忍者ブログ

「魔群の狂宴」14



・風はあるが、良く晴れた初冬の日。郊外。
・乗馬して野原を行く、理伊子と力弥。地面には雪が残っている。

理伊子「軍人さんは乗馬もお上手ね」
力弥「理伊子さんこそ、お上手です。いつごろから乗っているんですか?」
理伊子「まだ、2年くらいですわ」
力弥「本当にお上手だ。我々は仕事上の必要から習っただけですから、最低限の技能しか持っていません。近衛騎兵などは、実に上手に馬を操りますよ。パレードで馬が暴れたら大変ですからね」
理伊子(力弥の言葉は耳に入らない様子で遠い前方を見て)「あら? あれは『噂の子爵様』ではないかしら」
・前方から同じく乗馬で近づいてくる銀三郎。
・軽く敬礼して銀三郎を迎える力弥。
銀三郎(力弥に会釈しながら理伊子に顔を向け)「そちらの軍人さんとは初対面だと思うが、紹介してくれますか?」
理伊子「真淵力弥少尉よ。少佐だったかしら? 私、軍隊の階級がよく分からなくて」
力弥(笑って)「外部の人には同じようなもんでしょう。どちらでもいいですよ」
銀三郎「須田銀三郎と言います。お見知りおきを」
力弥「須田子爵ですね。存じ上げております」
理伊子「ところで、お菊さんと鳥居先生の縁談はどうなりまして?」
銀三郎「関心がおありで? ただの庶民の縁談ですよ」
理伊子(冷笑を浮かべて)「もしかしたら、銀三郎さんが心穏やかでないのではないかと」
銀三郎「ほほう? 僕が菊に関心を持っていると?」
理伊子「そりゃあ、あんな可愛い娘が近くにいたら、若い男が関心を持たないほうが不思議でしょう」
銀三郎「残念ながら、僕は妻帯者なんで、そういう資格が無いんですよ」
理伊子、青ざめる。
理伊子(言葉を詰まらせながら)「そ、その方、あなたの奥様は、私が存じ上げている人なんですか?」
銀三郎「いや、知らんと思いますが、この前の園遊会であなたが少し話していた、田端退役大尉の妹ですよ。もっとも、あいつは退役大尉でも何でもなく、ただの上等兵上がりですがね」
理伊子「そうですか。ご結婚おめでとうと申し上げるべきでしょうね」
銀三郎「さて、おめでたいかどうか。相手は少し頭のおかしいビッコの女なんでね」
理伊子「御冗談でしょう? 本当なんですか?」
銀三郎「まあ、若気の至りですが、結婚したからには仕方がない。ということで、近いうちに世間にもこの話は伝わるでしょう」
一礼して去っていく銀三郎。呆然として馬上で凍り付く理伊子。心配げに見守る力弥。
力弥「そう言えば、その田端という男が分不相応なカネを手に入れたようで、酒場で騒いでいたそうです。しかも、郊外に家を買ったということですが、そのカネの出どころがもしかしたら須田子爵かもしれませんね」
理伊子「あなたも案外下々の噂に詳しいのね。そんな酒場などにお行きになるんですか?」
力弥(ムッとした顔で)「……同僚から聞いた話です。どうやらあなたにはあまり嬉しくない話のようですね」
理伊子「あら、どうして?あの須田子爵はもともと頭がおかしいという噂の人ですから、私は何とも思っていませんわ。さあ、風も冷たいし、そろそろ戻りましょう」

(このシーン終わり)

拍手

PR

「魔群の狂宴」13



・自分の部屋の暖炉の前でソファに掛けて暖炉の炎を見ている銀三郎。
・その炎の中に過去の思い出が幻想として浮かび上がる。

・日本間の部屋。その大きく開いた縁側から見える庭に霏霏として降る雪。
・泥酔した父、須田伯爵が、日本刀を抜いて妾を追いかける。
・悲鳴を挙げて廊下を逃げ惑う妾。
・妾の逃げ込んだ部屋の襖。その襖を蹴倒して中に入る須田伯爵の悪鬼のような顔。
・その様子を部屋の一方から見ている幼い銀三郎。(この銀三郎は、部屋で惨劇を繰り広げている男と女には見えない存在である。)その銀三郎自身を暖炉の炎の中に幻視している大人の銀三郎。
・振り上げられる刀。その刀が振り下ろされ、血潮が画面を塞ぐ。
・暖炉の前で無表情に炎を眺める銀三郎。

