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good morning と old sport

「偉大なるギャッツビー」を(もちろん翻訳で)読んでいて、途中でギャッツビーの発言を翻訳者が「おはようございます」と訳していて、少し不思議に思って、英語には基本的に敬語は無いだろうし、特に「おはよう」と「おはようございます」の違いは無いのではないかと思って原書を調べると、やはり普通の「Good morning」であり、その後に「Sir」などを付けているわけでもない。
これは、訳者が、ギャッツビーの口調の馬鹿丁寧さを日本語に出すための工夫だろうとは思うが、まあ、その程度の工夫は普通である。
英語というのはある面不思議であり、「good morning」とは、誰にとって、どういう意味で「良い朝」なのか、私などは気になる。雨が降っていても台風でも良い朝なのか、挨拶された当人の状況が最悪(たとえば親族に死なれたばかり)でも「良い朝です」と挨拶するのか。かと言って「bad morning」と言うわけにもいかないだろう。まあ、おそらくこれは短縮された祈願文で「あなたにとって今朝が、そして今日が良い朝であり良い日でありますように」の意味なのだろう。

で、二番目の問題。この「good morning」に続けて、ギャッツビーは相手に「old sport」と呼びかけるのだが、これがまた大問題なのである。私が読んでいる本の訳者はこれを、この場面では訳していないし、かなり前の、語り手とギャッツビーが初対面する箇所でも訳していない。これは親しみを籠めた呼びかけらしいが、ギャッツビー独特の言葉として有名なようだ。確か、「ライ麦畑でつかまえて」でも、語り手(主人公)が「偉大なるギャッツビー」は割と好きだ、と言った後、ギャッツビーのこの口癖に言及していた。訳は「旧友」だったか「親友」だったか忘れた。

今、この言葉について調べて最初に見つけたコラムがわりと詳しいので、転載する。ただし、その意見(「貴公」という訳。あるいは「お前さん」という訳)に私は同感していないし、コラム名も忘れた。まあ、とりあえず私なら「あなた」と普通の敬語で訳す。これは下の引用文に出て来るトム・ブキャナンのような大金持ちで傲慢な男には「敬意が足りない」と激怒させる程度の敬語だろう。長屋の熊さん八さんやそのおかみさんのような「お前さん」では、ギャッツビーの過度の丁重さがかえって周囲の侮蔑を買っていることと合わない。人間は、こちらが下手に出ると増長する生き物なのである。「貴公」など、時代劇かよwww


(以下引用)

スコット・フィッツジェラルド(F. Scott Fitzgerald)④

  • 2011-09-16 (Fri) 10:13
  •  
  • 総合

 ”The Great Gatsby” の中でギャッツビーは “old sport” という呼びかけを多用している。何と訳せばいいのだろう。この作品は若者に人気のある作品だけに今なお新訳が刊行されているようだ。確か村上春樹氏の新訳本ではあえて日本語に訳することはせず、「オールド・スポート」と記していたような記憶がある。これも一つの訳し方だとは思うが、それでも、「日本語」としては意味をなさない呼びかけであることに変わりはない。
 私が使っている電子辞書の英英辞典にはこの表現は「主に男同士で親しい間柄で使う呼びかけ」と紹介されている。「マイフレンド」といった表現では不十分なようだ。私は何となく「お前さん」という表現が頭に浮かんだ。夫婦関係で使われる「お前さん」ではない。ある程度の親しい関係にあり、使う方が多少なりとも年長、優位な立場にある時に使われる「お前さん」だ。例えば、ギャッツビーがニックに向かって次のように言う時は、「お前さん」がぴったりとも思えないでもない。“If you want anything just ask for it, old sport.” (欲しいものは何なりと声をかけてくれ、お前さん)null
 「お前さん」という呼びかけはそう呼ばれることに相手が不快感を抱くような場合は使えない。”old sport” が「お前さん」と「似ているかな」と思ったのは、恋敵の金持ちの男、トム・ブキャナンがギャッツビーからこう呼ばれて激怒するシーンに出くわした時だ。
 “Don’t you call me ‘old sport’!” cried Tom. Gatsby said nothing.(「俺のことを『お前さん』などと呼んでくれるな!」とトムは叫んだ。ギャッツビーは何も答えなかった) 
 この応酬の前にも、トムとギャッツビーの間で次のようなやり取りがある。
 “That’s a great expression of yours, isn’t it?” said Tom sharply.
 “What is?”
 “All this ‘old sport’ business. Where’d you pick that up?”
 
 「それはあんたのすげー表現だな。思うに」とトムはとげとげしい口調で言った。
 「え、何がだい?」
 「さっきからあんたが口にしている『お前さん』って物言いだよ。いったいどこで覚えてきたんだい?」
 
 この旅を始めてからも多くの場所でアメリカの人たちに、この表現について尋ねてみた。誰もが認めるのは、意味は分かるが、もう誰も今はこんな表現などしないということだった。さらに、もし誰かがこういう呼びかけ仲間内でしているのを耳にしたなら、「あいつ、なんだか気取った物言いをしているな。偉そうに」と思うかもしれないということだった。
 ギャッツビーがあえてこの呼びかけに固執したのは、当時のイングランドの上流階級のような物言いをすることで、自分の貧しい出自を「薄め」、周囲に「成金」と思われたくないという思惑があったからではないか。
 私の現時点での結論は “old sport” は「貴公」と訳すべしだ。
 




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