第五十二章 十二神
カリオスの神殿は、まったく人気が無かった。建物の中は薄暗く、冷気が漂っている。自然の寒さだけではなく、異世界からの冷気のようである。
馬を下りて神殿の中に入ったミゼルたちは、神殿に飾られた様々な邪神の像を気味悪く眺めながら神殿の奥に向かった。
「人間が、ここに何の用がある」
突然、その邪神の像の一つが目を開き、物を言った。人間の体に牛の頭を持った神だ。
「ここから先には人間は通さぬ」
もう一体の像が言った。こちらは、同じく人間の体に鳥の頭をしている。大きさは、どちらも人間の三倍ほどである。
すると、その大広間にあった十二の像が一斉に動き出した。
「我々十二神がお前たちの相手をしよう」
そう言ったのは、異国の武士の鎧を着た神である。こちらは人間の顔だが、一つの頭に三つの顔があり、六本の腕を持っている。しかもその一つ一つに剣や槍を持っている。
「こんな者たちなど、私一人で十分だよ」
裸体に薄物の衣服を纏った、美しいが残忍そうな顔をした女神が前に出た。その髪が蠢いているのは、髪の一本一本が蛇なのである。
「お前達、私を御覧」
女神の言葉に、ミゼルたちは思わず女神を見た。
「見ては駄目! あいつはゴーゴンよ!」
リリアが叫んだ時には既に遅く、ミゼル、ピオ、マリスの三人の体は石に変わっていた。
「やれやれ、これだから俗人は困る」
プラトーがその手に持った杖を三人の体に打ち下ろしながら呪文を唱えると、三人の体は元に戻った。
「リリア、あいつと戦えるのはお前だけだ。行け!」
プラトーの言葉に頷いて、リリアはゴーゴンに立ち向かった。
ゴーゴンは石化の目で睨み付けてリリアを石に変えようとするが、リリアは目を閉じて、心の目で相手を見ながら進んでいく。
ゴーゴンは悲鳴を上げて逃げようとしたが、すでに遅く、振り下ろされたリリアの剣が、その体を真っ二つに唐竹割りにしていた。と同時に、ゴーゴンの体は消え去った。
普通の体に戻ったミゼルたちは、それぞれ別の邪神の像を相手に戦い始めていた。
マリスは、人身牛面の像と、ピオは人身鳥面の像と、ミゼルは六本腕の武人像とそれぞれ戦っている。
ミゼルは武人像の持つ六つの武器に手古ずっていた。一度に六人を相手にしているようなものである。武器の中には、投網や分銅付きの鎖もあって、離れた距離からでもこちらを襲ってくる。
飛来するそれらの武器を破邪の盾で受け止め、跳ね返しながら、その間隙を縫って攻撃する。
一本目、二本目と相手の腕を切り離すと、相手の攻撃力は弱まっていった。
やがてミゼルの剣が相手の心臓に突き刺さり、武人像は消え失せた。
マリスとピオもそれぞれ苦戦しながら相手を倒したようである。
だが、十二神像は、まだ八体残っている。後ろに控えて戦いを眺めていた残りが、ずいっと前に進みでた。
「なかなかやるな。だが、我らは倒せまい」
最初に出てきたのは、先ほどの四体より一際大きい神像だった。騎士の姿をし、顔も体も人間だが、目は一つ目で赤く光り、妖気が漂っている。
「我はデモンの武将ゴンダルヴァ」
「同じくガルーダ」
「同じくベルゼブル」
「同じくアルージャ」
ガルーダと名乗ったのは、背中に羽根が生え、顔に嘴を持った神であり、ベルゼブルは人間の体に蝿の頭を持った、毛むくじゃらの裸体の神である。アルージャは、白衣に杖を持った老人だ。見たところは、普通の人間にも見えるが、目が緑色に光っている。
「まずはわしから行こう」
アルージャが杖を振り上げた。すると、雷鳴と共にミゼルたちの上に稲妻が落ちた。
「しまった。遅かったか」
プラトーが叫んで、ミゼルたちを光のカーテンで包んだ。
床に倒れているミゼルたちをリリアが介抱する。回復の呪文を三人に掛けるが、すぐには意識が戻らない。
「光のカーテンを作るとは、なかなかやるな。だが、それならわしの出番だ」
ゴンダルヴァが長剣を抜いてミゼルたちに歩み寄る。
プラトーは、印を結んで呪文を唱えた。
ミゼルたちを包む光のカーテンが宙に浮いた。
「愚か者め! このガルーダ様がおる事を忘れたか」
ガルーダが、背中の羽根を羽ばたかせて飛んだ。その後ろから、ライオンのライザが飛びかかり、地面に引きずり下ろす。
「何だ、この動物は」
「それはただのライオンではない。地獄の番犬ケルベロスが姿を変えた物だ」
プラトーの言葉と共に、ライザの姿が変わっていった。体中から光りを放つ巨大な黒い犬の姿になり、口からは炎を吹いている。
ライザに組み敷かれて、ガルーダはもがいている。
その間に、ミゼルたちは意識を取り戻した。
ライザはガルーダの喉笛に噛みついたが、ガルーダを救いに来たゴンダルヴァの剣が、そのライザの肩口に斬りつけていた。
「ライザが危ない!」
リリアは指から電光を放った。
止めを刺そうと剣を振り上げたゴンダルヴァは、その電光に目がくらんで、狙いを誤った。
「ちっ、小娘、それしきの魔力で我々と戦おうというのか」
ベルゼブルが、その蝿の頭の吻から黒い息を吹いた。すると、見る見るうちに光のカーテンは消え去り、ミゼルたちは地上に落下した。
