本山よろず屋本舗さんのサイトより
http://homepage2.nifty.com/motoyama/index.htm
<転載開始>
 久々に経済アナリストの増田悦佐(ますだえつすけ)氏の本を読みました。
 『いま、日本が直視すべきアメリカの巨大な病』(ワック)という本です。現在のアメリカが抱える病巣を書いた本で、いろいろ知らなかったことがありました。
 今回は、その中で私の印象に残った話題を3つほど紹介したいと思います。

 アメリカの病巣というと、まず浮かんでくるのは人種差別や所得格差の問題です。
 所得の低い黒人やヒスパニック系の住民の子供は、学費の高い私立には通えず、公立の小中学校に通うわけですが、(特に都市部では)この公立の学校が非常に荒れているといいます。また公立の教師の質も日本と比べると信じがたいほどのレベルのようです。教える側の教師が、加減乗除を論理的に説明できないというのです。
 私が驚いたのは、公立の学校には麻薬の売人が出入りして取引しているという事実です。
 これでは、まともな教育ができるはずもありません。犯罪予備軍を育てているようなものです。
 まず、アメリカの公立の小中学校の実態から紹介します。

 ・・・<『いま、日本が直視すべきアメリカの巨大な病』、p54~p58から抜粋開始>・・・

 中学校に麻薬の売人が来て取引

 所得格差の背景に人種差別があることは確実だ。偏見があるから貧しい人は貧しい仕事にしか就けなくて、ますます貧しくなる。もともと所得格差があるから偏見が強くなるのか、偏見があるから所得格差が大きくなるのか、どちらが原因でどちらが結果かというのは判断が難しいところだが、お互いに相乗効果で高め合っているのは確かだ。
 そして、この相乗効果がいったん定着してしまうと、豊かな家庭に生まれて、いい教育を受けた人は、ますます豊かになり、貧しい家庭に生まれて、あまりいい教育を受けられなかった人は、ますます貧しくなる。それが人種や民族系統によってほとんど決まってしまう。
 アメリカ社会では、教育水準、所得水準、社会的地位が生まれたときからコース分けされてしまっている。
 白人がそのコースから外れるのは、本来、高い教育水準を得られるはずなのに脱落してしまうといった場合である。
 その反対に、黒人やヒスパニックが上流階級にのし上がるのは、「こういう例もあるのだから諦めてはいけないという」といった教訓を与える程度のごく特殊な少数の例しかない。
 例えば、今、黒人の子供たちの約7割は片親世帯か、両親ともいない家庭で育っている。正確にはシングルマザーの家庭で育っている子供たちが53%、父親だけの家庭で育っている子供たちが7%、両親とも不在の家庭で育っている子供たちが9%で、両親が揃っている家庭で育っている子供たちは31%に過ぎない。これは2013年に黒人知識人たちのフォーラムとなっているウェブサイト「The Root」に、医学博士号を持つ黒人男性が投稿した記事に出ていた数字だ。当然のことながら、片親世帯や両親不在の世帯は所得水準が低い。
 アメリカで所得水準が低い家庭の子供は、小中学校は公立に行くしかない。アメリカの公立の小中学校の教育水準は極めて低い。まず教員のレベルが非常に低いのだ。
 例えば、数学の教師が加減乗除を教えるのに、なぜその答が正解になるのかを論理的に説明できなくて、「電卓を押せば、こういう答が出るから、それで正しい」で済ませてしまうようなレベルだ。それに比べて、私立の小中学校では教員のレベルもはるかに高く、かなり厳しい教育が行なわれている。
 小学校段階で、白人の中流階級以上の家庭に育ち、私立の学校に入れる子供たちと、その他大勢として大都市の教育水準の低い公立学校の子供たちとでは、大きな差がついてしまい、その後の一生が、ほとんど決まってしまうことになる。
 だから中流以上の家庭では、小学校から子供を私立に入れるのが普通である。ただし、地方都市では、公立もそこまでひどくないので、白人の中流階級でも、子供を公立の小中学校に入れることも多い。
 公立学校は、教育水準が低いだけでなく非行も多い。ジュニアハイスクール(日本の中学校)ぐらいから、校内で性行為が行なわれたり、麻薬の売人が来て校内で取引が行なわれたりするのが常態化しているほどだ。
 さらには、黒人やヒスパニックに生まれついたら、まずいい大学に入学すること自体が、困難を極める。ましてや、卒業することは不可能に近い。アメリカでは一流大学は圧倒的に私立であり、州立の一流大学の数は限られているし、日本的な意味での国立大学は存在しない。あとで詳述するように、私立大学は学業成績での格付けが高いほど授業料も高くなっているので、一流大学卒の学歴を身につけるには、莫大な金がかかる。
 そもそも、その前の段階でも公立の中学、高校では、ろくな教育を受けられないので、一流大学に入学できるような成績をとることは難しい。
 たとえ大学入学の学力があったとしても、学費が高く通い続けるのは困難だ。奨学金を受けようとしても、無利子とか、貸与ではなく給付という奨学金をもらえることができるぐらいの成績を取るのはほとんど不可能なのだ。
 事実、人種間の大卒資格保有者比率を見てみると白人の34%が大卒資格を持っているのに対して、黒人は20%、ヒスパニック13%である。
 さらに、同じ大卒資格であっても、アメリカでは資産に人種間格差がある。
 白人の間では、大卒資格のあるなしで世帯資産の中央値が6万ドルも違ってくる。しかし、黒人では大卒資格が世帯資産中央値を押し上げる効果は4800ドルにとどまっており、ヒスパニックでは4200ドルにしかならない。
 これでは、黒人やヒスパニックは、若い頃からまじめに勉強をしてもしなくても、どせ将来は貧困家庭だと諦めてしまうのも当然だ。
 一方、大都市では、子供の安全を考え、少しでもまともに教育を受けさせたいと思う中流以上の親は、無理をしてでも子供を私立の小中学校に入れる。私立に入れれば、当然のことながら、授業料も多額にかかる。私立と公立との間に存在する授業料格差は、日本よりかなり大きい。

