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のんの稀有な才能と努力

「虎哲徒然日記」というブログから転載。
少し古い(と言っても、まだ一か月もならないが)文章だが、埋もれさせるには惜しい文章なので、ここに保存しておく。


(以下引用)

2016年11月23日

のん(能年玲奈)の演技にまたも大絶賛

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またしても彼女の演技が、日本中の人々を揺り動かしている。
「この世界の片隅に」の感想で非常に目立つ、というよりもほぼすべての感想が、のんの声の演技にふれ、絶賛している。これは異例のことであろう。主人公の北條すずに、ぴったりはまっている、というのである。あの「あまちゃん」で絶賛を浴びた彼女は、しかしその演技については、たまたまあの役がはまっただけだという評価も根強かった。その後は、周知のとおり事務所側の理不尽な仕打ちにより、映画2本、テレビドラマが単発1本で、そもそも評価をくつがえすどころか、そのためのチャレンジすらさせてもらえない状況だった。

1本で彼女は評価を覆して見せた。一度ならまだしも、二度「はまり役」といわれる評判をとるのは、それはもはや偶然とは言い難い。「役が乗り移ったような(憑依)」という評価も多数である。ただし、本人は「憑依」と言われることについては違和感を持っているようだ。

インタビューなどの発言をみているとわかるが、彼女は台本を読み込んで、しっかりと役作りをしてから作品に臨んでいる。もちろんそんなことはどの俳優もやっていることにちがいないが、はまり役にあたることはそうそうないし、酷評をくらうこともまた珍しくなく、駄作が量産される。それは、台本の問題の場合もあるし、俳優の演技力の問題の場合もある。

彼女はおそらく、演劇理論の基本的な素養を持っていて、それを基盤に役作りをやっているふしがある。その手法をわかりやすくいえば、「自分と共通する部分を役の中に探し、それをふくらませる」というものである。要するに本人が人格的にもともと持っている部分なのだから、役と本人がシンクロし、実在するかのように見せることができる、というわけである。「憑依」というのはある意味まったく別人格になるということだから、これはこれで名俳優の手法としてあるのだが、彼女はそうではないらしい。

「この世界の片隅に」でいうと、北條すずはおっとりした女性で絵を描くのが好きである。この原作の設定はのん本人ともともと近いものがあり、「共通する部分」は見つけやすかっただろう。ただしすずは結婚もするし、戦争にも巻き込まれるし、そこはまったく共通しない。そこで、すずという役柄を解釈する必要が出てくる。

原作者のこうの史代氏は、すずは18歳だが大人として描いたつもりだという。夫に別の女性の影がみえれば嫉妬するし、どこかひねくれたところもあるが、そうした女性が理想の大人へと成長していく話として原作を組み立てた。しかし映画では、遊郭の女性との交流エピソードが落ち、すずの大人としての側面が弱くなっている。この辺の違いについては、のん本人が原作とのセリフの違いなどをその意図についてすべて確認した、としている。ではすずという人物をどう組み立てるか。

すずは絵を描くことが大好きな、子どもっぽい部分を残した女性であり、それが突然嫁に行くことになって、その部分を残したまま大人になっていかざるを得なかった、と解釈する。夫婦生活や、家事、そして戦争の惨禍を経て、彼女は痛みを伴いながら大人へと成長したのであると。「共通する部分」を役に入れ込んで、そしてふくらませる。いわば自分に役を引き寄せていった。原作よりもすずの精神年齢を意図的に引き下げたともいえる。

もう一つ。のんは作品の原作を読んだときに、ある芸術作品を思い浮かべたという。それはフランスの芸術家・アルマンの作品「ホーム・スイート・ホーム」というガスマスクを一面に敷き詰めた作品で、戦争が日常化していることに対するアンチテーゼを表現したものである。その作品を手掛かりに、「戦争が日常に割り込んできた」感覚を大事にした、としている。

そのほかにも、監督を質問攻めにしたことを語っており、監督はそれにすべて付き合ってくれたという。その相互作用の中で、絶賛される演技が出来上がった。

日々の芸能ニュースは、タレントが面白い発言をしたとか恋愛観がどうとか、そういうレベルの話ばかりを扱っていて、役者やエンターテイナーが日ごろどういう作業をしているかを紹介していない。だが活字メディアは、まだしもインタビューなどでそういう部分を紹介している。もし好きな芸能人、気になる芸能人がいたら、その人はどういう努力をしているのか参照すべきだろう。

そう考えるとき、のんのようなレベルで俳優として取り組んでいる人が果たしてどれだけいるのか、特に若手でどれだけいるのだろうか、と気になってしまう。「あまちゃん」で聞こえた評価を聞く限り、非常に珍しいタイプの俳優なのではないか。2013年末に当ブログで書いた、彼女の出現は「事件性がある」というのは正しかったと思い始めている。

そしてそんな大絶賛の中を、写真にみられるような恰好で現れ、楽しそうにしている。この稀有なキャラクターを、使わないでいるのはもったいないを通り越して愚行だと思う。この人とどんな面白い企画ができるかな、と考えたくならないなら、エンタメに関わるのはもうやめた方がいい。


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