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家族原理の擬制化

小田嶋隆師のネット記事の一部だが、「家族原理」という主題は考察対象として面白い。
まあ、家族というのは「感情的紐帯」であり、ことさらに頭で理屈付ける必要もないのが普通だろうが、一生の大半を一緒に暮らす存在であるからには、恋愛や結婚や仕事と同様に重大な社会システム、あるいは生存システムだろう。家族に較べれば、恋愛など暇人の趣味のようなものだ。嫌になったらいつでも関係を絶てる。家族はそうはいかない。まあ、いかないこともないが、かなりな精神エネルギーを要するだろう。
逆に、家族であることの幸福も、無限大である。家族のため、特に自分の子供のためなら自分の命を犠牲にしてもいいという親は、かなりな割合に上ると思う。というのは、子供というのは「自分自身の生まれ変わり」であるからだ。つまり、自己愛の一種としても子供は愛されるが、実は、「自分の生まれ変わりだが、自分そのものではなく、だからこそ余裕を持って眺めることが楽しくでき、しかも自分より長くこの世に生きてくれると期待できる」のが子供だと言えるのではないか。自分が死んでも別の自分、自分の分身がこの世界で生きている、というのはなかなか楽しい空想だろう。
というわけで、私は家族という「制度」に肯定的だが、会社やチームなどの社会組織を家族原理で運用するという、「家族の擬制化」は、小田嶋師の言うように、かなり気持ち悪い。つまり、そこではどのような理不尽も「家族なんだから」という一言で許され、権力保持者にとって実に都合のいい事態が生じるからである。
なお、「擬制」というのは、私は調べたことは無いが、「制度もどき」ということだろう。制度なら、はっきりとした規約などが明文化されているが、「制度まがい」「制度もどき」だから、すべてがなあなあで、上の人間に都合よくすべてが運ばれるわけである。まさに、今回の吉本事件は、その「家族という擬制を悪用した社会集団」の話なのである。
なお、法的には通常の意味での家族というのは「制度」となっているとは思うが、確かめてはいない。法律の条文など、必要が無いとほとんど読まないからだ。
よけいな付け足しをすれば、細田守監督の「サマーウォーズ」は娯楽アニメとしてはいい出来だが、その中心思想が「家族の絆の聖化」であり、「権力は素晴らしい」というものだと私は思うので、全面的肯定はしにくい危険なアニメだとも思っている。(私は読んでいないが、断片的に仄聞した限りでは、町山智弘も、たぶん同じ意見だと思う。)であるから、前に一度二度見たが、最近録画したそれも、今見たらあまり楽しくないだろうな、ということで見ていない。

(以下引用)



《私が「家族」「結界」の話を持ち出したのは、吉本興業の会長が「うちの芸人たちは家族だと思っているから、いちいち契約書は交わさない」と言ったからだ。社員数人の家族経営ならいざしらず、売り上げ何百億の企業が、「家族」なんていう不合理かつ抑圧的な原理で運営されて良いはずがない。 22:08-2019年7月24日



《年間売り上げ何百億円の大企業が、「家族」の美名のもと、契約書すら交わさずに所属タレントを使役している「不合理」さと「抑圧」を指摘したわけで、つまり「家族」が実際の「家族」の枠組からはみ出して、「擬制」として巨大な組織に適用される時、それは抑圧的な原理に変貌するということです。
RT:@xxx『「家族」なんていう不合理かつ抑圧的な原理』って、世界の大半の人間は、何かしらの家族に属し、自らの家族を愛し、そのことについて疑問を感じずに生きてるんですけど、そういう人達に喧嘩を売っていると読み取っていいのかな、これは 8:12-2019年7月24日



 以上のツイートの流れを追えばわかっていただけると思うのだが、私は、「家族」への愛情や帰属意識そのものを攻撃したのではない。家族的なつながりの価値を否定しているのでもない。



 私が一連のツイートを通じて強調しているのは、法に基づいたコンプライアンスを重視すべき企業が、「家族原理」を持ち出すことへの違和感だ。理由は、わざわざ説明するまでもないことなのだが、血縁上の文字通りの家族以外のメンバーを対象に拡張的に適用される家族原理は、多くの場合、不合理な支配隷従関係の温床となるからだ。具体的に言えば、安易に拡張適用された「家族」は、上位者による抑圧を正当化する内部的な桎梏として、下位者を集団に縛り付ける。そして、吉本「一家」の擬制は、世にあまたある「一家」を名乗るアウトロー集団がそうであるように、現代の企業としては論外の存在だ。もちろん、政府から補助金を受ける企業としては、さらにさらに論外だし、地方自治体の協力企業としても万国博覧会の看板を背負う会社としても、完全に資格を欠いている。




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