カリオスの神殿は、まったく人気が無かった。建物の中は薄暗く、冷気が漂っている。自然の寒さだけではなく、異世界からの冷気のようである。
馬を下りて神殿の中に入ったミゼルたちは、神殿に飾られた様々な邪神の像を気味悪く眺めながら神殿の奥に向かった。
「人間が、ここに何の用がある」
突然、その邪神の像の一つが目を開き、物を言った。人間の体に牛の頭を持った神だ。
「ここから先には人間は通さぬ」
もう一体の像が言った。こちらは、同じく人間の体に鳥の頭をしている。大きさは、どちらも人間の三倍ほどである。
すると、その大広間にあった十二の像が一斉に動き出した。
「我々十二神がお前たちの相手をしよう」
そう言ったのは、異国の武士の鎧を着た神である。こちらは人間の顔だが、一つの頭に三つの顔があり、六本の腕を持っている。しかもその一つ一つに剣や槍を持っている。
「こんな者たちなど、私一人で十分だよ」
裸体に薄物の衣服を纏った、美しいが残忍そうな顔をした女神が前に出た。その髪が蠢いているのは、髪の一本一本が蛇なのである。
「お前達、私を御覧」
女神の言葉に、ミゼルたちは思わず女神を見た。
「見ては駄目! あいつはゴーゴンよ!」
リリアが叫んだ時には既に遅く、ミゼル、ピオ、マリスの三人の体は石に変わっていた。
「やれやれ、これだから俗人は困る」
プラトーがその手に持った杖を三人の体に打ち下ろしながら呪文を唱えると、三人の体は元に戻った。
「リリア、あいつと戦えるのはお前だけだ。行け!」
プラトーの言葉に頷いて、リリアはゴーゴンに立ち向かった。
ゴーゴンは石化の目で睨み付けてリリアを石に変えようとするが、リリアは目を閉じて、心の目で相手を見ながら進んでいく。
ゴーゴンは悲鳴を上げて逃げようとしたが、すでに遅く、振り下ろされたリリアの剣が、その体を真っ二つに唐竹割りにしていた。と同時に、ゴーゴンの体は消え去った。
普通の体に戻ったミゼルたちは、それぞれ別の邪神の像を相手に戦い始めていた。
マリスは、人身牛面の像と、ピオは人身鳥面の像と、ミゼルは六本腕の武人像とそれぞれ戦っている。
ミゼルは武人像の持つ六つの武器に手古ずっていた。一度に六人を相手にしているようなものである。武器の中には、投網や分銅付きの鎖もあって、離れた距離からでもこちらを襲ってくる。
飛来するそれらの武器を破邪の盾で受け止め、跳ね返しながら、その間隙を縫って攻撃する。
一本目、二本目と相手の腕を切り離すと、相手の攻撃力は弱まっていった。
やがてミゼルの剣が相手の心臓に突き刺さり、武人像は消え失せた。
マリスとピオもそれぞれ苦戦しながら相手を倒したようである。
だが、十二神像は、まだ八体残っている。後ろに控えて戦いを眺めていた残りが、ずいっと前に進みでた。
「なかなかやるな。だが、我らは倒せまい」
最初に出てきたのは、先ほどの四体より一際大きい神像だった。騎士の姿をし、顔も体も人間だが、目は一つ目で赤く光り、妖気が漂っている。
「我はデモンの武将ゴンダルヴァ」
「同じくガルーダ」
「同じくベルゼブル」
「同じくアルージャ」
ガルーダと名乗ったのは、背中に羽根が生え、顔に嘴を持った神であり、ベルゼブルは人間の体に蝿の頭を持った、毛むくじゃらの裸体の神である。アルージャは、白衣に杖を持った老人だ。見たところは、普通の人間にも見えるが、目が緑色に光っている。
「まずはわしから行こう」
アルージャが杖を振り上げた。すると、雷鳴と共にミゼルたちの上に稲妻が落ちた。
「しまった。遅かったか」
プラトーが叫んで、ミゼルたちを光のカーテンで包んだ。
床に倒れているミゼルたちをリリアが介抱する。回復の呪文を三人に掛けるが、すぐには意識が戻らない。
「光のカーテンを作るとは、なかなかやるな。だが、それならわしの出番だ」
ゴンダルヴァが長剣を抜いてミゼルたちに歩み寄る。
プラトーは、印を結んで呪文を唱えた。
ミゼルたちを包む光のカーテンが宙に浮いた。
「愚か者め! このガルーダ様がおる事を忘れたか」
ガルーダが、背中の羽根を羽ばたかせて飛んだ。その後ろから、ライオンのライザが飛びかかり、地面に引きずり下ろす。
「何だ、この動物は」
「それはただのライオンではない。地獄の番犬ケルベロスが姿を変えた物だ」
プラトーの言葉と共に、ライザの姿が変わっていった。体中から光りを放つ巨大な黒い犬の姿になり、口からは炎を吹いている。
ライザに組み敷かれて、ガルーダはもがいている。
その間に、ミゼルたちは意識を取り戻した。
ライザはガルーダの喉笛に噛みついたが、ガルーダを救いに来たゴンダルヴァの剣が、そのライザの肩口に斬りつけていた。
「ライザが危ない!」
リリアは指から電光を放った。
止めを刺そうと剣を振り上げたゴンダルヴァは、その電光に目がくらんで、狙いを誤った。
「ちっ、小娘、それしきの魔力で我々と戦おうというのか」
ベルゼブルが、その蝿の頭の吻から黒い息を吹いた。すると、見る見るうちに光のカーテンは消え去り、ミゼルたちは地上に落下した。
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