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少年騎士ミゼルの遍歴 13

第十三章 砂漠の盗賊団

 ミゼルたちの旅は、なかなか進まなかった。山脈を越える前に、馬は売り払っていたので、四人とも徒歩である。シャイドで驢馬を一頭買って、それに鎧などの荷物は載せていたからその点は楽だが、慣れない砂の上の歩きには難渋した。しかも、砂漠の暑熱は耐え難い。土地の人間のように長い布を頭に巻いて、目以外の顔をくるんでいないと、日差しで火傷をしかねない。その注意を怠ったアビエルは、すでに顔に火膨れを作っていて、もともとまずい顔が、いっそう見られない顔になっている。他の者も、アビエルほどではないが、日焼けは凄い。
 アビスバの町はとうとう見つからなかった。周りに目印の無い砂漠の旅では、これも仕方の無いことだろう。しかし、アビスバで水の補給をする予定だったのができなくなり、水が底をつきかけているのは大問題である。
「ロザリンがいればなあ」
 アビエルがつぶやいたが、それには他の三人も同感だった。ロザリンがいれば、その魔法で水を見つけてくれただろう。しかし、そのロザリンとは山脈を越える途中ではぐれたままで、その生死も不明である。
「おや、あの土煙は?」
 ミゼルが遠くの砂埃を目敏く見つけて言った。
 やがて、それは一本の線となってこちらに近づいてきた。
「騎馬隊のようだな」
と、エルロイが言った。
「このあたりなら、馬ではなく駱駝でしょう。もしかしたら、盗賊団かもしれませんよ」
 ゲイツの言葉に、他の者たちは顔を見合わせた。
「隊商にしては、荷物を積んでいる様子がないし、それに、こんな砂漠で駱駝を走らせて急ぐ必要もないはずですからね」
 やがて、姿がはっきりと見えてきたが、それはゲイツの推測どおり砂漠の盗賊団だった。半月刀を振りかざして突進してくるその様子は、明らかにこちらを皆殺しにして、その金品を奪おうという意図を表していた。
「数は?」
「三十六人」
 エルロイの問いに、ミゼルが短く答える。あまり視力の良くないエルロイは、遠くの物を見る際には、ミゼルの眼を頼りにしていた。
「エルロイ殿、弓は私が射ます。矢を私に下さい」
 エルロイは頷いて、自分の矢筒をミゼルに渡した。ミゼルは、盗賊たちが矢の射程に入ると同時に、矢を射始めた。
 一人、また一人と盗賊がミゼルの矢で射られて駱駝から落ちるのが見えた。盗賊たちも矢を射返すが、騎馬用の短弓の射程距離は短く、ミゼルたちの所までは届かない。しかし、ミゼルが十人ほどを射る間に、盗賊たちの矢もこちらに届き始めた。ゲイツとアビエルは、驢馬に載せてあったエルロイとミゼルの鎧を着、エルロイとミゼルは盾だけで身を守っている。ゲイツとアビエルの鎧には、敵の矢が当たってカンカンと音をたて、二人は生きた心地もない。
 やがて盗賊たちはミゼルの矢をかいくぐって、ミゼルたちのいる所に殺到した。ミゼルとエルロイは剣でそれを迎え撃ったが、盗賊たちが馬上から斬り下ろす半月刀は、直刀とは違って距離が測りにくく、エルロイとミゼルは苦戦していた。
あと数分のうちには、四人の命は無くなるだろうと思われたその時、ミゼルたちの後ろから砂嵐が巻き起こり、盗賊たちに向かって吹き付けた。下から上に向かって吹き付けるその砂嵐で、駱駝たちは立ち往生し、盗賊の中には棒立ちになった駱駝から落ちる者もいる。
この機を逃さず、ミゼルは再び盗賊たちに矢を射掛け、あっという間に数人を射殺した。こんな至近距離からなら、射損じることはありえない。エルロイも、駱駝の足を斬って、転落した盗賊をすかさず斬り殺す。
やがて、三十六人の盗賊は、すべて砂漠の上で骸となった。
ぜいぜいと荒い息を吐きながら、砂の上に座り込んでいたミゼルとエルロイは、自分たちの後ろに上がった歓喜の声が何のためか、すぐには分からなかったが、やがて後ろを振り向いて、そこにロザリンが二人に微笑しながら立っているのを見たのであった。

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酔生夢人
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男性
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仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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