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醜悪な事大主義に汚染されたネット世界

「日経ビジネス」から小田嶋師(新コロ関係以外では「師」である)のブログの後半を転載。
さすがに卓抜な着眼というか、指摘である。自分に降りかかった膨大な悪口ツィートを見事に分析し、そこから現代社会の精神的病症を現前化している。
なお、小田嶋師に批判リプライや批判的RTを寄越した人間は自民党工作員が大半だとは思うが、本気で書いている精神的奇形児もけっこういるかもしれない。つまり、事大主義がもはや当人のアイデンティティになっている人間がかなりいるのではないか。
昔から「弱きを助け、強きを挫く」が正義の味方だったのだが、今は強き(権力の座にいる悪党)を助け、弱き(不正によって苦しむ人々)を挫(くじ)くという下種が大増殖し、当人たちはそれが恥ずかしいとも思わないわけだ。

(以下引用)一部を除き、赤字と太字は夢人による強調。


『はらぺこあおむし』をめぐる騒動が起こる2日前、私は、
《大阪にある日本一の高層ビルは「あべのハルカス」という名前だったのだな。春も終わったことだし、そろそろ「あべのカス」に名称変更したらどうだろうか。午後1:05 - 2021年6月7日》


 という不出来なパロディまがいを発信した。


 これに対する反応がなかなかビビッドだった。
 6月17日の正午現在で、直接の返信(リプライ)が268件、引用付きRTが398件届いている。ざっと見て、内容的には8割が単純罵倒だ。つまり、500件ほどの罵詈雑言が押し寄せた勘定になる。


 興味深いのはそれらの返信の内容だ。
 一番多いのは
「おもんない」
 というごく単純な感想だ。
 たぶん、これだけで6割くらいになる。
 これに
「センスない」
「面白いつもりなのか?」
「こういうネタを書いて得意になってる自分がみじめにならないのか?」
 といった感じのツッコミが続く。
 ほかには、
「ハルカスは春ではない。晴れるの意味だぞ。知らないのか」
「春が終わったら夏やろ」
 式の理詰めの指摘や、
「阿倍野への地域差別なので通報しました」
「全大阪人を敵にまわしたな」
「近鉄に訴えられろ」
「近鉄本社にスクショ送っといたで」
 という感じの恫喝が合わせて3割ほどあった。


 意外だったのは
「安倍さんに失礼じゃないか」
 という反論がほぼ見当たらなかったことだ。
 書き手が暗示したそのままの読解に従って反応するのは、狙い通りすぎて不愉快だということなのかもしれない。


 印象深いのは、
「おもんない」
 という方言が、この分野では標準の言い方になっていることだ。
 もうひとつ、笑いについてやたらと
「センス」
 という言葉を持ち出したがる人々の存在も強く感じた。
 彼らにとって
「お笑い」
 は、そんなにごたいそうなものなのだろうか。


 結論を述べるなら、私の「あべのハルカス」ネタは、たいして出来の良いパロディではなかった。このことは、私自身、よくわかっている。
 しかし、問題は、単体のネタの出来不出来ではない。
 私が憂慮せずにいられないのは、風刺、パロディのみならず、批判的な言説一般が、ひとっからげに全否定されつつある21世紀のこの国の空気だ。
 おそろしいことに、私たちが暮らしているこの国では、どんな対象へのどんなタイプの言説であれ、「批判的」なスタンスから発言される言葉が、批判的であるというそのことを理由に総攻撃の対象になっている。


 というのも、誰かをケナしたり、何かを批判したりするものの言い方は、内容がどうあれ、人として発言する際のマナーとして、根本的に
「失礼」
 で、
「下品」
 であると、即断されて、二度と顧みられないからだ。


 「あいちトリエンナーレ」への、集団リンチの帰趨を昨年からの時系列で振り返ってみれば明らかな通り、21世紀のインターネットは、モグラ叩きみたいな調子で特定の対象を攻撃する際の自在な足場として機能している。


 ここで重要なのは、リンチの被害者が特定少数の個人である一方で、リンチを主導しそれに参加しているのが不特定多数の匿名の顔無しである点だ。
 要するに、危険に晒されているのは、むしろ批判者の側なのだ。


 オールドメディア経由で発信される批判的言説は、それをネットメディア経由で受け取る無料購読者によって袋叩きにされる。
 一方、リアルな社会で暮らす特定の個人による実名での批判は、ネット上に蟠踞する不特定多数の匿名のネット民によるバーチャルな手段を通じたリンチの対象になる。
 つまり2つの異なった次元において、「批判的言説」および「批評的知性」は無効化されつつあるわけだ。


 このことは、上位者への批判としての「風刺」がリンチの対象となる一方で、下位者への攻撃である「イジり」が、「お笑い」として共有されている現状をそのまま反映しているのだと思っている。


 不愉快な結論になった。
 こういう時にこそ、パロディが必要なのだが、自己パロディほどみじめなものはないので自粛しておく。
 来週はもう少し体調が良くなっていると思う。そうなればこっちのものだ。
 また来週。


(文・イラスト/小田嶋 隆)

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