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軍神マルス第二部 2


第二章 ダイモンの指輪

 ジョンが部屋に入ってきて、マルスに客だと言った。
マルスは不思議に思いながら、玄関の大広間に出て行った。
 そこにマルスを待っていたのは、ロレンゾであった。前に会った時と変わらず、逞しい体に、鋭い眼光をしている。彼は微笑んでマルスを見た。
「久し振りだな、マルス。わしを覚えているか」
「ロレンゾ、ですね」
「うむ。お前に頼みたいことがある」
「何でしょう」
「実はな、お前にある敵を倒してもらいたいのじゃ」
「敵ですって?」
「魔物じゃよ。やがてアスカルファンに大きな災いが起こる。その前に、お前に魔物を倒して貰いたいのじゃ」
「私に魔物を倒す力があるでしょうか」
「お前はダイモンの指輪を持っておるではないか」
「えっ」
マルスは驚いて自分の手にはめていた指輪を見た。
王妃から貰った宝石の中で、もっとも地味で無価値そうに見え、宝石商も安い値しかつけなかったので、王妃の志の記念として一つだけ自分のために残した指輪である。
よく見ると、その金属は銅でも真鍮でもなく、貴金属でもない。表面には不思議な記号と、見た事もない文字が彫られている。
「その指輪はな、それを持った人間の潜在力を引き出す力があるのじゃ。それだけではない。言い伝えが本当なら、その指輪は悪魔をも従わせる力があるという。しかし、それには呪文を唱えねばならぬが、その呪文は誰も分からぬのじゃ」
「その呪文を知る方法はないのでしょうか」
「そのためにお前に旅をして貰いたいのじゃ。わしも一緒に行く。魔物はきっと我々を襲うはずだ。お前一人では、人間ならともかく、魔物は相手に出来ないからな」
「どこへ、いつ?」
「行く先は、南の砂漠じゃ。賢者アロンゾが書き残した書物が南の国ボワロンの神殿にあるはずだ。それを盗み出す。出発は早いほどいい。ぼやぼやしておると、魔物ばかりか、グリセリードも再度この国を襲ってくるぞ。まあ、わしには国の存亡などより、世界が悪魔に支配されるほうが、ずっと恐ろしいがな」
マルスはすぐさま二階に上がっていって、これからすぐ旅に出る事を告げた。マチルダは立ち上がって、
「私も一緒に行くわ。いいえ、止めても無駄よ。マルス一人では行かさないわ」
と言った。
 困ったマルスがロレンゾにその事を告げると、ロレンゾは意外にもうなずいて言った。
「いいじゃろう。愛する者を後に残して、それが気に掛かっていては、精神は集中できないものじゃ。それに、愛の力は精神を高めるものじゃからな」
 オズモンドは宮中の仕事は抜けられず、トリスターナは、かえって足手まといになりそうだと、今回の旅は遠慮する事になった。
「マチルダ、マルスたちの足を引っ張るなよ」
オズモンドがマチルダに注意したが、マチルダは、
「あら、私だって役に立つわよ。第一、男ばかりだったら、誰が料理や洗濯をするのよ」
と、意気盛んである。
オズモンドは側のジョンに、
「あいつ、料理や洗濯ができたっけ?」
と小声で聞いたが、ジョンは
「お嬢様がやったのは見たことがないですなあ。そんな仕事なら、メラニーかジョアンナでも連れて行けばいいのですが、お嬢様はやきもち焼きですからな」
と答え、少し弁護の必要を感じたのか
「お嬢様育ちの割に、足が達者ですから、それほど足手まといにはならんでしょう」
と、付け加えた。
 オズモンドは、マルスに、前に山中の隠者から貰った剣を渡した。
「これを持っていけよ。僕よりもマルスにこの剣はふさわしい」
マルスは有難くその贈り物を貰った。
マルスとマチルダが階下に下りていくと、ロレンゾは不思議そうにマルスを見た。
「その剣は?」
「以前にアルカードの山中で、ある隠者から貰った剣です」
ロレンゾは、その剣を手にとって懐かしそうに言った。
「ガーディアンではないか。この剣と再び遇えるとはな」
「この剣を御存知ですか?」
「勿論じゃ。命より大事な剣だったが、わしが賭けに負けてシモンズにやったものじゃよ」
「何の賭けです?」
「なに、酒の飲み比べじゃよ」

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酔生夢人
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男性
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仙人
趣味:
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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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