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少年騎士ミゼルの遍歴 45

第四十五章 潜入

 オランプを故郷の町に帰した後で、ミゼルとピオはリリアに神の武具を預け、シズラ城へ潜入するために隠れ家を出た。
 シズラの町は、まだ完全に夜ではないが、雪降りのために暗い。町を歩む人もほとんどいず、ミゼルたちは兵士たちに誰何されることもなく、容易にシズラ城までたどり着いた。
 シズラ城は、ピオの言った通り、山を背景にして立っている古城であった。大きな石を重ねた城壁が厳めしいが、城壁の周りには水濠などはない。そして、城壁の四つ角には物見塔があって、そこから番兵が城壁の上を歩いて見回りをしているのが見られた。しかし、その手にしたランタンのためにこちらから兵士の姿が見えるのに対し、兵士の方からは、自分の近くに来た者以外は、ほとんど見えないはずである。しかも、兵士たちの動きは機械的であり、城壁の一方から一方まで歩いては、物見塔に戻るだけである。その間には、およそ十分の間隔がある。
「番兵が戻り掛けた時に壁を登り始めよう。なあに、このくらいの壁なら簡単だ」
 ピオは、物見塔に兵士が戻った時に、城壁の上にフック付きロープを投げた。案の定、城壁の上に落ちたフックは、積もった雪のために音もたてない。
 番兵がもう一度巡視に出て、戻り掛けた時を見計らって、ピオは城壁を登り始めた。ほんの一分で登り終え、素早く城壁の引っ込んだ角に身を隠す。
 ピオは、続いてミゼルを引き上げた。
 次に番兵がやってきた時、ピオは物陰から彼に飛びかかって、その首を締めた。頸動脈の血の流れを止め、気絶させる。
 ピオは、素早くその兵士の服を脱がせ、自分の服と着替えた。兵士は縄で縛り、猿ぐつわをして物陰に転がしておく。
 兵士の身なりをして悠然と物見台に近づいていくピオの後方から、ミゼルは物陰に体を隠しながら後を追う。
 ピオが物見台に入ると、もう一人の番兵が石炭を入れた簡単なストーブで手をあぶっていた。交代要員の番兵だろう。
「異常なしか?」
 相手が問うのに、マフラーで顔を包んだピオは頷いて答え、もう一度ストーブに顔を向けた番兵に近づくと、その首の後ろに手刀を叩き込んだ。
 番兵は、うっと声を上げて気絶した。
「地下牢は、この物見塔の下だ」
 ピオの言葉に、ミゼルは頷いた。いよいよ父に会えるという期待感で、彼の胸は高鳴った。
 物見塔の階段を降りていく。階層ごとに横に通じる回廊があるが、人の姿はまったくない。城壁には、それぞれの物見塔の、見回り当番の兵士しかいないのだろう。
 やがて物見塔の最下段に来た。薄暗く湿った地下室である。ピオの手にしたランタンの光に驚いて、大きな鼠たちがキィと声を上げて穴の中に姿を隠す。あたりには、埃と黴と腐敗した汚物の匂いが漂っている。胸が悪くなりそうな悪臭である。
 その部屋の一方に、頑丈な扉があった。ここが地下牢だろう。扉には錠がかかっている。牢の錠は、この当時は外からかんぬきを下ろすだけであるのが普通だが、これは鍵で開ける錠だ。ミゼルは途方に暮れた。実は、このような錠を見るのは初めてなのである。
「任せておけ」
 ピオはミゼルに片目をつぶってみせると、腰に付けた小さな革袋から、先が曲がった一本の細い鉄の棒を取り出した。ピオがその棒を鍵穴に入れて動かすと、カチリと音がして、錠が開いたのであった。
「こういう時に泥棒というのは役に立つのさ」
 ミゼルは扉を開いて中に入った。中は真っ暗である。
 ミゼルはピオから受け取ったランタンを目の前に掲げて、室内を照らした。

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仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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