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少年騎士ミゼルの遍歴 44

第四十四章 雪

 やがてシズラの町が見えてきた。その頃から雪が降り出していたが、白い帳の中に灰色に横たわるシズラの町は、死の眠りの中にあるようだ。
シズラの町から少し離れた林の中に廃屋を見つけ、ミゼルたちはその中に入って相談をした。
「まず、町の状況をオランプに探ってきて貰おう。宮殿に潜入するのにはどこがいいか、牢屋の場所はどこか、などが分かると有り難い」
 ミゼルが言うのをピオが押しとどめた。
「いや、俺も一緒に行こう。建物に侵入するのは、俺の本職だ。偵察はお手の物さ。それに、オランプが危険な目に遭った場合は助けが必要だからな」
 ミゼルも、その言葉に頷いた。
「日暮れまでには戻る。ミゼルとリリアは、ここで待っていろ」
 ピオは一度行きかけて足を止め、ミゼルを呼び寄せてリリアに聞かれないように小声で言った。
「お互い、明日はこの世にいないかもしれない身だ。せっかくのこの時間を無駄にするなよ。思い残すことが無いようにな」
 ピオはにやりと笑って、ミゼルに片目をつぶってみせた。
「ピ、ピオ、何を言ってるんだ」
 ミゼルは顔を赤らめて言ったが、ピオはすでに歩み去っていた。
 ピオたちが行ってしまうと、ミゼルとリリアはぎこちない沈黙に包まれた。考えてみると、リリアが仲間に加わって以来、二人切りになったのは初めてである。
「この旅が終わったら……」
 ミゼルはやっとのことで口を開いた。
「えっ?」
 リリアが聞き返した。
「この旅が、もしも無事に終わったら、ぼくと結婚してください」
 ミゼルは言った後で、激しく後悔した。身の程を知らない申し込みをしてしまった、とミゼルは自分を責めた。
「はい」
 リリアは真面目な顔で頷いた。
「えっ?」
 今度はミゼルが聞き返す番だった。リリアの返事が信じられなかった。
「はい、と申しました。ミゼルさんの気持ちはずっと分かってましたわ。私、魔法使いですもの。でも、私の気持ちをミゼルさんは分からなかったみたいですね。ずいぶん勘が鈍いこと」
 リリアはいたずらっぽく微笑んだ。
 ミゼルは、その一言で天国に舞い上がった。
「リリアさん……」
 ミゼルはリリアの手を取った。
 リリアが目を閉じて顔を少し上向きにしたのが何の意味かは、女には気の弱いミゼルでも理解できた。ミゼルは胸をどきどきさせながら自分の顔をリリアの美しい顔に近づけた。
 
ちょうど日が沈んで、あたりが暗くなった頃、ピオとオランプは二人の所に戻ってきた。
「カリオスは宮廷ではなく、神殿にいるらしい。我々にとっては都合がいい」
 ピオは、地面に地図を描いて、町の様子を説明した。
「宮殿は、町の西北に、山を背にして立っている。神殿は、そのさらに奥だ。山の二合目くらいの所だ。牢獄は、宮殿の西側の地下にある。宮殿の門は、南が正門で、北が裏門だ。城壁の上には四つの角に物見台があって、絶えず監視兵が巡視している。だが、俺なら、監視兵に見つからずに忍び込む事ができる」
 ミゼルは頷いた。
「町の者や兵士に疑われなかったか?」
「兵士に呼び止められたが、オランプが相手をしてくれた。俺は馬鹿のふりをしていた。そういうのは得意なんだ」
「ははは、見たかったな。ともかく、これで様子はわかった。で、どうする?」
「俺が監視兵の隙を見て城壁に登り、お前達を引き上げる」
「そうだな。……神の武具を着ていれば、正面からでも突破できないことはないが、無駄な人死にはなるべく避けたい。忍び込むことにしよう」
 ミゼルは、オランプに向き直った。
「オランプ、有り難う。君のお陰で、ここまで来られた。後は、君には危険すぎるから、君とはここで別れよう。これは、君へのお礼だ」
 ミゼルはオランプにも宝石を一つ与えた。
「これは有り難く頂きます。だが、金があっても、国が今のままじゃあ、奴隷のような暮らしからは抜け出せない。どうか、カリオスを倒して、この国をまともな国にしてくださいよ」
 オランプの言葉に、ミゼルは頷いた。オランプは名残惜しそうに振り返りながら、雪の中を去っていった。
 ミゼルたちは、いよいよだ、という思いで武者震いした。

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酔生夢人
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男性
職業:
仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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