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少年騎士ミゼルの遍歴 15

第十五章 燃える水

 盗賊団と出逢ってから五日目に、ミゼルたちは砂漠の中にある小高い山を見た。
「これがシケル山だな。預言者モーザスが燃える木を見たという伝説のある山ですよ」
 ゲイツの言葉に、ロザリンが言い返した。
「あら、伝説じゃないわよ。魔法使いの間では有名な事実よ。登ってみる?」
「そうだな。たいして大きな山でもないから、時間はかからないだろう」
 エルロイとミゼルも賛成した。エルロイが賛成なら、アビエルが反対することはない。
山は、高くはないが、なだらかな丘を越えたところから一度下がり、再び高くなっていく形をしており、その窪地に伝説の燃える木はあった。
「燃える木は、本当にあったんだ。しかし、不思議な燃え方だ。木が燃えているというより、木の周りの空気が燃えているように見える」
 エルロイが呟いた。
「しかし、いやな匂いね。これでは、神のお告げの印というより、悪魔の祭壇にふさわしい匂いだわ」
 ロザリンが言った言葉に、一同頷いた。
「油臭い匂いだな」
 ミゼルが言った。
「油だって? そうだ、これは油の匂いだ。獣の油とも、植物の油とも違う匂いだが、何かの油ですよ」
 ゲイツは、興奮した様子で、あたりの様子を調べた。
「見てみなさい、このあたりの地面一帯が黒っぽい。これは、地面から油が沁み出しているんですよ」
「地面から油が出る? そんな馬鹿な!」
 アビエルは、ゲイツの言葉を一笑に付したが、ゲイツは、地面に落ちていた枯れ枝に、その粘り気のある、砂粒混じりの黒い液体を付けて、燃える木に近づけた。すると、まだ火にも触れないうちに、その枯れ枝にもぼっと火がついたのであった。
「ごらんなさい。この黒い水は、油ですよ。砂から沁み出した油です。石の油だな。石炭があるなら、石の油があってもおかしくはないでしょう」
「じゃあ、この地面の下には、その石の油の泉があるってことか」
 アビエルも、真顔になった。エルロイとミゼルにはまったく興味のない話だが、ゲイツとアビエルの二人は、これが商売のネタになることが、直観的に分かったのである。
「でも、こんなひどい匂いの油じゃあ、使い道はないわよ。少なくとも、私はこの匂いは大嫌い」
 ロザリンはこの発見を素っ気なく片づけた。
「まあ、いずれこの油の使い道は考えることにしましょう。私は、何となく、これがとてつもない大儲けの可能性を持っているような気がしますよ」
 ゲイツの言葉は後に事実になるのだが、この時の五人には、まだそれは分からない。とりあえず、彼らはシケル山を下りて先に進むことにした。

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少年騎士ミゼルの遍歴 14

第十四章 再会

「ロザリン!」
ミゼルとロザリンは抱き合って再会を祝した。エルロイもさすがに嬉しそうに微笑んでいる。
「あの砂嵐は、もしかして君が?」
「そうよ。役に立った?」
「役に立ったどころじゃない。君のお陰でみんな命を救われた」
砂漠に落ちる夕陽の中で、円座を作って座る仲間に、ロザリンは別れて以来の出来事を語った。
「山の中で、小鳥になって飛び立った後、しばらくは山全体の様子を調べながら飛んでいたの。そろそろ帰ろうかな、と思っていると、そこに突然鷹が現れたのよ。いくら私が魔法使いでも、鳥になっている時は鳥の力しかないから、逃げようとしたんだけど、逃げ切れずに捕まって、鷹の爪と嘴で大怪我しちゃったの。でも、殺される前に運良く下に落ちて、そこにいたお爺さんに救われたのよ」
「あんな山の中に人間がいたのかい?」
と、アビエル。
「ええ、隠者ね。魔法使いよ。それも、かなり偉い魔法使いだったわ。彼は私の怪我の手当をしてくれたんだけど、怪我が治るまで一週間くらいかかったの。でも、その間に彼から幾つかの魔法を教わったから、その時間は無駄じゃなかったけどね。ここにやってきた空中浮遊も、その一つ。それに、自分にはいらないから、と言って、この魔法書もくれたわ」
 ロザリンは、一巻の巻物をミゼルたちに見せた。
「でも、中身は古代語で書かれていて、私には読めないのよ。ヘブロンにいるプラトーという魔法使いに聞けば分かる、と言っていたわ」
 美しい砂漠の星空の下で、五人は遅くまで語り合った。だが、ロザリンは、この時にはまだ、エルロイの心に住み始めたある面影の事は知らなかった。