 ・・・<抜粋終了>・・・


 ちなみにアメリカの一流大学群のアイビーリーグ(例えばコロンビア大学など)の学費は、年間4万~5万ドル(日本円で480万~600万)も掛かるといいます。この額はアメリカの中流家庭の年収に匹敵するそうです。アメリカで一流大学というのは、ほとんど私立なので、一流の学歴を持とうとすれば、4年間で2400万円もかかることになります。
 これでは、所得の低い家庭に生まれた子供は、学習能力以前にはじかれてしまいます。
 日本であれば、会社に入った後でもその人間の適正をみて、事務職から研究職に配属されるなどの例外が、ある程度は起こります。
 しかしアメリカでは厳格な学歴社会で、こうした例外はまずないといいます。
 所得による階層化が、日本の比でなく起こっている社会だといえます。

 次に紹介するのは、アメリカの庶民の生活がどんどん苦しくなっている実態です。
 折しも今月の6日米労働省が発表した10月の雇用統計は、前月に比べて大幅に改善し、失業率も低下したとなっています。これだけ聞くと、アメリカの経済は好調だと感じてしまいます。
 しかし私はアメリカ当局が発表する経済統計の数字は、そのまま受け取ってはならないと思っています。
 もちろん中国のように当局が鉛筆を舐め数字を書いているという実態よりはましだとは思いますが、結局アメリカも当局にとって都合の良い数字を並べている可能性は高いと思います。