・殺された妾と性交している幼い銀三郎(10歳)。
・須田伯爵の傲岸な顔のアップ。
・須田夫人の憎悪に満ちた顔のアップ。

・洋間の窓から室内に入る午後の日差し。米国中流かやや下流の家である。
・借りている部屋のベッドに寝転んでいる銀三郎。
・部屋の入口から、可愛らしい金髪の少女(8歳くらい)が笑顔で顔を出す。
・銀三郎が寝転んでいるベッドに無邪気に上がり込む少女。
・銀三郎にキスをする少女。
・キスしている最中に、その少女の顔に恐怖の表情が浮かぶ。
・部屋の窓から差し込む日と、窓辺の花の影。


・銀三郎に向けられる、鱒子の怒りの顔。
・悔しそうに無言で泣く鱒子の上半身裸の後ろ姿。
・その鱒子をベッドに残し、上半身は裸のまま、口笛を吹きながら、銀三郎らがカード賭博をしている場に戻る米国人の不良青年。

・銀三郎が目を覚ますと、部屋の入口に菊がいる。

菊「お目覚めですか。少しよろしいでしょうか」
銀三郎「ああ、何だい」
菊「私、お母さまから鳥居教授との縁談を勧められています」
銀三郎「ああ、そうらしいな」
菊「わたくし、行きたくありません」
銀三郎「どうしてだい」
菊「お分かりのはずです」
銀三郎「僕は菊とは結婚できないよ。それは分かっているはずだ」
菊「分かっております。結婚できるなんて思っておりません。でも、銀三郎様のおそばにずっといたいのです」
銀三郎「僕は悪党だよ」
菊「分かっております。悪党と言うより、失礼ですが、病人だと私は思ってます」
銀三郎「一生、僕の看護婦をやってくれるというのかい?」
菊「はい、それが私の望みです」
銀三郎「自分で自分の人生をどぶに捨てるとしてもか」
菊「はい、銀三郎さまが他の女の人と結婚なさっても、近くにいられさえしたら」
銀三郎は黙り込む。
菊は頭を下げて部屋を出て行く。

・銀三郎の部屋の窓の外に降り続ける雪。


(この場面はここまで)


拍手

タイガー! タイガー! (12)




第十六章 グエン一座


 


盗賊たちの歓待を受けた翌朝、グエンたちはフロス・フェリたちに別れを告げて彼らの野営地を離れた。


「もしも、あんたたちが一騒動起こしたくなったら、この森に来るがよい。力を貸すぜ」


フロス・フェリはニヤリと笑いながらグエンに片目をつぶってみせた。


「ああ、世話になった。このお礼はそのうちさせてもらう。では、さらばだ」


「ああ、また会おう。多分、また会えるさ。俺の予感は当たるんだ」


フロス・フェリは片手を上げて別れを告げた。


 


「さて、国境は越えたが、これからが難しいかもしれん。ランザロートまでは200ピロほどだと言ったな?」


「ええ、国境からそのくらいのはずです」


「ふむ。その間に関所が幾つかあると考えたほうがいいだろう。問題は、タイラス国王が俺たちを歓迎するかどうかだ」


「と言うと?」


「俺たちを捕まえて縛り上げ、ユラリアかサントネージュに送るということもありうるということだ」


「まさか。タイラス王妃のエメラルド様は、サントネージュ王妃の妹君ですよ?」


「だが、国王はべつにサントネージュの縁者ではないだろう。俺がタイラス国王なら、ユラリアから強く言われたら、そうするかもしれん。ユラリアを敵に回したくないならな」


フォックスは考え込んだ。


「では、どうすればいいと?」


「分からんな。一番いいのは、しばらくランザロート近辺に潜んで、タイラス宮廷の状況を調べることだ。幸いに、俺たちの素性はまだ知られてはいない。まあ、俺のこの目立つ頭が少々邪魔になるが……」


