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我が愛のエル・ハザード 3

第三章 ロシュタリア宮殿

 森を出ると、そこにはなだらかな起伏の丘と草原が広がり、丘の下には麦畑のような畑が広範囲にあって、その間を街道が通っていた。そして、そのはるか彼方には大きな町らしい集落が見えたが、遠目にもその町が異国の町であることははっきりと見て取れた。
 近づいていくに連れて、その町の中心にある宮殿の建物の姿ははっきりとしてきたが、それはまるでアルハンブラ宮殿か、昔のペルシャの宮殿のような建物であった。幾つかの塔を持ち、塔の屋根は丸く、赤、青、金色のスレートか金属で覆われているようである。
 真と藤沢の二人は、宮殿に着くとすぐに国王へのお目通りを許された。
 二人が驚いたことに、国王はまだうら若い女性である。
「ルーン王女様でございます」
 二人を連れてきた男が小声で二人に言った。
 ルーンと呼ばれた王女は、真を見て驚いた顔になった。
「きれいな人ですねえ」
 真は王女に頭を下げながら、隣の藤沢に言った。
「うん、そうだな」
 藤沢は簡単に答える。この男は、自分は女性には縁が無いと決め込んでおり、そのためあまり女性には関心が無いのである。
「あなた方は、異国から参ったのですか? それとも、ヤジールの申すように、異世界から来たのですか?」
 ルーン王女の言葉は、他の男たち同様、真と藤沢の心に直接話し掛けられた。
「はい、実は私たち自身も、自分たちがなぜここにいるのか分からないのです。ここは、何と言う国ですか?」
「ここはロシュタリア、この世界全体は、エル・ハザードです」
 真と藤沢は顔を見合わせた。どうやら、自分たちが来たのは、単なる外国ではないらしい。すると、いったい自分たちは元の世界に帰れるのだろうか。
 藤沢が事情を説明しても、王女は理解できないような顔であったが、二人が怪しい者ではないことは信じたようである。
「ところで、そちらの少年は、名前は何とおっしゃるのですか?」
「僕ですか? 水原真、いいます」
「ミズハラ・マコトですか。では、マコト殿、あなたはパトラ王女と何か関係があるのですか?」
(また、パトラ王女のことか。一体、何なんやろ)
 真は心の中で思ったが、それだけで、すぐにルーン王女は首をかしげて言った。
「そうですか。パトラの事は何も知らないのですね。実は、あなたにお願いがあります」
 二人は謁見の間から王女の個室(それぞれ二十畳くらいの、三間続きの豪華な部屋だ)に連れていかれ、内密に話を聞かされた。その場にいたのは、ルーン王女以外には王女の護衛らしい長い赤毛が特徴的な女騎士と、理知的な美人だが冷たい顔をした女性と、王女の侍女らしい小柄な可愛い娘の三人だけである。
「紹介しておきましょう。この三人は、あなた方のお役にきっと立ってくれるでしょう。こちらは、王室警備隊長兼国王親衛隊長のシェーラ・シェーラ」
 赤毛の女性が軽く頷いた。年齢は二十歳前後だろうか、それより、もう少し若いかもしれない。体の線がはっきりした、ボディコン・スーツ風の騎士服もすべて派手な赤で、しかも、その騎士服の下は、見事な脚線美を露出した大胆なミニスカートである。顔色は健康的な小麦色で、可愛いが、利かん気の少年のように頑固で喧嘩早そうな顔つきだ。
「こちらはロシュタリア幕僚長のアフラ・マーン。優れた法術士でもありますわ」
 理知的な顔の女性が、真と藤沢に冷たい目を向けたまま、軽く頭を下げた。年齢はシェーラ・シェーラと同じくらいで、鉢巻風のヘアバンドに、全身を隠した青いエアロビクスタイツ風のスタイルだが、こちらもプロポーション抜群である。
(法術士? 何だ、そりゃあ)
 真と藤沢は同じことを考えた。
「法術士をご存知ない? あなた方の世界には法術は無いのか?」
 その女性は、少し気を悪くしたように言った。
「いやあ、我々の文明は、どちらかというと物質的な科学の発達した社会でありまして、そうしたまやかし、いや、そのう魔法のようなものは、すべて迷信として途絶えてしまっているのですよ」
 藤沢の言葉に、アフラ・マーンはそっぽを向いた。
「まやかしかどうか、今に分かる」
 相手の機嫌をすっかり損ねた事で、藤沢は困って頭を掻いている。
「私は、アレーレと申します。パトラ王女様付きの侍女でございますが、私のいない間に、王女様が大変な目にお遭いになって、もう、私の責任だと悲しんでおります」
 十四五歳くらいに見える小柄な侍女は、舌足らずな声で、ぺらぺらと喋った。この世界の言葉のようだが、意味はそのまま真たちの心に伝わった。声とテレパシーが同時に行なわれたのだろう。
「これ、アレーレ、そうペチャクチャ申すでない。……真殿、藤沢殿、話は今アレーレが申した通りです。実は、妹のパトラが行方知れずになっています。しかも、三日後にはパトラの成人の儀が王宮で行なわれることになっており、諸国の国王たちがすでにこの地に向かっています。今さら、式を延期にするわけにもいかず、困っていたところです。で、お願いと申すのは、今から三日間、真殿にパトラの影武者を勤めて頂きたいということでございます」
「王女、こんな得体の知れない奴らにそんな大事な役を任せていいのですか? こいつらが失敗したら、ロシュタリア王家にとって、取り返しのつかない大変なことになりますぜ」
 シェーラ・シェーラが乱暴な口調で言った。これがこの娘のいつもの話し方らしく、王女もそれを咎める様子は無い。
「それ以外に手は無いのです。成人の儀は王家の男女の十八歳の誕生日と定まっております。パトラの誕生日は知れ渡っており、成人の儀式に式に出られなかった者は、神の祝福を受けられないと信じられていますから、この儀式を欠席することは、パトラの将来にとっても良くないでしょう」
「しかし、この事が後で世間に知れたら、同じじゃないですか?」
「パトラ王女さえ無事に戻れば、この儀式についての疑惑なぞ、問題にはならない」
 アフラ・マーンが冷たい口調で言った。
「お前が、早くパトラ王女を探し出せば済むことだ」
「何を、この野郎! 俺が何もやってないとでも言うのか」
「二人とも、やめなさい! アフラ殿、シェーラ・シェーラは一生懸命に働いています。しかし、王女の失踪は世間には隠されていること。捜査にも限界があるのです」
 ルーン王女が間に入って、二人は喧嘩をやめたが、お互いにそっぽを向き合っている。どうやら、この二人は相当に仲が悪いらしい。
 王女にとんでもない申し出をされた真は、あきれて呆然としていた。この自分に女の役をやれだと? そりゃあ、自分は子供の頃から女の子のように可愛いと人からは言われてきたが、中味は十分に男だ。女の役なぞできるか。
 しかし、ルーン王女の訴えるような目を見ると、真はそれを断ることはできなかった。この気の弱さ、あるいは優しさが、彼の欠点なのか長所なのか、どちらかは分からない。
「分かりました。そんなに僕がパトラ王女に似ているんなら、影武者役を引き受けましょう。でも三日間だけでっせ。それでよろしいんなら、やります」
「有難うございます。あなた方のお世話は、このアレーレに何でもお申し付けください」
 真と藤沢は王女の前から退出して、与えられた居室(パトラ王女の部屋らしい)に案内された。そこで二人はやっと一休みすることができたのであった。

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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
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