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少年騎士ミゼルの遍歴 13

第十三章 砂漠の盗賊団

 ミゼルたちの旅は、なかなか進まなかった。山脈を越える前に、馬は売り払っていたので、四人とも徒歩である。シャイドで驢馬を一頭買って、それに鎧などの荷物は載せていたからその点は楽だが、慣れない砂の上の歩きには難渋した。しかも、砂漠の暑熱は耐え難い。土地の人間のように長い布を頭に巻いて、目以外の顔をくるんでいないと、日差しで火傷をしかねない。その注意を怠ったアビエルは、すでに顔に火膨れを作っていて、もともとまずい顔が、いっそう見られない顔になっている。他の者も、アビエルほどではないが、日焼けは凄い。
 アビスバの町はとうとう見つからなかった。周りに目印の無い砂漠の旅では、これも仕方の無いことだろう。しかし、アビスバで水の補給をする予定だったのができなくなり、水が底をつきかけているのは大問題である。
「ロザリンがいればなあ」
 アビエルがつぶやいたが、それには他の三人も同感だった。ロザリンがいれば、その魔法で水を見つけてくれただろう。しかし、そのロザリンとは山脈を越える途中ではぐれたままで、その生死も不明である。
「おや、あの土煙は?」
 ミゼルが遠くの砂埃を目敏く見つけて言った。
 やがて、それは一本の線となってこちらに近づいてきた。
「騎馬隊のようだな」
と、エルロイが言った。
「このあたりなら、馬ではなく駱駝でしょう。もしかしたら、盗賊団かもしれませんよ」
 ゲイツの言葉に、他の者たちは顔を見合わせた。
「隊商にしては、荷物を積んでいる様子がないし、それに、こんな砂漠で駱駝を走らせて急ぐ必要もないはずですからね」
 やがて、姿がはっきりと見えてきたが、それはゲイツの推測どおり砂漠の盗賊団だった。半月刀を振りかざして突進してくるその様子は、明らかにこちらを皆殺しにして、その金品を奪おうという意図を表していた。
「数は?」
「三十六人」
 エルロイの問いに、ミゼルが短く答える。あまり視力の良くないエルロイは、遠くの物を見る際には、ミゼルの眼を頼りにしていた。
「エルロイ殿、弓は私が射ます。矢を私に下さい」
 エルロイは頷いて、自分の矢筒をミゼルに渡した。ミゼルは、盗賊たちが矢の射程に入ると同時に、矢を射始めた。
 一人、また一人と盗賊がミゼルの矢で射られて駱駝から落ちるのが見えた。盗賊たちも矢を射返すが、騎馬用の短弓の射程距離は短く、ミゼルたちの所までは届かない。しかし、ミゼルが十人ほどを射る間に、盗賊たちの矢もこちらに届き始めた。ゲイツとアビエルは、驢馬に載せてあったエルロイとミゼルの鎧を着、エルロイとミゼルは盾だけで身を守っている。ゲイツとアビエルの鎧には、敵の矢が当たってカンカンと音をたて、二人は生きた心地もない。
 やがて盗賊たちはミゼルの矢をかいくぐって、ミゼルたちのいる所に殺到した。ミゼルとエルロイは剣でそれを迎え撃ったが、盗賊たちが馬上から斬り下ろす半月刀は、直刀とは違って距離が測りにくく、エルロイとミゼルは苦戦していた。
あと数分のうちには、四人の命は無くなるだろうと思われたその時、ミゼルたちの後ろから砂嵐が巻き起こり、盗賊たちに向かって吹き付けた。下から上に向かって吹き付けるその砂嵐で、駱駝たちは立ち往生し、盗賊の中には棒立ちになった駱駝から落ちる者もいる。
この機を逃さず、ミゼルは再び盗賊たちに矢を射掛け、あっという間に数人を射殺した。こんな至近距離からなら、射損じることはありえない。エルロイも、駱駝の足を斬って、転落した盗賊をすかさず斬り殺す。
やがて、三十六人の盗賊は、すべて砂漠の上で骸となった。
ぜいぜいと荒い息を吐きながら、砂の上に座り込んでいたミゼルとエルロイは、自分たちの後ろに上がった歓喜の声が何のためか、すぐには分からなかったが、やがて後ろを振り向いて、そこにロザリンが二人に微笑しながら立っているのを見たのであった。

