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風の中の鳥 12

第十一章 アクシデント

 昼食を終えて道を歩き始めた三人は、前方から来る乗馬の一団に気づいた。
 その五人の一団は、狐狩りをしている貴族の子弟らしいとフリードはすぐに見て取った。中で最もきらびやかな服装をしているのが貴族で、後はその家来だろう。
 彼らはフリードたちの前で馬を止めた。
「おい、お前らはどこの者だ。ここはカロヴィング家の領地だ。余所者が、無断で通行する事は許されぬ」
 五人の中の中心らしい、へちまのような顔をし、口髭を生やした若者が横柄な口調で言った。その間も、彼の目は好色そうにマリアをじろじろ眺めている。
「怪しい奴らだ。エルマニア国の廻し者かも知れません」
 家来のむさくるしい顔の髭男が言った。
「殺してしまいましょう」
「いや、わしはその娘が気に入った。下女に使おう。その娘を置いていけばここを通る事を許そう」
 若者の言葉にフリードが答える前に、ジグムントが大声で答えた。
「断る。どうせ女を慰み物にするつもりじゃろう」
「この老いぼれめ。大人しく渡せば無事に済むものを。かまわん。こいつらを斬り殺せ」
 若者の言葉で、家来たちは馬から下りてフリードたちに歩み寄った。
 まだ馬に乗っているフリードとジグムントは、顔を見合わせ、頷き合った。
 ジグムントの手が腰の剣に触れたかと思うと、あっという間に、自分の馬を貴族の若者の馬に走り寄せ、その首を切り飛ばした。若者の首は、ころころと道に転がり、きょとんとした顔をして止まった。
「こいつら、若君を殺したぞ!」
 家来たちは、思いがけない事態に、悲鳴のような声を上げた。
「斬れ、斬れ! 斬り殺せ」
 もう一人が叫んで、剣を抜いてフリードの馬に走り寄った。
 フリードは剣を抜いて、馬上からその男の肩に斬りつけた。男は、「うわっ」と叫んで倒れた。
 その間に、ジグムントはもう二人倒している。
 残った一人は、馬に飛び乗ってこの場から逃げようとした。フリードは馬の横腹に結びつけてあった弓を取り、逃げていく男に向かって矢を射た。矢は男の背中に突き立ち、男は馬から転落する。
 ジグムントは、地面に転がっている四つの体を調べて、注意深く剣で息の根を止めた。
「わしらが下手人だと知られてはまずいからの」
 目をそむけるマリアに向かって、弁解するようにジグムントは言う。
「金目の物は持ってないようだ。剣と馬と服くらいじゃ。さて、しかしこいつらの持ち物を売るとわしらが下手人だと分かってしまう。もったいないが、捨てていくことにしよう」
「これは何ですかね」
 フリードが、主人らしい若者の懐を探って、一枚の封書を取りだした。
「手紙のようだな。しかし、わしは字が読めん」
「僕もです」
 フリードとジグムントは、困ったように顔を見合わせた。
「私が読めますわ」
 マリアの言葉に、フリードはその手紙を彼女に渡した。
 マリアは、その紙を広げ、読み上げた。
「前に申し上げた通り、いざという時に我が方のためにお働き頂ければ、アストーリャ、モントーリャ、エデール三郡の領主任命を確かにお約束申し上げる。この手紙は、他言無用のこと。
ジルード殿へ。H」
 マリアが読み上げるのを聞いて、フリードとジグムントは再び顔を見合わせたが、今度は驚きのためであった。
「これは、裏切りの約束のようだな。このカロヴィング家は、王家の縁戚だが、それが国王を裏切ろうとしておるようだ」
「どうしましょうか」
「放っておくさ。これを王に知らせたところで、信じては貰えまい。我々がこのカロヴィングの馬鹿息子を殺した罪に問われるだけだろう。それよりも、いよいよ戦が近いようだな。我々が名を上げる好機かもしれん」
「それにしても、この男は、なぜこの手紙を廃棄せずに持っていたのですかね」
「戦が終わった後で、約束の履行を迫るためだろう。口約束で相手を裏切らせて、事が終わると約束を反故にするのは、戦ではよくあることだ」
「もしかして、わざわざ手紙に書いたのは、もしもこの手紙が国王の手に渡ったら、フランシア国に内紛が起こるかもしれないと期待してですかね」
 ジグムントは、ほほう、という顔でフリードを見た。
「お主、なかなか賢いな。おそらくそうだろう。Hというのは、エルマニア国の国王ヘンリックだろうが、つまり、エルマニア国にとっては、どっちに転んでも損はないわけだ」
 フリードは、自分の身近に、国家的事件が起こっていることに、胸が高鳴るのを覚えた。そのため、マリアとの事で鬱屈していた心が、だいぶ軽くなるように感じたのであった。

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酔生夢人
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男性
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仙人
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考えること
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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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