【12月1日 時事通信社】天皇陛下は皇太子だった1964年にタイを訪れた際、当時のプミポン国王に食料不足対策としてティラピアの養殖を勧めた。ティラピアはその後、タイの食卓に欠かせない国民食となり、外国にも輸出。タイでは、国の経済を支えるほどまでに定着したティラピア導入のきっかけをつくった陛下の退位を惜しむ声が広がっている。


 魚類学者でもある陛下はタイの風土に合うティラピアを紹介。プミポン国王は翌65年に日本から贈られた50匹を宮殿で1万匹まで繁殖させ、国内に広めた。

 中部サムットサコン県クラトゥムベーンでティラピアの養殖を手掛ける女性経営者ナツダ・ジャンバンヤンさん(29)は陛下の退位決定に驚きつつ、「ティラピアはタイの気候にぴったり。紹介していただいて、とてもありがたい」と話す。


 ナツダさんの養殖場では以前は主にエビを扱っていた。しかし、エビは病気に弱く、経営が安定しないため、2013年にティラピアに転換。餌にバナナを混ぜるなどの工夫を施し、体長約1センチで仕入れた稚魚を半年で体重約1キロの肉厚のティラピアに育てている。


 ナツダさんは10年に11カ月間、長野県松川町の農園で研修を受けた。農畜産物を加工して販売することで、収入を安定させるノウハウを習得。この経験を生かし、ティラピアを卸売市場に納入するのではなく、養殖場で加工している。養殖場の前にはティラピアの塩焼きや蒸し魚のほか、味付けして冷凍した干物が売り物として並ぶ。


 ティラピアは1匹150バーツ(約520円)前後で販売。1日の売り上げは平日で7000バーツ、週末は1万5000バーツにもなる。


 ナツダさんは「ティラピアは病気にならず、飼育しやすい。タイ料理に合い、タイ人は大好き」と語り、プミポン国王にティラピアを勧めた陛下への感謝の言葉を繰り返した。(c)時事通信社