「いっその事、旅芸人のふりでもしますか」


「旅芸人?」


「そうです。旅芸人なら、そのような頭もわざとやっていると思われますから」


「なるほど。それは気づかなかった。俺はこの頭を隠すことばかり考えていたが、逆にこの頭を隠れ蓑にするわけか。面白い」


「でも、芸人が一人では、寂しいですね。私には何も芸がないので」


「あのう」


とおそるおそる声をかけたのはソフィであった。


「私、歌が歌えます。ダンも」


「へえ、そうなんだ。お足が貰えるくらい上手ならいいけど」


「お母さまはよく僕たちを、世界で一番歌が上手だとほめてくれたよ」


フォックスはグエンの方を見て苦笑いをした。母親のひいき目の言葉を、この子供たちは信じて疑わないのである。


「じゃあ、何か歌ってみてくれる? 幸い、人里や関所は遠いようだから」


ソフィはダンと目くばせをした。


「じゃあ、『バラとナイチンゲール』を」


ソフィのきれいな高音が、まるで銀の鈴を鳴らすように流れ出した。天使の声が空の高みに昇っていく。それにダンの子供らしいあどけない高音が唱和する。


グエンとフォックスはあっけにとられながら聴きほれた。これほど美しく、胸を打たれる歌を聞いたのはフォックスにとっては生まれて初めてであった。なつかしく、悲しく、そして嬉しいような寂しいような、明るく透明な歌声であった。


「まあ、何て素敵な歌なの! こんなにきれいな歌声を聞いたのは初めてよ」


歌が終わるとフォックスは思わず手を叩いて言った。


「これなら、十分に出し物になる。で、俺とお前は、剣劇でもやろう」


「剣劇ですか?」


「そうだ。ソフィとダンがお姫様と王子さまで、お前はそれを助ける剣士だ。俺が悪役をやって、お前と剣劇をするのだ」


「面白そうですね。ちょっとやってみますか」


「ああ、まずは、その辺の木の枝で木剣を作ろう。真剣でやってもいいが、わざと芝居くさくしたほうがいいだろう」


グエンは軽く剣を振って、頭上の木の枝を斬り落とした。それが地上に落ちる前にもう一度剣が動いて、枝の先も切られ、棒きれになる。


同じ要領で棒きれをもう一本作る。細かい木の枝も切りはらう。長さ1マートルほどの棒きれが2本できた。


「やってみよう。最初はお前が斬りかかってこい。俺がそれを受けたり、よけたりしよう」


「いきますよ」


どうせ自分が本気で打ちかかっても、相手がそれをよけるのは造作もないと分かっているので、フォックスには気が楽である。


何度か打ち込んでみて、改めてグエンの剣の技量が自分とは桁違いであることを実感する。「だめです、グエンがあまりにうますぎて、私の下手さが見物人にばれます」


「そうか。じゃあ、もう少しおおげさにやろう。本気で殴ってもいいぞ。棒で殴られたぐらいなら俺は平気だ」


今度は、先ほどのようにわずか一寸ほどで体をかわすのではなく、おおげさに飛び下がったり、飛び上がったりして木剣をよけると、逆に迫力とユーモラスさが出る。それを見てソフィとダンは歓声を上げて大喜びである。なるほど、芝居とはこういうものか、とグエンもフォックスも悟るところがあった。


