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深淵に見返された人間の目

粗暴犯の顔というのはだいたい判別できるもので、年齢とは無関係にやはり粗暴な顔をしている。そしてそれは犯罪者か、まだ犯罪をしていない人間かには関係がない。
知能犯の顔は判別が難しい。罪を犯す以前は普通人でやや知的な顔、というだけだ。ただ、学歴の高い人間が知的な顔をしているわけでもない。それより、知的な職業(詐欺師とかww)歴が長い人間に知的な顔が多いようだ。
などと書いたのは、人間の顔によってその人間性を判別することが可能か、という問題を考察しようという意図である。というのも、今読み始めたばかりのジョセフィン・ティの「時の娘」の話の始まりが、主人公の刑事が病気療養の徒然にふと見た肖像画のリチャード三世の顔に惹きつけられ、これは世間で言われているような極悪人の顔ではない、と考えるところから始まっていると聞いているからだ。そこで、私も、その文庫本の表紙に載っていたその肖像画を眺めて、その人格判断をしてみようと考えた次第である。
私が見た感じでは、その顔は悪人の顔と言うより、何か性格の弱さを感じる顔である。強い欲望から意志的に悪事を行うのではなく、「これをやる必要が自分にはある」という思い込みで、悪事をやる感じの顔だ。つまり、自分の思想に精神が占領されてしまう人間、という感じで、いわば「罪と罰」のラスコリニコフ的な顔である。描かれた当人がこの肖像画の顔と同じなら、この絵描きはかなり優秀な画家だろう。対象の外見だけでなく精神まで描いたのだから。「時の娘」の主人公の刑事がこの肖像に惹かれたのは当然である。
ちなみに、その肖像画で特徴的なのはその目である。何かを見ているようで見ていない。見ているのは自分の精神の中の何かだ。


(追記)今、先ほど読み止めた箇所の続きを読むと、そこにこういう記述がある。リチャードの目についての意見は(私が下線を付けた部分に関して)私とティ女史は一致していたようだ。

「一見したところでは、その両眼はいかにも凝然とこちらを見据えているかのようであるが、なおよく見れば、じつはそれは内にこもった、ほとんど放心状態と言っていいような眼つきであることがわかるのだった。」




King Richard III.jpg
リチャード3世
在位1483年6月26日 - 1485年8月22日
戴冠式1483年7月6日


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