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蝶のハヒフヘホ

北村薫の「山眠る」(何シリーズというのか分からないが、国文学のネタが多い、「日常の推理」小説である。)の中に、山本健吉が、「百人一句」の中で加藤楸邨の代表句に

日本語を離れし蝶のハヒフヘホ

を選んでいる、と書かれていて、驚いたのだが、加藤楸邨にはそれ以外に名句は無いのか、と探してみると、有名な句がたくさんある。学校教科書に載るような句も5つ6つある。それが、何で意味不明の「蝶のハヒフヘホ」が代表句なのか。
下のリストで言えば、

鰯雲ひとに告ぐべきことならず

寒雷やびりりびりりと真夜の玻璃

雉子の眸のかうかうとして売られけり

鮟鱇の骨まで凍ててぶちきらる

木の葉ふりやまずいそぐないそぐなよ

しづかなる力満ちゆきばつたとぶ

などは特に有名であり、私も名句だと思うが、「蝶のハヒフヘホ」はまったく意味不明であり、私の日本語読解力では、何が「ハヒフヘホ」なのか分からない。ついでに言えば、同じ「山眠る」の中で「にこにこせりクリスマスケーキ買ふ男」が加藤楸邨にしか詠めない名句だとされているが、どこが名句なのか。その辺の素人俳人が詠んだ駄句だとしか思えない。まあ、「俳句が詠じる対象や俳句の言葉づかいなど、こんなものでいいのだ」と放り投げたような境地が素晴らしい、とでも言うなら、俳句というジャンルそのものの否定ではないか。舌頭に千転した結果が「にこにこせりクリスマスケーキ買ふ男」か。芭蕉が真っ赤になって怒るだろう。
これもついでに言えば、芭蕉の名句「海くれて鴨のこゑほのかに白し」を「海暮れてほのかに白し鴨のこゑ」のほうがいいといい、しかも、どちらにしても駄句だと言い切る文学者が出て来るが、キチガイだろう。

(以下引用)