時にはグエンが反撃に出るが、もちろんフォックスの体に当たる寸前で剣は止める。しかし、見ている方には、フォックスが相手の剣を軽くさばいたように見える。


「真剣でやったら、すごい出し物になるでしょうけどねえ」


「いや、それはまずいだろう。俺たちの正体を隠すのが目的なのだから、べつにそれほど客受けを考えなくてよい」


「グエンの頭はそのままでやるの?」


ダンが聞いた。


「お面をかぶればいいじゃない」


「まあな。それもいいが、お面を作る材料がない」


「人里に出たら、芝居衣装や小道具を作る材料を探してみましょう」


「私はグエンの頭はそのままでもいいと思うわ。どうせお芝居だとみんな思っているのだから、かえってその頭は好都合よ」


ソフィの言葉にフォックスも「そうね」と同意した。


「俺は、怪物の役でもいいぞ」


「あら、そんなつもりじゃないの。お芝居なんだから、奇抜なほうがいいと思うのよ。その頭は、それだけで観客をびっくりさせるわ」


「ふむ、そうだろうな。客を喜ばせるにこしたことはない。では、俺は剣ではなく、棍棒か何かを持とう」


「それもいいわね。で、お願いなんだけど、上半身は裸でやるのはいやかしら?」


フォックスの言葉にグエンは少し考えた。


「できるだけ人間離れしていたほうがいいということだな。まあ、かまわんさ」


「そうじゃなくて、グエンのその素晴らしい体は、それだけで立派な出し物になるのよ。それを服で隠すのはもったいないと思うの」


「まあ、どんな案でも試してみるさ。では、そろそろ行こうか。腹もへってきたし、昼食をするのにいい場所でも探そう」


 


拍手

「魔群の狂宴」12


・岩野家、客間。午後3時ころ。理伊子が真淵力弥(軍人)を招いて、父母同席でお茶を飲んでいる。

理伊子「お茶をもう一杯いかが? 真淵さん、それとも力弥さんとお呼びしたほうがいいかしら」
真淵「下の名で呼ばれたほうが嬉しいですね」
岩野夫人「日清日露戦争以来、軍人さんはおもてになるでしょう」
岩野氏「おいおい、そんな昔の話など、若い人は知らんだろう」
真淵「まあ、知ってはいますが、それほど詳しくはありません。それより、この前の大戦で乗り遅れたのが残念で。もう少し戦争が続けば、日本も活躍できたでしょう」
岩野「まあ、あれは欧州方面が主な舞台で、アジアはあまり関係なかったがな。それでも石炭輸出でうちもかなり儲けはしたよ。戦争さまさまだ。いや、これも軍隊や軍人のお陰だと感謝しとるよ」
真淵「しかし、庶民の間には不満も多いようですね」
岩野「誰もが利益を得るといううまい話は無いさ。名誉の戦死で恩給が貰えるだけでも嬉しいという家も多いだろう」
夫人「本当にねえ。新聞を見ると、不平不満を並べる記事ばかりでうんざりしますよ」
岩野「そういう記事のほうが売れるのさ。貧乏人のひがみを代弁しているわけだ」
理伊子「軍人さんの間では、日本の次の敵はどこだとされているのかしら。それとも、軍事機密?」(笑う)
真淵「そういう話は上でだけ話されるので、我々下級軍人では分かりかねます」
理伊子「私は、アメリカあたりが怪しいと睨んでいるの。他の欧州諸国は遠すぎるし、ソ連はできたてで戦争する力は無いでしょうからね」
真淵「鋭いですね。軍隊で参謀をなさる資格がありそうだ」(笑う)
夫人(岩野氏に向いて)「戦争の話より、あなたの会社のストライキ問題は解決しそうなの?」
岩野氏「心配いらん。首謀者が昨日3人逮捕された。これで治まる。治まらなければ、怪しい奴らをどんどん首にしていけばいいだけだ。労働者はいくらでもいるからな」
理伊子「あまり労働者いじめをしたら、そのうちテロ事件が起こるわよ。ほどほどにしてね、パパ」
岩野氏「馬鹿なことを言うんじゃない。労働者が働き、会社が給料を与えるから連中は生活できるのだ。その会社に反抗する不届きな連中を雇う義理は無い」
夫人「まったくだわ。恩知らずな連中が多すぎるのよ」
理伊子「例の、労働者に同情的だという鳥居教授の縁談の話はどうなったのかしら」
夫人「あのおじいさんも恩知らずのひとりよ。こんないい縁談を渋っているらしいのよ」
理伊子「へえ、あんな若い子と結婚できるだけでも素晴らしい好運じゃない」
夫人「まったくだわ。それが、どうやら、あの菊という娘は銀三郎さんとできているんじゃないかと鳥居さんは疑っているんじゃないかね」
岩野氏「若い男と女が同じ家にいるのだから、それはありそうなことだな」
岩野夫妻は、理伊子の顔色が変わったのに気づいていない。真淵力弥だけが気づく。その後は、彼はほとんど無言で、理伊子を観察している。
理伊子「まさか、そんなことは無いと思うわ。銀三郎さんはインテリですから、無学な女に興味を持つかしら」
岩野氏「結婚はしないだろうが、関係を持つことはあるだろう」
理伊子「不潔ね。パパもそうなの?」
岩野氏「ば、馬鹿な。これは一般論だ。わしとは無関係な話だ」
夫人、少し冷ややかな目で岩野氏を見ている。
岩野氏(目を逸らし)「部屋の中がだいぶ暗いな。電気をつけなさい」
理伊子、立ち上がって部屋の戸口にある電気のスイッチを入れる。テーブルに戻る前に、窓に目をやり、何かに気づいたように窓に近づく。
理伊子「雪だわ」
夫人「初雪ね」
理伊子「夕張ではかなり前に降ったんでしょう? パパ」
岩野氏「そうさな。一週間ほど前か。しかし、山ではもっと前から降っている」
一同、少し沈黙して窓に目をやる。