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少年騎士ミゼルの遍歴 12

第十二章 死の町メサ

 山麓の村シャイドを出て、ミゼルたちは砂漠に入った。ここからはずっと砂漠が続くのである。シャイドの村長のムスタファから聞いてあった、人の住んでいるアビスバとアサガイという砂漠の中の町を目指して進む。
 砂漠に入って三日目、前方に町の姿が見えた。
「蜃気楼じゃないでしょうな」
 ゲイツが物知りなところを見せて言った。
「シンキローって何だ?」
とアビエル。
「砂漠に現れる幻さ。言わば、町の幽霊だ」
 腰の低いゲイツもアビエルに対しては言葉がぞんざいだ。
「幽霊ってのは、人間がなるもんだとばかり思っていたが、町の幽霊もあるのか。気味が悪いな。さっさと通り過ぎようぜ」
「そうはいかん。水が残り少ないから、井戸を探してみよう」
 近づいていくと、それは蜃気楼ではなく、本物の町だったが、どうも様子がおかしい。人の気配がない。
 町は城壁で囲まれた城塞都市だったが、門は開いていて、番兵もいない。
 門の上にはカラスが群をなしてとまっている。カラスたちは、門の下を通っていくミゼルたちを見下ろして、不気味なしゃがれ声で鳴いた。
 町の通りには、生き物の姿はまったく無かった。時折吹く熱い風で土埃が舞い上がるだけである。
 大通りの両側に泥と煉瓦で造った四角な家々が並んでいるが、その家々の戸口の中は黒い闇があるばかりだ。
 ミゼルたちは、酒場らしい大きな建物に入った。先頭のミゼルは、中に入ったところで、思わず足を止めた。酒場の中には幾つかのテーブルがあったが、そのテーブルの椅子には、椅子にかけたままの姿で何体ものミイラがあったからである。ミゼルの後から入ったアビエルとゲイツは、それを見て悲鳴を上げた。
「何があったんだろう。みんないきなり死んでしまったみたいだ」
 アビエルが、怯えたような声で言った。
「熱風だろうな。それも、おそろしく強烈な奴だ。一瞬で町が滅びるほどのな。でなけりゃあ、悪魔の仕業だ」
 ゲイツがアビエルを脅すように言う。アビエルには迷信深いところがあるので、それを聞いてますます怯える。
「よせよ。悪魔だなんて」
 ミゼルたち四人は、井戸の在処を探した。やがて、町の長官の屋敷跡と思われる建物の中庭に、水のある井戸を見つけ、一行は一息ついた。
 どの家にもミイラ化した死体が転がり、盗賊どもに荒らされた後らしく、金目の物はほとんど残っていなかった。
 ミゼルたちは、この気味の悪い町を早々に後にした。