デジタル句集


俳句季語出典
はしりきて二つの畦火相博てる畑焼く寒雷
かなしめば鵙金色の日を負ひ来寒雷
枯れゆけばおのれ光りぬ枯木みな枯木寒雷
蟻殺すわれを三人の子に見られぬ寒雷
道問へば露地に裸子充満す寒雷
鰯雲人に告ぐべきことならず鰯雲寒雷
さむきわが影とゆき逢ふ街の角寒し寒雷
寒雷やびりりびりりと真夜の玻璃寒雷寒雷
長き長き春暁の貨車なつかしき春曉寒雷
蟇誰かものいへ声かぎり颱風眼
蝸牛いつか哀歓を子はかくす蝸牛颱風眼
白地着てこの郷愁の何処よりぞ白絣颱風眼
炎天下くらくらと笑わききしが炎天颱風眼
蚊帳出づる地獄の顔に秋の風秋風颱風眼
灯を消すやこころ崖なす月の前颱風眼
山蟹のさばしる赤さ見たりけり穂高
本売りて一盞さむし春灯下春灯穂高
さえざえと雪後の天の怒濤かな雪後の天
春愁やくらりと海月くつがへる春愁雪後の天
春寒く海女にもの問ふ渚かな春寒雪後の天
牧の牛濡れて春星満つるかな春星雪後の天
鳥雲に隠岐の駄菓子のなつかしき鳥雲に入る雪後の天
春田打つかそかな音の海士郡春田雪後の天
隠岐やいま木の芽をかこむ怒濤かな木の芽雪後の天
春陰や巌にかへりし海士が墓春陰雪後の天
牡丹の芽炎となりし怒濤かな牡丹の芽雪後の天
十二月八日の霜の屋根幾万雪後の天
生きてあれ冬の北斗の柄の下に冬北斗雪後の天
毛糸編はじまり妻の黙はじまる毛糸編む火の記憶
燕はやかへりて山河音もなし燕帰る火の記憶
子がかへり一寒燈の座が満ちぬ寒燈火の記憶
冴えかへるもののひとつに夜の鼻冴返る火の記憶
火の奧に牡丹崩るるさまを見つ牡丹火の記憶
九十九里の一天曇り曼珠沙華曼珠沙華野哭
雉子の眸のかうかうとして売られけり野哭
飴なめて流離悴むこともなし悴む野哭
死ねば野分生きてゐしかば争へり野分野哭
凩や焦土の金庫吹き鳴らす野哭
死や霜の六尺の土あれば足る野哭
天の川怒濤のごとし人の死へ天の川野哭
炎昼の女体のふかさはかられず炎昼野哭
鮟鱇の骨まで凍ててぶちきらる鮟鱇起伏
蜥蜴交るくるりくるりと音もなく蜥蜴起伏
猫と生れ人間と生れ露に歩す起伏
木の葉ふりやまずいそぐないそぐなよ木の葉起伏
霜夜子は泣く父母よりはるかなものを呼び霜夜起伏
黴の中言葉となればもう古し山脈
税吏汗し教師金なし笑ひあふ山脈
チンドン屋枯野といへど足をどる枯野山脈
落葉松はいつめざめても雪降りをり山脈
しづかなる力満ちゆきばつたとぶ飛蝗山脈
玉虫はおのが光の中に死にき玉虫山脈
春の暮暗渠に水のひかり入る春の暮山脈
原爆図唖々と口あく寒鴉寒鴉まぼろしの鹿
大き茶碗よわが鼻入れて冬温し冬暖まぼろしの鹿
掌にありて遠くはるかに春の貝まぼろしの鹿
墓二三桜と光る深田打ち田打まぼろしの鹿
夜の椿果肉のごとき重さもつ椿まぼろしの鹿
恋猫の皿舐めてすぐ鳴きにゆく猫の恋まぼろしの鹿
力尽きたる色独楽の色わかれゆく独楽まぼろしの鹿
つぎつぎに子ら家を去り鏡餅鏡餅まぼろしの鹿
花を拾へばはなびらとなり沙羅双樹沙羅双樹まぼろしの鹿
まぼろしの鹿はしぐるるばかりかな時雨まぼろしの鹿
葱きざむこの音とわが四十年まぼろしの鹿
霧にひらいてもののはじめの穴ひとつ吹越
はこふぐの負ひて生きたる箱のさま河豚吹越
青虫のひたゆくは言持たぬため青虫吹越
きらきらと目だけが死なず鬼やんま鬼やんま吹越
湯に透きて寒九の臍ののびちぢみ寒の内吹越
口見えて世のはじまりの燕の子子燕吹越
水を出て白桃はその重さ持つ吹越
いなびかり女体に声が充満す稲妻吹越
おぼろ夜のかたまりとしてものおもふ朧夜吹越
鬼おこぜ石にあらずと動きけり鬼おこぜ吹越
バビロンに生きて糞ころがしは押す黄金虫吹越
チグリスのうつつの蛙鳴きにけり吹越
ぽこぽこと暗渠出できし茄子の馬茄子の馬吹越
吹越に大きな耳の兎かな吹越
おぼろ夜の鬼なつかしや大江山朧夜怒濤
ありまきの雌だけの国あをあをと蟻巻怒濤
こぼれねば花とはなれず雪やなぎ雪柳怒濤
降りだして雪あたたかき手毬唄手毬怒濤
牡蠣の口もし開かば月さし入らむ牡蠣怒濤
牡丹の奥に怒濤怒濤の奥に牡丹牡丹怒濤
ふくろふに真紅の手毬つかれをりふくろう怒濤
天の川わたるお多福豆一列天の川怒濤
たそがれや蹠はなれし瓜の種怒濤
つながれてゐて風船の土を打つ風船怒濤
朧にて昨日の前を歩きをり怒濤
霜柱どの一本もめざめをり霜柱怒濤
どこまでも丸き冬日とあんこ玉冬日雪起し
百代の過客しんがりに猫の子も猫の仔雪起し
羽抜鶏目玉ふたつの夕焼くる羽抜鶏雪起し
風鈴とたそがれてゐしひとりかな風鈴望岳
目ひらけば母胎はみどり雪解谿雪解望岳
双六の母に客来てばかりをり双六望岳
日本語をはなれし蝶のハヒフヘホ死の塔
熱沙上力尽きたる河は消ゆ夏の河死の塔
熱風や土より湧きし仏陀の顔熱風死の塔
千年の泉ごぼりとたなごころ死の塔

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考えること
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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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