 今年の7月、アメリカの小売業の大手ウォルマートが突然複数の店舗を閉鎖して話題になりました。
 これは米軍の大規模演習「ジェイド・ヘルム15」に関連して話題になったのですが、単純にウォルマートは全米各地で売り上げが落ちているという実態があります。
 ウォルマートは日本で言えば、イトーヨーカドーやイオンに相当とのことですが、アメリカの中流家庭では、こうしたスーパーで買うのも厳しくなっているといいます。


 ・・・<『いま、日本が直視すべきアメリカの巨大な病』、p69~p75から抜粋開始>・・・

 貧困のために100円ショップでの買い物も厳しくなってきた庶民

 サブプライムローンに端を発した世界金融危機の頃、アメリカの中流以下の人たちの生活は、所得も伸びずにインフレで物価が上がってきたことによって苦しくなってきていた。
 ここで私が「アメリカの中流層」と言っているのは、上から20%を除いて、下のほうの80%のうちの上半分ぐらい、年収で言うと日本円で400~600万円レベルのことだ。この層が今まではウォルマートで買い物をしてきたのだが、最近はウォルマートでの買い物さえ厳しくなってきている。
 アメリカ最大のスーパーマーケット・チェーンであるウォルマートは主として中国やラテンアメリカ諸国など、低賃金国で大量に作らせたものを安く売って、マーケットシェアを拡大して世界最大の小売業になった。それによって、消費者は比較的いろいろな地域から輸入したもの買うことができていた。だが、選択肢はあくまでも、原価が低くて高い利益率の取れる商品に限定されていた。
 ちなみに、ウォルマートは、すでに述べたが、日本で言えばイトーヨーカドーやイオングループといった、一般の人たちが買い物をする中流スーパーマーケット(スーパー)と言える。
 ただし、アメリカのスーパーは、日本の総合スーパーに比べると、商品のバラエティをはるかに放り込んでいる。ウォルマートは、低賃金国で作らせた安いものを売って、まずマーケットシェアを取り地域で独占する。独占してしまえば、あとは、かなりずさんな経営でやっていくといった企業体質である。
 そうしたことも影響して、アメリカのスーパーで売っている商品はかなり質が悪い。特に生鮮食料品は本当にひどい。それがアメリカの中流以下を相手にするスーパーの実態なのだ。
 アメリカ経済の中流以下レベルの人たちの経済実態はウォルマートの売り上げにストレートに出てくることになるが、そのウォルマートの売り上げが落ちてきたのだ。それは、ウォルマートで売っているものならば買えるという層の人たちの生活が苦しくなったからだ。
 その結果、ウォルマートより一段下の価格帯で売る「ダラーストア」という、日本で言えば100円ショップのような店が繁盛するという状態になってしまった。つまり、中流以下の家庭では、生活必需品や食料品もできるだけ安いところで買うようになってきたのである。
 ところが、2014年の秋頃からは、それまでどんどん店舗数を拡大していたダラーストアでさえもうまくいかずに、店舗を減らし始めた。最近では、下流向けの店さえも経営が厳しくなっているところが増えてきているのだ。
 このことは、アメリカの庶民が本当にものを買えなくなってきていることを示している。それまでならウォルマート・クラスでものを買うことができていた人が100円ショップでしか買えなくなり、そこですら買うのが苦しくなってきているというのが、アメリカ小売業界のお寒い実態なのだ。

