11月22日に行われた大阪府知事選の投票所で、47才の会社員の男性が、70代男性に暴行を加えたとして逮捕された。投票を終えた会社員に「ご苦労さんです」と声をかけたところ、「ご苦労さんという言葉は、目上の者に使う言葉ではない」などと言って激高したという。


「ご苦労」を辞書で引いてみると「他人の骨折りを労う語」という意味もあり、決して失礼な言葉ではないようだ。しかし、暴行事件をも引き起こしてしまった──。中央学院大学非常勤講師の倉持益子さんは言う。


「ご苦労さまという言葉は、江戸時代から昭和半ばまで、上下関係を気にせず使える便利な労い言葉として、広く使用されていました。その変遷を昭和初期から2010年までの言葉遣いやマナーの本で調査すると、1970年代から、わずかに目上を労うことに疑問が表れ始めますが、おおかたは地位の上下に関係なく職場環境をよくする言葉として紹介されています。


 1980年代には、目上に“使えない”とする本と“使える”とするものが交じり合い、1990年代では、“上司にはお疲れさまのほうが適している”に変化。2000年代になると、ほぼすべてが“ご苦労さまは目上に対して失礼”という記述になりました」


『正しい日本語の使い方』(エイ出版社)などの著書がある、予備校講師で作家の吉田裕子さんに聞いた。


「言葉自体に問題はないのですが、上司が部下を労う時に使用するイメージが強くなり、目下の者から目上の人への呼びかけは失礼に感じるようになりました。そんな空気のなか、“使わないほうが無難だ”という風潮が広がったのです」


「ご苦労さま」と同じく、たびたび論争を巻き起こすのが「お疲れさま」。上下関係、時間帯に関係なく社内の挨拶として使える“万能語”のため、多くの人がこの言葉を使う。


 しかし…。


「朝からお疲れさまと言われると“まだ疲れていない”と言いたくなる」(金融・32才)
「遊んだ帰り際に言われると、楽しくなかったのかなと邪推してしまう」(主婦・40才)


 などといったネガティブな意見も。また、今年7月にはタモリ(70才)が番組の中で「“お疲れさま”は本来、目上の者が目下の者にかける言葉」というような発言をしたことも話題になった。そんな「お疲れさま」について、前出の吉田さんの見解はこうだ。


「“お疲れさま”は“ご苦労さま”と同じく、相手の行動に対して“よくやった”と評価をしているように聞こえやすい。たとえば仕事のフォローをしてくれた上司に“お疲れさまでした”というのは適切ではありません。こういう時は“助かりました”、“ありがとうございました”など状況に応じた言葉が必要です。いついかなる場合も使える“魔法の言葉”ではないという認識は必要だと思います」


 最近では「お疲れさま」に代わる言葉として、「こんにちは」「お元気さまです」といった独自の挨拶を推奨している会社もあるという。


※女性セブン2015年12月17日号