(このシーンはここまで)


拍手

「魔群の狂宴」11



・前の場面の続き。
・銀三郎は先ほど見えた小さな洋館の玄関(鍵はかかっていない)の扉を開けて中に入る。
・玄関の間の奥に部屋がふたつあり、奥の部屋(洋間)が麻里江の寝室である。その部屋の扉は開いたままで、ベッドに麻里江がスヤスヤ寝ている。
・その寝顔を上から見下ろす銀三郎の顔に殺気に似た表情がかすかに浮かぶ。
・軽くうなされる麻里江。突然、目を開く。自分を見下ろす銀三郎を見て驚く。
・小さく悲鳴を上げた麻里江をあやすようになだめる銀三郎。
銀三郎「僕だよ。大丈夫、僕だ」
麻里江「ああ、あなたでしたの、侯爵様」(彼女は銀三郎をそう呼ぶ)
銀三郎「何か悪い夢でも見たのかい。うなされていたが」
麻里江「夢? そうだわ。悪い夢を見ていた。その中にあなたのような人が出てきて……なぜ、私の夢の中身を知っているんだい? あんたは何者だい」
銀三郎「落ち着きなさい。僕だよ。お前の侯爵さまさ」
麻里江「嘘だ。あんたは私の侯爵さまじゃない。私の侯爵さまは、誰よりも素敵な人で、お前のような下種じゃない。顔は少し似ているけど、あんたは偽物だ」
狂女の侮辱的な言葉を聞いて、銀三郎の顔が醜く歪む。
麻里江「はは、怒ったのかい。夢のように、私をナイフで殺すつもりかい? ほら、その懐には私を殺すためのナイフがあるんだろう?」
銀三郎はギクリとした顔になる。先ほどの殺意が、なぜかこの女の夢に通じたようだからだ。
銀三郎「馬鹿馬鹿しい。いい加減にやめないか。お前の兄はどうした。どこに行ったんだ」
麻里江「あんな奴、知るもんか。あんた、私の赤ちゃんをどうした。まさか、川に捨てたんじゃないだろうな」
銀三郎「お前は赤ん坊など生んでいない。私と寝てすらいないんだ」
麻里江「じゃあ、何でここにいる。この偽物の侯爵が。はは、侯爵が聞いてあきれるよ。お前なんか、下男や御者にも劣る能無しだよ。悪魔の下働きが相当だ」
たまりかねて、銀三郎はその部屋から急ぎ足で出て行く。
玄関から田端兄が入ってくるのとぶつかりそうになる。