 潰れて野ざらしにされるショッピング・モール

 おまけにアメリカを象徴するような「ショッピング・モール」が次々と潰れている。クルマ社会の進展とともに1920年代からアメリカの郊外で発展してきたのがショッピングモールだ。
 ショッピング・モールとは、ウォルマートなど大型スーパーマーケットがキーテナント(最も重要な借り手)として入って他のさまざまな店が入っている複合施設だ。殊に1950年代から60年代にかけて、郊外型ショッピング・モールは大いに発展した。ところが、ウォルマートなど大型スーパーのキーテナントが人を呼べなくなり、売り上げも伸びなくなってしまった。
 実際、アメリカ全土で、クルマで40分以内にウォルマートをキーテナントとするショッピング・モールがないという地域は、ほとんど存在しない。まず大きな店を出しておいて、競合店が太刀打ちできない安売り攻勢をかける。ついていけなくなった同業者が潰れれば、あとは地域独占で安定的な高収益をあげられるというのが、ウォルマートのビジネスモデルなのだ。だから、ウォルマートのマーケットシェアは人口希薄地帯のほうが高い。
 しかし、今や売り上げが伸びず、空室率の上昇が目立つ。空室率が30%、40%になってしまって、取り壊す費用も出せずに、野ざらし状態になったままというモールも増えている状況だ。
 アメリカの場合、大型モールでものが売れなくなって潰れていくのは、日本の地方都市の商店が店じまいしているのとは様子が少し違っている。
 日本の地方都市の場合は、人口そのものが減っている上に、鉄道の運行本数が大幅に減ったり、廃線になってしまったりして、鉄道の集客に依存していた商店街が、どうにもならなくなるという事情がある。
 アメリカのショッピング・モールは、クルマで行くのには非常に便利だが、それ以外の交通手段がほとんどないようなところに、店舗面積の5倍とか10倍の広大な駐車場を備えているのが普通だ。その背景には、1930年代頃から始まったクルマ社会化が今でも延々と続いていることがある。
 そうしたモールが潰れていくということは、今まではそこに行っていた人たちが行かなくなってきたということだ。
 その背景には、貧困層が増えて、クルマに依存せずに生活をせざるを得ないという事情がある。その結果、郊外に住んでいた若い世代が、都心部に出て来ざるを得なくなる。彼らが都心部に入れば、当然家賃の安い、それまで黒人やヒスパニックなど低所得層の人たちばかりが住んでいるところに入りこんで行く。そこで、それまでの住民との軋轢も生じることになる。
 中流の上から上の人たちは、食品についてもスーパーではなく食品専門店で買う。だから、デパートなどがキーテナントとして入っている高価格帯のモールはサンフランシスコ、デンバー、シアトルなどの高所得層住民の多い大都市周辺部では比較的うまくいっている。金持ち相手のショッピング・モールは安泰というわけである。
 アメリカのデパートについては高級品を扱っているブルーミングテールズ、サックス・フィフス・アベニューなどのようにチェーン店として規模が小さく大都市に絞りこんで、比較的所得の高い層を相手にしているところはかろうじて保っている。
 しかし、中流の人たちのためのデパートである、メイシーズ、シアーズ、J・C・ペニーなどは、いつ潰れてもおかしくない状態になっている。

 ・・・<抜粋終了>・・


 最後に紹介するのは、私が本当に驚いた話です。
 なんと、アメリカで奴隷制度そのものと思われる制度が復活している実態です。
 カリフォルニア州が制定した三振法と呼ばれる法律があります。これは前科が2回以上ある者が3回目の有罪判決を受けたら、自動的に終身刑が課されるという驚くべき法律です。3回やったら終身刑ということで、3ストライクアウトという意味で三振法です。
 建前では、刑務所は受刑者の社会復帰を促すものとされています。しかしいまやアメリカでは、刑務所は限りなく安い労働力を確保する手段となり、安定的に受刑者を送り込むために終身刑を増やす政策をとっているのです。
 終身刑となったら、個人の自由を奪われ、死ぬまで強制的に働かされます。これを奴隷制度と言わずして何と言うのでしょうか。


