高齢者問題の中で私が大きな問題だと思うのは、「孤独」ではなく「孤立」である。同じだ、と思う人が多いと思うが、高齢者の「孤独」つまり「ひとりでいるのが寂しい」という問題は私はさほど大事だとは思わない。それは「生きることに余裕のある人間の感じる贅沢だ」と思うからだ。そして孤独感というのは自業自得だ、とも思っている。自分で自分の心を勝手に孤独に追い込んでいるわけだ。むしろ「孤独を楽しむ」のがなぜできないのか、と不思議にすら思う。
しかし、「孤立」は違う。孤立をより明確にする言葉が「孤立無援」という言葉だ。この「助ける人がいない」ということが、これからの老人の多くにとって大きな問題になると思う。
これは高齢者夫婦でも同じである。どちらも高齢者だから、介助が困難になる。だが、それを公的にアシストする制度を作っている地方自治体はほとんど無いのではないか。中には、スマホも携帯電話も使い方が分からない、という高齢者もいるだろう。としたら、病気で倒れたら救急車を呼ぶこともできないわけである。
せめて、公的機関が定期的に高齢者家庭を見回るという制度を作るべきだろう。
(以下引用)
2018年、世界初の孤独担当大臣を置いた英国。どのような取り組みが行われているのだろうか。英国の孤独対策に詳しく『孤独は社会問題』(光文社新書)を出版したジャーナリストの多賀幹子さんがレポートする。AERA 2022年3月7日号から。
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英国の孤独対策は、慈善団体などが多くを担う。「メンズ・シェッド(男たちの小屋)」は、定年後の男性の居場所づくりだ。定年を迎えた男性はとかく孤独に陥りがち。彼らを引っ張り出して仲間とDIYに取り組んでもらう。こしらえたベンチを公園に寄付したり、出来上がった遊具を校庭に設置したりする。これまであまりなじみがなかったコミュニティーの人たちからお礼を言われ、子どもたちから感謝の手紙が届く。男性たちからは思わず笑顔がこぼれ、さっそく次の製作に取り掛かるという。
英国最大手のコーヒーチェーン、コスタ・コーヒーが乳児を持つ母親から「大人と話したい」と頼まれて始めたのが、おしゃべりテーブルだ。店内の一つのテーブルをおしゃべり専用と決め、そこでは客同士が自由に話す。当初は全国に25店用意したが、反応が良いと300店に広げた。話題は、天気についてがトップ。「雨がよく降りますね」「まったくです」から会話が弾む。
高齢者のためのNPOは、坂道を高齢者が下る試みを行った。緩やかな坂にビニールを敷き、その上に厚手のクッションを重ね、坂下りをしてもらう。あまりに大胆な企画に高齢者がけがをするのではないか、怖くて尻込みするだろうとの声が上がった。しかし、実際は坂下りを1度でやめる人はなく、2度、3度と滑りたがった。ボランティアが何度も試して、これなら大丈夫というところまで改良を重ねた努力が実った。
高齢者の夢をかなえようとする団体もある。スーパーマーケットが設置した箱に夢を書き入れてもらい、店内につるす。104歳女性の「逮捕されてみたい」との希望に目をとめたのは地元警察だった。老人ホームに赴き彼女に手錠をかけ、「これまで善良に生きてきたのが容疑です」と告げてパトカーに乗せ赤いランプをつけて周囲を走った。彼女は、「なんてエキサイティングだったでしょう」と大喜び。英国の孤独対策にお金はいらない。アイデアを出し合い、草の根の活動で孤独撲滅に立ち向かう。コミュニティーから「孤独な人」を出さない。そんな信念が伝わってくる。
※AERA 2022年3月7日号