田端兄「おお、これは銀三郎様、子爵様。このようなところにお越しいただくとははなはだ名誉でございます」
銀三郎「君から手紙をもらったから来たんだ。何の用だね」
田端兄「まあ、慌てなさらないで、ひとつ舶来の酒でもいかがですか。貧しい中にももてなしの酒くらいは準備しております」
銀三郎「ふん、自分が飲むためにな」
田端兄「もちろん、わたくしもご相伴いたしますが、主にあなた様のためでございます」
銀三郎「酒はいいから用件を言ってくれ」
田端兄「そこでございます。こういうデリケエトな話は、私のような繊細な人間は酒も入らずには話しにくいのですが、思い切って申しましょう。前にお約束になったお手当はいつ貰えるのでしょうか」
銀三郎「手当など約束した覚えも無いし、お前たち兄妹にはこの家を買ってやり、生活費も十分に与えたはずだ」
田端兄「さはさりながら、やはりこうした日陰の身ではあれも可哀そうで、ちゃんとした世間との人付き合いをするには頂いたお金では少々不足かと」
銀三郎「あれを世間と人付き合いさせるだと? 面白い冗談だ」
田端兄「へへへ、やはり子爵様の奥方ともなると世間との交際は必要ではないかと思いまして。なあに、私がいつもそばについていてうまくやりますから、ご安心を」
銀三郎「いらん。いい機会だから、言っておこう。俺は明日明後日にも、あれとの結婚を世間に公表するつもりだ。だから、これまでお前がこそこそゆすっていたような手口はもう通用しない」
田端兄、呆然とする。
田端兄「まさか、冗談でございますよね。そんなことをしたら、御身の破滅でございますよ」
銀三郎「俺には似合いの妻かもしれん。もっとも、先ほどはあいつのほうから俺に縁切りの言葉を言われたがな」(ニヤリと笑う)
銀三郎「まあ、そういうことだ。俺の気が変わったら、これまで通り、小遣い銭くらいはやるかもしれんが、俺をゆするつもりなら無理だと覚えておけ」
銀三郎、立ち上がって出て行く。呆然としてそれを見送る田端兄。


(このシーンはここまで)

拍手

タイガー! タイガー! (11)




この章は、話の中心から逸れるので、後で削除する可能性があるが、書いたものを消すのももったいないから載せておく。アベンチュラは、副主人公格で登場する予定の人物だが、彼に関する話はまったく考えていないのである。





(第十五章 アベンチュラ)


 


トゥーランの東から南にかけては海に面しているが、その東南部にある港町のシノーラは商業船と漁船の両方が集まるにぎやかな街で、どちらかというと商業船の出入りが多かった。商業船とは、いうまでもなく貿易船で、各地の物産を交易するための船だが、旅客なども乗せたりする。今も、停泊している帆船が十隻ほどある。


その船の一つから下りてきたのは、かなり背の高いたくましい男で、赤銅色に日焼けし、顔じゅう鬚だらけなので年齢は分からない。赤毛の長い髪もぼさぼさで、赤毛のライオンといった風貌である。上半身は素肌にチョッキだけで裸に近く、ズボンも水夫風だが、水夫ではない証拠が、その腰に帯びた剣である。鞘に入っていても、水夫などが持つ剣でないことはわかる。まあ、もともと水夫は剣ではなくナイフを腰帯に挿すのが普通だが。


眩しい日差しに目を細めて、彼は船のタラップを降りてきた。タラップと言っても粗末な梯子だ。それを軽々とした足取りで、下を一度も見ずに降りてきたところは、やはり水夫のようにも見える。肩に、長い棒に結んだ信玄袋のような袋をかついでいるが、腰の剣は別としておそらく彼の全財産がその中に入っているのだろう。