 ・・・<『いま、日本が直視すべきアメリカの巨大な病』、p139~p146から抜粋開始>・・・

 3回目の有罪判決を受けたら問答無用で終身刑が科される

 もう一つ、アメリカの利権社会を象徴するものに刑務所産業がある。アメリカは、刑務所の民営化をどんどん進めている。
 民営刑務所を経営する側としては、経営を安定させるために、市から委託されたときにいろいろな条件をつける。例えば「入居率がどんなに低くでも90%入居している分の運営費はいただきますよ」といった条件をつけて、それに沿った契約をする。
 市の立場としては、民営化した刑務所に9割入居している分の費用を支払わなければならない。それならば、その分を埋めなければ損だいうことになる。そこで入所者を増やそうとする。
 そんなところから出てきたのが、カリフォルニア州の三振法のような法律である。これは、死刑または1年以上の刑が科せられる重罪(州によって違う)の前科が2回以上ある者が3回目の有罪判決を受けたら、3回目がどんなに微罪であっても終身刑を科されるというものだ。
 すなわちスリーストライクでアウトというわけで、ストライク3になったら、一生刑務所暮らしというすさまじい法律である。カリフォルニア州はニューヨーク州と並んで刑務所の民営化が非常に進んでいる。
 今、アメリカ黒人が置かれている境遇を、これほど象徴している法律はない。黒人は総人口の約3分の1にもかかわらず、刑務所の入所者は、半数かそれ以上を占める。それほどに、黒人は逮捕される率も、長いこと刑務所暮らしをさせられる確率も高いのである。しかも、高卒資格のない若い黒人男性の収監率が1990年代半ば以降急増している。
 なぜかといえば、白人の場合には、一般的に豊かなので、いい弁護士を雇いやすいし、三振法のような法律があることを知るだけの教育がある。しかし、教育レベルの低い黒人の場合には、暴力犯で前科2犯になってしまうと、そのあとは警戒して絶対警官に捕まるようなことをやってはいけないという知識さえも、きちんと教えられていない人が多いからだ。
 それにしても、アメリカという国の収監人口の大きさにはすさまじいものがある。図表18の上の表を見ていただけば、総人口では約4.5倍の2位中国の170万人に50万人以上の大差を付けた、約223万人となっている。
 人種別で収監人口比率を見ると黒人の4.7%が突出して高く2位のヒスパニックとなると1.8%、白人は全人種平均を下回る0.7%だ(図表下)。


図表18 世界最大の監獄国家、アメリカ

順位 国名    収監人口
1  アメリカ  222万8、424人
2  中国    170万1,344人
3  ロシア   67万2,100人
4  ブラジル  58万1,507人
5  インド   41万1,992人
    ・
    ・
    ・

 アメリカ人種別成人男性収監率(2009年)

