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我が愛のエル・ハザード 4


第四章 影武者

「いやあ、豪華な部屋やなあ」
 真は周りを見ながら声を上げた。一流ホテルのスイートルームもかくや、という豪華な部屋である。部屋の大きさは先程のルーン王女の部屋と同じ、二十畳くらいで、壁には様々な壁画が描かれている。その一つの前で真は足を止めた。
 美しい、若い娘の絵である。しかし、その顔は真そっくりなのだ。
「それがパトラ王女様でございますわ。本当に真様そっくり」
 アレーレにそう言われても、真には嬉しくはない。女に似ているなどというのは、男にとって褒め言葉にはならないだろう。
「しかし、どうしたものかなあ。何とかして、元の世界に帰らにゃあならんが、その手が見つからん」
 藤沢はベッドに腰を下ろして途方に暮れたように言った。
「そもそも、ここは地球なのか、それとも他の星なのか、それさえも分からん」
「多分、地球やないですか。だって、周りの人間はみんな普通の人間やもん」
「しかし、地球には、ここに来る途中で俺たちが見た、あんなでっかい蟻はいないぞ」
「蟻って、バグロムの事ですか? へえ、よく無事でしたねえ。普通の人間じゃあ、バグロムに襲われたら、無事じゃあすみませんよお」
 アレーレが興味津々といった顔で口を出した。かなり遠慮の無い性格のようだ。
「その事やがな。藤沢先生、ここに来て、異常な力の持ち主になっているらしいんや。ねえ」
 真は藤沢に同意を求めたが、藤沢の方は何か考えているらしく上の空である。
「ああ? ああ、そうだな。ところで、アレーレさん、ここには、そのう、アルコールはないのかな。あったら、少し飲んでみたいんだが」
「アルコール? ああ、お酒ですね。ありますよ。ロシュタルのお酒はおいしいんで有名なんですよ。今、持ってきますからね。その間にお風呂でも入ったらどうですか。もし、お背中を流す侍女が必要なら、おっしゃってくださいね。あ、それから、私の事はアレーレと呼んでください。アレーレさん、なんて言わないで」
 アレーレは頭を下げて部屋を出て行った。気は良さそうだが、お喋りな娘である。
「先生、お酒、あんまり飲まんほうがええんとちゃいますか?」
「まあ、そう言うな。少しアルコールでも入れんと、こんなおかしな話は考えられん」
 間もなくアレーレが盆に酒瓶と銀のゴブレットを載せて戻ってきた。
「真様もお飲みになりますか?」
「いやあ、僕は未成年やから」
「そうですかあ? じゃあ、藤沢様、どうぞ」
「おっ、すまん、すまん。後は手酌でやるからかまわんでください」
 藤沢はゴブレットの酒の匂いを嗅いだ後、それを一息で飲み干して「くはあっ、うめえ」と声を上げた。
「酒なんて、何がおいしいんやろ」
「まあ、お前も大人になればこの味が分かるさ」
 藤沢は立て続けに酒を飲み、顔が赤くなった。
「ところで、さっきの話ですけど、藤沢様は、本当に武器も無しでバグロムたちをやっつけたんですか?」
「ああ、すごかったでえ。こう、ばったばったと、な」
「へえ、見たいですねえ、その力」
「先生、アレーレがそう言ってますけど、先生の力、ちょっと見せてくれませんか?」
「ああ? いいぜえ。よし、見てろよお。こんな置物くらい、ちょちょいのちょい、と。あれ?」
 部屋の真ん中にあった女神像らしい二メートルほどの高さの石像を持ち上げようとした藤沢は、予期に反して持ち上がらない石像にあわてて、やっきになったが、石像はただ傾いただけである。
「あっ、危ない、先生、倒れる!」
 次の瞬間、藤沢は石像の下敷きになって気を失っていた。
「おっかしいなあ。これくらいのもん、持ち上げきれないなんて」
「藤沢様の力って、本当なんですかあ?」
 アレーレは疑わしそうに真を見た。
「本当、のはずなんやけどなあ」
真は困って、誤魔化し笑いをするだけである。

真は、藤沢をベッドに寝かした後、アレーレに王宮やこの国の話を聞いた。この世界には、ロシュタリア以外にも幾つかの国があるが、その中でロシュタリアは最大の国らしい。と言っても、人口はせいぜいが百万からニ百万の間のようだが。文明は、高度に発達した精神的文明らしく、人々はテレパシーで意思を通じあっている。中で精神的に優れた人間は、精神エネルギーを物質的な力に変換させる、いわゆる法術が使えるらしい。
「それのできるのは、神官たちと貴族や王族の一部だけですけどね」
とアレーレは言っている。
「へえ、見てみたいもんやなあ。魔法使いなんて、話だけかと思っていたけど」
「魔法って言うと、何かいかがわしく聞こえますよ。これは人間の精神能力の発達したものなんです。真様の世界の科学と同じです。我々のご先祖様は、もっと素晴らしい能力を持っていたらしいんですけど、その能力が仇になって、世界が滅び、その文明の記憶はほとんど残っていないんです。でも、王室の言い伝えや、神殿の記録の中に、少しは残っているようですけどね」
「古代の言い伝えだと?」
ベッドに寝ていた藤沢がむっくりと体を起こした。
「先生、起きていたんですか」
「おい、真、もしかしたら、そいつの中に、時空を越える秘密があるかもしれんぞ。そいつを見つけたら、元の世界に帰れるかもしれん」
 アレーレは肩をすくめた。
「あんまり、期待しないほうがいいと思いますよ。それより、真様は、パトラ様の影武者でドジを踏まないように、これから特訓です。いいですか、覚悟してくださいよ」

 翌日一杯、真はアレーレから特訓を受けた。パトラ王女の服を着て、パトラ王女のように振舞う訓練である。スカートをはいた真は、下半身に何とも頼りない感じを味わっていた。
「真さまあ、そんなに大股で歩いちゃあ困ります。もっと楚々として、シナを作るんですよ。もっとも、パトラ様って、あんまりおしとやかじゃあなかったけど」
「ところで、トイレはどないしよう。この格好じゃあ男の方には入れないはずやし」
「儀式が終わるまで我慢してください」
「儀式はどのくらい続くんや?」
「まあ、半日くらいですかね。もしかしたら、一日かかるかも」
「そんな殺生な」
「言葉のほうは、あまり喋らなくてもいいはずです。儀式の後、宴会がありますが、疲れたとか言って部屋に引っ込んだらいいと思いますわ」
 アレーレの言葉通り、儀式は半日続き、その後宴会が開かれた。
 儀式の間、真は必死で女の子らしく振舞っていたが、その甲斐あって、諸国の招待客たちは彼をパトラ王女と信じて疑わない様子であった。しかし、その中でただ一人、彼に疑惑の目を向けている男がいた。
 その男は、ルーン王女の婚約者、ガレフである。美しいブロンドの長髪に、彫りの深い美しい顔の青年だが、自分を見るその目に真は何か不快なものを感じていた。
「パトラ王女がここにいる? そんなはずはない」
 呟いたガレフの後ろに立っていた冷たい顔の美少年が、背後からガレフに囁いた。
「あの者は、偽物です。正体を暴きましょうか? 」
「いや、いい。パトラ王女の脳波を調べるのにはまだ時間が必要だ。かえって、パトラが健在だと思わせておいたほうが都合がいい」
 パトラ王女としての真の演技は、他の客たちに対しては通用したようである。 

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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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