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少年騎士ミゼルの遍歴 54

第五十四章 カリオスの四天王

「さて、神殿の奥に行ってみるか」
 プラトーの言葉に一同頷いて歩き出した。
 神殿の大広間の奥に入り口があり、その中は暗闇だった。
 その暗闇からは、風が吹きすさぶようなゴオーッという音が聞こえてくる。
「この先は地獄にでも続いているみてえだな」
 ピオが気味悪そうに言った。
「かもしれん」
 プラトーが真面目な顔で頷いた。
「だが、ここまで来たら、行くしかあるまい。皆、心の準備はいいか」
 プラトーが先頭になってミゼルたちはその暗闇に足を踏み入れた。
 そこは室内ではなく、まったくの異世界だった。
 まるで他の星にでも来たみたいである。空には無数の星が輝き、その星明かりで周りが見えるくらいである。そして、地上は、砂漠と岩山しかない。その岩山の形が、地球では見られない奇妙な形をしている。あたりはまったくの静寂である。
「お前達、わしに何の用があってここに来た」
 空から声がした。ミゼルは声のした方を見上げて叫んだ。
「カリオスだな。我々はお前を倒すために来たのだ」
 「面白い。わしは全能者として、することもなく退屈していたところだ。相手をしよう。だが、その前に、お前たちの力がどの程度のものか見せて貰おうか。お前たちは、わしの十二神のうち八人まで倒したようだな。だが、あと四人倒せるかな」
 その声と共に、空中に四つの影が現れ、地上に降り立った。
「十二神の一つ、アライス」
「同じくアフラ」
「同じくゼロイス」
「同じくミネヴァ」
アライス、アフラ、ゼロイスと名乗ったのは男の神で、ミネヴァは女の神だったが、どれも様々な鎧や兜に身を包んだ、雄々しく美しい神々だった。なぜ、悪魔の手下にこのような美しい神々がいるのか、ミゼルは不思議に思った。
「この四人は、わしの四天王。生きていた時は、その時代の地上最強の勇者であった。お前達の武勇がどれほどのものかは、この者たちと戦うことで分かるだろう。そこの女と老人の魔法は、わしの支配するこの世界では通じん。武勇の力だけで戦ってみるがいい」
「望むところだ!」
 マリスが武者震いをして答えた。彼にとって、このような場面こそ、もっとも待ち望んだ場面だろう。
 ミゼル、マリス、ピオ、リリアの四人は、並んでカリオスの四天王と向かい合った。
「行くぞ!」
 声を上げて、ミゼルはアライスに斬りかかった。アライスは、その打撃を盾で受け止め、盾の陰から剣を突き出す。しかし、ミゼルはその手は予想していた。わずか一寸の差で剣をかわし、その剣を左腕と鎧の間に抱え込んだ。このような戦い方を予想もしていなかったアライスは慌てた。
 ミゼルは、自分の剣をアライスの兜と鎧の間の隙間に差し込んだ。
 アライスは、首に剣を刺されて息絶えた。
 だが、この間に、ピオはゼロイスに、リリアはミネヴァにそれぞれ倒されていた。
「リリア!」
 ミゼルは叫んでリリアに駆け寄ろうとしたが、その前にミネヴァが立ちふさがる。
「今度は私の相手をして貰おう」
 ピオを倒したゼロイスも、ミゼルの所へ向かおうとした。
「待て! こいつを受けろ!」
 地面に倒れていたピオが体を起こして、剣を投げた。
 剣はまっすぐに飛んでいき、肩当てだけのゼロイスの腹部に刺さった。ゼロイスは、ぐらりと揺れたが、気丈にこらえて、自分の手でその剣を抜いた。
 ミゼルはミネヴァと戦っていた。
 これほど身軽な相手と戦うのは初めてだった。ミゼルの打撃をひらりひらりとかわしながら、思いも掛けない時に攻撃を加えてくる。軽装備の相手に対し、鎧兜で完全武装したミゼルは、動きの点では、圧倒的に分が悪い。
「ミゼル、動くな。相手の攻撃を受けて、機を待て!」
 マリスがミゼルに叫んだ。マリスの方は、死闘の末にアフラと呼ばれた神を倒し、ゼロイスと戦いながら、ミゼルの戦いぶりを見ていたのである。
(そうだ、神の鎧兜を着ているのだから、多少の打撃は耐えられるはずだ。相手が近づいた時こそ、攻撃の機会だ)
 次にミネヴァが攻撃した時、ミゼルはわざとその攻撃を受けながら、ミネヴァの体が動こうとする方角に突きを入れた。攻撃と同時に飛びすさろうとしたミネヴァに、その剣の先端が届いた。
「あっ!」
と声を上げてミネヴァは腕を押さえた。利き腕である右腕に傷を負ったのである。
 ミネヴァは剣を左手に持ち替えて、再び攻撃してきた。しかし、今ではミゼルはミネヴァとの間合いを掴んでいた。見える姿にではなく、その先の予想される位置に向かって剣を出せばいいのである。
 ミネヴァは、振り下ろされる剣の下に自分から飛び込んできた。
 自分の足元に倒れたミネヴァの美しい姿を見て、ミゼルは悲しみの情を感じたが、今はその場合ではない。
 ミゼルはリリアの所へ駆け寄った。
 リリアの傍には、すでにプラトーがいた。
 プラトーの腕の中で息絶え絶えのリリアは、ミゼルの顔を見て微笑んだ。
「ミゼル、役に立てなくて御免なさい」
「何を言うんだ。君をこんな目に遭わせるなんて、ぼくは何という事をしたのだ」
 リリアはかぶりを振った。
「いいえ、これは私も望んだことよ。ミゼル、楽しかったわ」
 リリアは目を閉じた。
「ミゼル、リリアは大丈夫じゃ。リリアとピオはわしが何とかする。お前は、マリスと共に、カリオスを倒すのじゃ」
 プラトーの言葉に、ミゼルはためらいながらも頷いた。
「マリス、ピオは?」
 ミゼルはピオの傍に片膝をついてピオを見ているマリスに聞いた。
「だいぶひどい傷だが、息はある」
 マリスは立ち上がった。
「これでお前と私だけになったな。思い残す事なく戦えそうだ」
 マリスは微笑してミゼルを見た。

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酔生夢人
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仙人
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考えること
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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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