「ウオゥ、半月ぶりの陸地だ。気持ちがいいなあ!」


地面に降り立つと、彼は無邪気な歓声をあげた。


港に集まる人足や商人の群れを掻き分けて、彼は居酒屋へ直行する。


「酒だ、酒だ、酒をくれえ!」


大声で怒鳴ると、店員が慌てて持ってきた酒杯を一息であける。


「うまいっ! どんどん持って来い!」


陽気な大声に酒場の客たちはもの珍しげに彼を見るが、男の無邪気な喜び方に、誰もが微笑を浮かべている。


「お兄さん、どこから来た?」


彼の前に腰を下ろしたのは、近くの席で飲んでいた男で、年齢は30歳くらいだろうか、黒髪で口髭を生やした洒落た感じの男である。身なりは騎士階級の人間のようだ。


「俺か? ファルカタからだ。知っているか?」


「ああ、インドラの西の港町だな。俺も行ったことはある。暑くて弱ったな。象牙やダイヤや翡翠をそこで仕入れて、高く売ったものだ」


「あんたは商人か?」


「まあ、そんなものだ」


「そうだ、と言わないところを見ると、本物の商人じゃないな」


「いろんな事をしているからな。あんたはシノーラに滞在するつもりか?」


「いや、生まれ故郷に帰るつもりだ。タイラスへな」


「タイラスか。タイラスのどこだ?」


「ランザロートだ」


「ほほう、首都か。あんた、貴族だな?」


「こんな汚い格好の貴族かい?」


「話し方で分かるさ。それに、その腰の剣でな」


「これか。これは俺の命から2番目に大事な剣だ。先祖代々の遺産でな。まあ、俺にはこれしか財産は無いんだが」


「あんた、腕が立ちそうだな」


「まあ、弱くはないと思う」


「どうだい、俺もこれから旅に出ようと思っていたんだが、一緒に旅をしないか? 俺の名はキャリバンだ。」


「いいだろう。俺はアベンチュラだ。よろしく」


「よし、そうと決まれば、ここの勘定は俺のおごりだ」


「すまんな。俺は飲むぜ?」


「大丈夫だ。今のところは、俺の懐は温かい」


「最初に言っておくが、おごられたからと言って、遠慮はしないぜ。まあ確かに、今の俺は懐が寂しいから、あんたがおごってくれるのは嬉しいがな」


「もちろんだ。遠慮は無しだ」


「よし、おい、給仕、酒をどんどん持って来い。それと食い物もだ」


二人の前にはあっと言う間に、酒壺と食い物が並んだ。鉄串に刺して焼いた羊の焼肉や、鍋で炒めた野菜、それに魚の燻製などだ。酒はヤシの果汁を発酵させて作ったヤシ酒のほか、果実酒が何種類かある。


二人は酒と食い物を交互に口に運び、すっかりいい機嫌になった。


拍手

美しいより醜いほうが「個性的」ではある

単純に私の主観として「汚い外観だな。なぜこの隅研吾という人が建築界で高く評価されているんだ?」と思う。美術、特に日本画の世界などもそうだが、こういう大御所というのはコネと政治力でのし上がっているんじゃないか。もちろん、汚い絵だが個性的という漫画がきれいな絵より編集者(売る側)に評価されるというのは漫画の世界でも同じではある。

(以下引用)

外観だけじゃなくて肝心の内部も(ちらっとだけ映る)、トイレ掃除したことないだろ、、、って感じだった。あと、公園に死角を増やすの怖いな。 隈研吾さんデザイン「公共トイレ」お披露目 #日テレNEWS24 #日テレ #ntv
隈研吾さんデザイン「公共トイレ」お披露目|日テレNEWS24
建築家の隈研吾さんが東京・渋谷区の公共トイレを一新させました。

拍手

カレンダー

02 2025/03 04
S M T W T F S
15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31

カテゴリー

最新CM

プロフィール

HN:
酔生夢人
性別:
男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

ブログ内検索

アーカイブ

カウンター

アクセス解析