえも、起こったことを変えることはできないのだ。それができるのは、クロキアスというもう一人の神だけだが、クロキアスがその力を使ったことはない」
「では、神は何人もいるのですね」
ハンスが聞くと、天使はにっこりと笑いました。
「いるよ。すべての民族はそれぞれの神がいる。信ずる者のいるところに神は存在するのだ」
「では、神が人間を作ったのではなく、人間が神を作ったのか?」
セイルンが言いました。
「そうとも言えるが、宇宙全体が一つの神でもあるのだ。だから、人間は神によって作られたのだ」
「むずかしくて、よくわからないわ」
アリーナが言うと、天使はこう説明しました。
「まあ、こう考えてごらん。君たちは夢を見ることがあるだろう。その夢を見ているあいだは、それは現実だとしか思っていない。そして、夢からさめれば、それは夢であって、現実とはまったくちがうと思い込む。しかし、夢を見ている間は、それはたしかに一つの現実なのだ。君たちのこの生自体が、神の夢だと考えてもいいのだ。あるいは、夢の結果と言ってもいい」
「見者とは神そのものですか?」
ハンスはたずねました。
「そうとはかぎらない。人間でも、夢に見たことを実現するという意味では、神と同等なのだ。だが、人間は自らを信ずる力に欠けている。そのために、その力はいちじるしく制限されているのだ。さあ、もう行くがいい。お前たち人間の中から、いずれ七つの噴水のある賢者の庭に行き着ける者が現れるだろう。だが、それには長い時間がかかる。人間がみずからの心を探求し、善こそが人間全体の真の利益であり、悪などはその本人にとってすらなんの利益にもならないことを理解したら、そこに地上の天国は現れるのだ。ハンスよ、お前ももう富や魔法のむなしさはわかっただろう。富も魔法も、自分の望むものを容易に手に入れさせるものだ。だが、その容易さこそが人間を堕落(だらく)させるのだ。力をつくして手に入れたものでなければ、本当の価値はわからないものなのだ」
 天使はひときわ輝きを増しました。
 そのまぶしさに、思わずハンスたちが目を閉じて、もう一度目を開くと、そこは目もくらむようなアトラスト山の山頂でした。つまり、世界のてっぺんです。
 目を上げると、一つの光が、あまりに青すぎて暗く感じられるほどの青空の中を遠ざかっていきます。きっと、あれがさきほどの天使でしょう。

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プロフィール

HN:
酔生夢人
性別:
男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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