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少年騎士ミゼルの遍歴 11

第十一章 山麓の村シャイド

 下りの道は上りよりははるかに楽であった。山頂近くの岩陰で一泊した後、山を下りたミゼルたちは、午後遅くに麓の村に着いた。
 まばらで貧弱な林が周りにぽつぽつあるだけの貧しげな村だが、山麓の村だけに水には恵まれているようだ。村の真ん中の井戸の周りには羊や山羊が群れている。家々は日干し煉瓦と石で作られ、窓には木造の庇がかかっている。家の前には棗の木を植えてあり、その木陰にはたいていターバン姿の老人が椅子に掛けている。彼らはミゼルたち一行を珍しげに眺めている。
 ミゼルたちは、井戸に近づいて、そこにいた女たちに水を所望した。女たちは顔をヴェールで隠しているが、眼が美しい。
 水を飲んで一息ついているミゼルたちの前に、一人の老人が現れた。年の頃は七十ほどだろうか、腰は折れ、杖をついているが、言葉はしっかりしている。
「あなたがたは、もしかしてヤラベアムから着たのかな」
 アドラムの言葉は、ヤラベアムとほとんど同じである。もともと同じ民族が、はるかな昔にエタムからヤラベアム、レハベアム、アドラムに分かれて移り住んだと言われているのだから、それも当然だろう。
 ミゼルは、老人の言葉に頷いた。
「やはりそうか。何の用で、こんな所に来なさった」
 ミゼルが旅の目的を話すと、老人は眉をひそめた。
「王者の剣か。それはアドラムの王家の秘宝じゃ。それを手に入れようとすれば、お主たちの命はないぞ。だが、聖なる三つの武具は、もともと一カ所にあった物だとも言う。それが一つになる時に、世界は再び一つになるという言い伝えもある。お主たちが、その使命を持った者かもしれぬな」
 老人は、自分の名をムスタファと名乗った。村長らしい。彼は自分の家にミゼルたちを招いて歓待した。旅人を手厚くもてなすのがこの国の風習らしい。それは、砂漠の国を旅する困難さから生まれた慣習だろう。もっとも、さすがにヤラベアムからの旅人は滅多にいないらしい。
「首都ムルドに着いたら、ロドリグ王の后のソリティアは元気かどうか訊ねてみてくれ。ソリティアは、わしの孫娘じゃ」
 老人の言葉に、ミゼルたちは驚いた。国王の后の祖父が、このような貧しい村に住んでいるとは、信じがたいことである。
「かつて、この村に御幸なさった国王が、この村一の美女のソリティア様を見初めて強引にお后になさったのです。可哀想に、ソリテイア様の御婚約者のアリシャは、その嘆きで、自ら命を絶ち、それ以来ソリテイア様の笑顔を見た者はいないということです」
 女たちの一人が、ミゼルに教えてくれた。
「これがソリティア様の絵姿です。本当に生き写しですわ」
 女が出して見せたのは、象牙の台座に填め込まれた小さな楕円形の絵であった。その絵に描かれた女性は、確かにミゼルたちが生まれてから見たこともないほどの美女であった。
 エルロイは、魂を奪われたように、その絵に見入っている。
「この絵が本物に似ているなら、確かにこれは世界一の美女ですな」
 ゲイツがうなるような声で言った。
「これは、アリシャが描いた物です。アリシャは、この村一の美男で、絵の名人でした。楽器も弾き、生まれつきの詩人でもありました。彼がこの村に止まっていたのは、ただソリティアがいたからなのです。だから、ソリティアを奪われた時、彼にとってこの世に生きる望みはすべて失われたのです」
女の話は、古い伝説か何かのようにミゼルには聞こえた。 
その晩ずっとエルロイは何かを考え込んでいる様子であった。