ヒスパニック ... 1.8%
黒人     ... 4.7%
白人     ... 0.7%
全人種    ... 1.4%

 年央収監人口網査より



 受刑者を低賃金で働かせてボロ儲けする民営刑務所

 若い黒人男性は、3度収監されたら最後、死ぬまで安い労働力としてこき使われることが多い。そして、収監人口が増えている裏には、刑務所に収容される人の労働力の問題が横たわっている。
 アメリカでは、一流企業が率先して微罪でも長期にわたって刑務所暮らしをさせられる人たちや終身刑が適用される人たちの労働力を「活用」しているからだ。
 例えば、こうした収監者を活用している企業には、アメリカを代表するボーイング、スターバックスコーヒー、ヴィクトリアズ・シークレット(セクシー・ランジェリーカタログ販売最大手)といった企業が含まれている。
 それらの企業が収監者を活用するのは普通の人の時給の半分か4分の1ぐらいの日給という低賃金で働かせることができるからだ。実際のところ、受刑者に渡る日給はわずか93セントから4ドルにとどまると言われている。日給の上限の4ドルでさえもアメリカの法定最低賃金の7ドル25セントの半分程度でしかない。しかも、受刑者は支給されるまずい食事以外の「贅沢品」は全部、刑務所内のバカ高い値段を付けた売店で買わされている。彼らの実質所得は、通常この極端に低い賃金の10分の1以下にしかならないというのが相場らしい。
 つまり、刑務所産業が企業から支払われる賃金からピンハネしているわけだ。そのためにも長期滞在してくれる刑務所暮らしの人、すなわち労働力を増やす方向になる。
 カリフォルニア州だけではなくて、今、アメリカのかなりの多くの州が「三振法」やそれに近い法律を作り、何回か暴力事犯で前科がある上でさらに罪を犯すと、刑罰を極端に重くして入所期間を長くしている。
 一度この終身刑という重罰を科された受刑者を受け入れた刑務所は、当人が死ぬまで州や市から高い入居費をもらい、異常に低い賃金で労働をさせてピンハネを続けることができる。
 それによって、刑務所産業の繁栄をはかるとともに、低賃金労働力を確保するわけだ。
 それがアメリカの製造業の復活にも貢献していると指摘する人さえいるはどなのだ。
 実際、社会経済情勢に関心の高い法律家の中には、「昨今のアメリカ製造業の復活は、受刑者たちが異常な低賃金で働かされているからこそ実現したのだ。アメリカの受刑囚を企業に貸し出すときの労賃は、中国、ラテンアメリカは言うに及ばず、アフリカ最貧国とも勝負できる水準だ。製造業復活は、刑務所運営の民営化という現代奴隷制が生んだあだ花に過ぎない」と極論する人さえいる。
 刑務所産業は、CCA(コレクション・コーポレーション・オブ・アメリカ)とGEOグループという二大大手だけでアメリカ全体の収監人口の75%をマネージしていると言われている。CCAは全米で67カ所、GEOはアメリカだけではなく海外も含めて95カ所の刑務所を運営し、その2社だけで売上は33億ドル(約4千億円)にもなる。ちなみに、CCAは1987年から1997年の10年間で売上を約1千700万ドルから約4千600万ドルへと2.7倍増やしている。
 刑務所産業は大学経営と並んで、高度成長を続けでいる有望産業である。1990~2010年の20年間で、全米の私営刑務所の数は、17倍の1600%も増加していたのだ。
 アメリカには、刑務所産業のREITがある。REITとは不動産投信の略称だが、あちこちで刑務所を経営している会社をまとめて、それを証券化して上場し、その株を売り買いしているわけだ。このREITは、かなり利回りがいい人気商品になっている。
 90%入居を保証してもらって確実な収入がある上に、実際に入居している受刑囚から労賃をピンハネして収入があるのだから、儲かって当然だ。
 ちなみに、図表19を見ればわかるように、ニューヨークの民営化した刑務所の一人当たりの年間の費用総額は16万8千ドル(約2千16万円)で、それを日割りにすると5万5千円にもなる。一泊5万円とは、一流ホテル並みだ。もちろん専有面積はベッド一つだけで、実際のコストはそんなにかかるわけではないので、ボロ儲けということになる。


図表19 アメリカの刑務所お1人様1年間のご宿泊料
     受刑者1人当たりの1年間の費用総額

・2010年時点での全国平均 .......... 2万8323ドル
・2012年時点でのニューヨーク市内の施設 ... 16万8千ドル(内6万ドルはアメリカ国民の税金)
・ハーバード大の年間授業料 ........... 4万16ドル

 ・・・<抜粋終了>・・・


 上記の記事の中で補足したい部分があります。
 受刑者に支払われる日給は最高でも4ドル(480円)といいます。この4ドルはあくまでも日給で、記事で比較されているアメリカの最低賃金の7ドル25セント(870円)は時給です。これからも、恐ろしい薄給であることがわかります。
 三振法で感じることは、アメリカ社会は、ここまで劣化してしまったということです。貧しく社会の最底辺を構成する階層の人間には、基本的な人権など存在しないということです。こうした政策を取るアメリカ政府が、中国を人権問題で攻撃することは、滑稽というほかありません。

 三振法とは内容が違いますが、私は終身刑で刑務所に囚われた主人公が、自由を求めて脱獄する映画、「ショーシャンクの空に」を思い出しました。


(2015年11月8日)