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少年騎士ミゼルの遍歴 25

第二十五章 灼熱の砂漠

 翌日、朝早い時刻に、ミゼルはマハンの屋敷を出た。ロザリン、ゲイツ、アビエル、アロン、マハンらが見送るのに手を振って、ミゼルはゼフィルを砂漠の中へと歩ませる。ゼフィルの後ろには、荷運び用の駱駝が一頭繋がれている。
 アサガイが砂丘の向こうに姿を隠すころには、日は高く昇り、焼け付くような暑さが襲ってきた。ゼフィルも、慣れない砂の上の歩みに苦労している。
 目的地は、北西の海岸である。そこの港町ハビラムが、ヘブロンには最も近いはずだ。そこでなら、船も求められるだろう。しかし、たった一人でヘブロンまで行き着けるだろうか。ミゼルの心は不安で一杯だった。旅の最初の頃は、すべてが未知だったから、旅の苦難についても悩むことはなかった。しかし、ヤラベアムからアドラムまでの旅の間に、ミゼルは、この旅が容易な旅ではないことが分かってきていた。ロザリンの魔法、ゲイツの世間知、エルロイの武勇、アビエルの機知があって、旅の危険から脱出し、旅の苦労が慰められたのである。だから、表面では仲間たちと明るく別れたものの、ミゼルの心は孤独を感じていた。なまじ仲間がいなければ、こんな孤独を感じることもなかっただろう。
 何日か砂漠の旅をした後、ミゼルは砂漠の真ん中で水を切らしてしまった。水は、アロンの忠告で、駱駝の背に革袋四つ分乗せていたのだが、ゼフィルがひどく水を欲しがるので、飲ませているうちに、足りなくなってしまったのだ。
 水なしで、さらに一日旅をすると、ミゼルの頭は朦朧としてきた。ずっと前から、ゼフィルの負担を軽くするために、ゼフィルには乗らず、自分の足で歩いていたのだが、灼熱の太陽の中で、ミゼルの足は、もはや一歩も進まなかった。急に目の前が暗くなったミゼルは、熱い砂の上に倒れた。
 倒れた瞬間、ミゼルは祖父シゼルの待つ故郷のことを想っていた。あの、さわやかな風の吹く草原を。
「お祖父さん、僕はもう終わりです。期待を裏切って済みません……」
 そして、ミゼルの意識は闇の中に沈んでいった。
 気が付くと、ミゼルの体は涼しい木陰に横たえられていた。頭には、水に濡らした布が置かれて、気持ちよく冷やされている。ミゼルは、思わず、その布を取って、布に含まれた水を吸おうとした。
「おっと待った。水ならあるぜ。ほら、飲みな」
 誰かの差し出した水筒を受け取って、ミゼルはその中の水をむさぼるように飲んだ。
 意識がはっきりと戻ってきた。
「こんな砂漠のど真ん中で遭うのは、奇跡に等しいが、俺が見つけなけりゃあ、お前さん、ここで日干しになっていたぜ」
 男は、日に焼けた顔で、にかっと白い歯を見せて笑った。顔一杯に広がるようなでかい口だ。その顔には見覚えがあった。ピオである。ミゼルからゼフィルを盗んだ男だ。
「実は、お前さんに用があって、アサガイを訪ねたんだ。そこで、お前さんの旅の目的も聞いた。どうだい、一つ、俺を仲間にしないかね。どうやら、この旅は、お前さん一人じゃあ、無理なようだぜ。俺も、長年の泥棒稼業に嫌気がさして、何か面白いことをしてみたいと思っていたところなんだ」
 ピオの申し出に、ミゼルは一瞬考え込んだ。
「もちろん大歓迎だが、ヘブロンから、エタム、レハベアムという、まだ誰も行ったことのないような所までの危険な旅だよ。途中で命を無くすことになるかもしれないが、それでもいいのか?」
「望むところさ。もともと、あって無いような命だ。まだ見たことも無いような所が見られるなんて、面白いじゃねえか」
 ミゼルにとっては、命の恩人だ。それに、この男は泥棒だが、けっして悪い男ではないとミゼルは感じていた。ミゼルはピオの申し出を有り難く受け入れた。これで、孤独から解放されると思うと、ミゼルの心にほっとした思いが広がった。

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酔生夢人
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男性
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仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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