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徳富蘇峰の「皇室中心主義」

徳富蘇峰は戦前から戦中の日本の右翼的思想の主導者のひとりと見做されていると思うが、彼の思想は私に近いものがあると思うので、読んだばかりの本から、彼の思想の一端を示す発言を転載しておく。もちろん、これは天皇が日本の君主であった時代の「皇室中心主義」であり、民主主義政体における天皇を尊重する、という私の「尊皇思想」とは違うが、思想の根底は実によく似ていると思う。

私は良く知らないが、「神兵隊事件」という事件の裁判における蘇峰の証言であるらしい。赤字部分は夢人による強調。


(以下引用)なるべく原文のままに写したが、一部はそのままの表記が不可能なので、変えた。


(裁判長)「証人はかねがね皇室中心主義を堅持しておられるということはよく解ります。証人のかねてから唱道しておられる皇室中心主義と、政党側の皇室中心主義、たとえば政友会総裁の鈴木喜三郎氏は選挙の際に皇室中心主義を唱道した、その皇室中心主義との間には、思想の根底内容において、大分違いがあるのでしょうか」
(蘇峰)「それは申上げるまでもなく、非常にちがうので、少しその違うところを申上げてよろしいのでございましょうか。……まずその思想の根底から申上げますれば、彼らは御座なりで、その時の都合でそういうことをいうのであろうとまず私は認めております。彼らがそうではないといえば、それでも差支えはありませんが、それにしても私どもの考えとは違う。
(中略)
私ははじめから決して皇室中心主義などということを誰にも教わった人間ではありませぬ。ご承知の通り、私は七十八歳でありまするからして、私の生い立つ時には、日本はもう破壊的の大混乱時代でありました。それで私は生れながらにして自由主義の空気の中に育った者である。欧米崇拝の空気の中に育って、大きくなった者である。
(中略)
それで私は、本来自由主義によって養われた人間である。それがどうして一人でコツコツ皇室中心主義に辿りついたか。どう考えて見ても、自由主義の実行ということについて考えると、自由主義をいうところの欧米人は、決して自由主義をやるのではない。自分の自由をもって他へ加える、すなわちわがまま主義、専断主義、がりがり主義であるということを深く考えた。それから博愛などということが、実際行わるべきものではないということについて、あらゆる事実に徴して、これを知ることができて、いろいろ考えて、更に日本歴史を読み直してきたのである。
(中略)
で、日本の歴史を考えてみますると、他所の国は、人民あって君主もしくは大統領がある。日本は天皇あって、初めて国民あり国家がある。それで日本の歴史は、皇室を除去すれば、歴史は書けない。およそ日本における所の大いなる仕事というものは、皆天皇が主としておやりになるか、皇族がおやりになるか、然らざれば、天皇皇族を目標として、臣民が力を致しておる。皇室を日本の歴史から抜いてしまえば、日本の歴史の魂が抜けるばかりでなく、日本歴史そのものが、まったく崩壊してしまうと、こういう風に考えた。それで日本がかくのごとく独立を保ち、かくのごとく今日まで、何等外国から侵略せられることもなく行なったゆえんというものは、畏れながら上御一人を戴くためであるということを徹底的に私は考えた。
維新の歴史を読みまするたびごとに、もし日本に皇室がなかったならば、幕府はフランスの力を借りたろうし、薩長はイギリスの力を借りたろうし、ある者はロシアの力を借りて来るというようなことで、日本は覿面に印度の覆轍を踏む。しかしながらあの場合においても、皆総てこれを忘れて、一致したというものはまったく皇室の御存在、天皇が上に照臨しておいでになるからのことであるということを深く感じたのである。それで私の皇室中心主義は、あらゆる荊棘の道を辿って、ヘトヘトになってようやく行きついて、一息ほっと吐いたのでありまして、まあここが私の安心立命の所。この皇室中心主義を私が世の中に宣揚して死んだら、私の生存したる甲斐もあると思っている次第でありまして、どうかこれだけは同一のものと(夢人注:政治家の言う「皇室中心主義」と同一のものと)御覧下さらないように、私は謹んで御願いする次第である」


(「国史会」第52号より。引用そのものは林房雄の「転向について」から。)






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