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少年騎士ミゼルの遍歴 10

第十章 ロザリンの失踪

ミゼルたちの一行は、あえぎながら山を登っていった。朝から正午までずっと登っても、まだ山の中腹にもならない。
「魔女さんよ、魔法で空を一っ飛びして山を越えるわけにはいかんのかね」
 ゲイツがロザリンに向かって、冗談交じりに不平を言った。
「空を飛ぶ魔法の使える魔法使いは滅多にいないよ。私一人なら、鳥になる手があるけどね。今持っている荷物や道具は全部捨てていくことになるし、鳥になれるのは自分だけさ」
「じゃあ、とにかく、鳥になって、上の様子を見てきてくれよ。どこが一番登りやすいかさ」
 アビエルの言葉に、ロザリンは少し考え、いいよ、と言って林の中に姿を消した。
 やがて林の中から、一羽の黄色い小鳥が飛び立った。小鳥はミゼルたちの頭上を二、三度旋回して、山頂の方へ飛んでいった。
「あれがロザリンかな」
 半信半疑の様子でそれを見送ったアビエルが、先ほどロザリンが姿を消した林の中に入って行った。
 しばらくしてミゼルたちの所に戻ってきたアビエルが手に持っていたのは、先ほどまでロザリンが着ていた服だった。
「やっぱり、あれがロザリンだ。この服が落ちていた。いい匂いがするぜ」
 鼻の下を伸ばしたアビエルの言葉に、男たちは顔を見合わせた。
「ということは、ロザリンは今、真っ裸ということか」
 ゲイツの言葉に、エルロイは困ったような顔で空を見上げて顎の下を掻き、ミゼルは顔を赤くしてうつむいた。
 ミゼルたちは、ロザリンの戻るのを待ったが、ロザリンは帰ってこなかった。
 とうとう夜になり、朝になったが、ロザリンはまだ帰ってこない。
 ミゼルたちはここを出発する決心をした。おそらく、ロザリンの身に何かあったのだろう。この場を離れると、ロザリンとはぐれる危険性はあるが、ロザリンの魔法なら、彼らを見つけることはできるはずだ。それに、今の今にも、ロザリンの身に危険が迫っているのかもしれない。とすれば、早く出発したほうがいいはずだ。
 半日ほど登り続けて、やっと山頂に達したミゼルたちは、下界を見下ろした。今自分たちが登ってきたヤラベアムの大半は緑に覆われた土地だが、その反対側のアドラムは、黄色と茶褐色の砂漠がほとんどである。それは、いかにも不吉な眺めであった。

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少年騎士ミゼルの遍歴 9

第九章 旅の記録(エルロイの言葉)

「旅に出てから、もう何日たっただろうか。ヴォガ峠で山賊たちと戦ったのは、もう十日も前だ。あれからずっと、人家は見えない。土と砂だけの荒野が広がり、ずっと前方にはヤラベアムとアドラムを隔てる山脈が見えてはいるが、いっこうに近づいてこない。
 ロザリンがいなければ、我々は旅の途中で渇き死にしていただろう。ロザリンの魔法で地下水や隠れた泉の場所が分かるため、このような荒野でも何とか旅を続けることができる。
 そのことに感謝はしているのだが、……正直言って、ロザリンが私を見る目が私には少々煩わしい。可愛い娘だし、頭も良く、いい子ではあるのだが、遍歴の旅に女は邪魔だ。腕の未熟な自分のような騎士が、女にうつつを抜かしていては、修行が進まぬ。
 旅のつれづれに、ゲイツとアビエルの二人に武術を教えている。思ったより二人とも筋がいいのに驚いた。人間は血筋ではなく、訓練だ、と思ったが、その一方、ミゼルの事を考えると、やはり血筋によるものかな、とも思う。あの偉大なマリスの息子だから、ミゼルも天才的な武術の才能があるのだろう。しかし、あの馬上槍試合での私の敗北の一因は、ミゼルの乗っていた馬にあることは確かだと思う。いや、それは私の言い訳か。見苦しいことだ……。それにしても、ミゼルがあの馬、ゼフィルを盗まれたというのは、返す返す気の毒な事だ。あの馬なら、五千金、いや、一万金の値打ちはある。いや、金で測るのは、あの馬に失礼というものだろう。いつか、あの馬に乗って、戦場を駆けめぐってみたいものだ。
 やっと国境の山脈の麓に着いた。これまでの土と砂の平野とは打って変わり、鬱蒼とした森林が山の頂まで続いている。森の茂みの間を流れる小川を見つけ、久しぶりに腹一杯水を飲んだ。小川で水を浴びて、旅の埃を落とし、生き返ったような気分だ。夕食には、ミゼルが弓で射止めた鹿の炙り肉と、アビエルが川で捕らえた魚、ロザリンが森で見つけた野いちごという御馳走だ。
 明日は、いよいよこの山脈を越えることになる。良く晴れた夜空に、もの凄いほどの星が見えたが、山脈の上には一際輝く大きな白い星があった。あれは吉兆なのか、それとも凶兆か。」

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プロフィール

HN:
酔生夢人
性別:
男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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