『マルチ商法』と『ねずみ講』は、どちらもある販売組織の会員が甘い言葉で組織外の人を勧誘し、次々と会員を増やしながら連鎖的に販売取引を行っていくという共通点があります。
しかし、ねずみ講は明確な犯罪であるのに対し、マルチ商法はさまざまな規制を掛けられているものの、一応は合法です。
マルチ商法とねずみ講の合法・非合法を分ける要素は、どこにあるのでしょうか。
それぞれの違いを説明すると共に、マルチ商法やねずみ講の被害に遭わないための方法を紹介します。
ねずみ講はなぜ違法なのか
“ねずみ算”とは、多産で知られるねずみの増え方に例えた和算の一つで、このねずみ算になぞらえた違法ビジネスのことを、ねずみ講と呼びます。
アメリカ生まれといわれるねずみ講は、1970年代に日本でも大きな被害を引き起こしました。
『無限連鎖講』とも呼ばれる通り、会員が無限に増えていくという特徴があり、最終的にはシステム自体が必ず崩壊します。
ねずみ講は、親会員が組織外の人を勧誘することで2人以上の会員を作り、その2人以上の会員がそれぞれまた2人以上の会員を作って、その会員がまた2人以上の会員を作って……というようなピラミッド構造で成り立っています。
取り分などは組織によって異なりますが、自分が会員にした人から受け取った会員費の一部は自分に、残りは自分より上の階層の会員に流れることになっており、親を頂点に上の会員であればあるほど儲かる仕組みです。
つまり、紹介者が増えるほど自分が儲かる仕組みになっているため、ねずみ算と同じように、倍々ゲームで会員数が増えていくのです。
ピラミッドが小さい時期は、うまく回るかもしれませんが、人口は有限であることや入会を拒む人がいることを踏まえると、無限に会員が増え続けることはありません。
必ずいつかは破綻し、大勢の子会員以下に大きな経済的損失を与えます。
このことから、1979年に無限連鎖講防止法が施行され、ねずみ講は完全に禁止されました。
ねずみ講を開設または運営した者には、3年以下の懲役か300万円以下の罰金、もしくはその両方が科せられます。
また、ねずみ講の勧誘を行っただけでも20万円以下の罰金が科されます。
マルチ商法は合法だが禁止事項も多い
一方で、マルチ商法は、特定商品取引法で連鎖販売取引に分類されている合法のビジネスです。
連鎖販売取引(法33条)には、以下の定義があります。
1.物品の販売(または役務の提供など)の事業であって
2.再販売、受託販売もしくは販売のあっせん(または役務の提供もしくはそのあっせん)をする者を
3.特定利益が得られると誘引し
4.特定負担を伴う取引(取引条件の変更を含む)をするもの
たとえば手口としては、ある販売組織の会員になれば健康食品を安価で購入できるうえ、友人を販売員になるように誘ってその健康食品を売れば、売上の一部や紹介料で儲けることができるといって、次々と紹介者を増やしていくケースが多いようです。
このことからもわかる通り、マルチ商法とねずみ講の最大の違いは、販売する“商品”の有無になります。
ねずみ講では自分が勧誘して入会した人の会員費が自分や上のメンバーに分配されていくのに対し、マルチ商法は実際に会員が商品を販売して、売上を得ることで組織が成り立ちます。
マルチ商法にはさまざまな方法がありますが、親会員から子会員が売値の数割引の会員価格で商品を購入し、その子会員が別の人間を「会員になると会員価格で商品が購入でき、商品を売値で売れば儲けられる」と勧誘する方法が一般的です。
子会員は孫会員の成績に応じて、得られる収入やグループ内でのランクが上がっていくことになります。
ねずみ講と同じピラミッド型のビジネスですが、自分が収入を得られるのはひ孫会員までなど、収入にできる会員の階層が決まっています。
また、販売力があれば孫会員やひ孫会員でも先に入った会員を追い抜くことができるため、商品が流通している限り、健全に働くシステムであるという点が、違法と判断されない要因になっています。