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少年騎士ミゼルの遍歴 39

第三十九章 神の武具

ミゼルたちは、一人でシャクラ神殿に登っていったリリアの戻るのをじりじりしながら待っていた。シャクラ神殿には、神官や巫女以外が入ることは許されないのである。大猿や大蛇は、大昔から神殿を守っている神の使いらしい。ラミア一族の末裔であり、神官の娘であるリリアには、彼らは危害を加えないだろうというリリアの言葉で、ミゼルたちは山の麓で待つことにしたのだが、ミゼルにとってはリリアの無事が分からない不安に耐えていることのほうがずっと辛かった。
ちょうど太陽が真上に昇った頃、神殿に続く道にリリアが現れた。真っ白な服の上に銀色に輝く神の鎧を着、兜をかぶったその姿は、戦の女神そのものである。
「これが神の鎧と兜ですわ。さあ、ミゼル、すべての神の武具を身につけてみてください。神の武具は、一つずつでも強大な威力を持っていますが、三つが揃うと、その何百倍もの威力になるのです。おそらく、常人の力の数千倍か数万倍もの力になるはずです」
 リリアの言葉で、ミゼルはすべての神の武具、すなわち神の鎧兜、破邪の盾、王者の剣を身に着けてみた。
 そこに現れたのは、神話の中の英雄かと思われる神々しい姿であった。
「こいつはすげえ。普通の人間なら、ミゼルのこの姿を見ただけで地にひれふすぜ」
 ピオが感嘆の声を上げた。
 ミゼルは、自分の中にみなぎる力を感じていた。しかし、それが錯覚ではないかどうか確かめたい。
ミゼルは、傍らの大木に王者の剣を振り下ろした。直径がおよそ一メートルもあるその木は、豆腐か寒天でも切る程度の手応えで斜めに切り落とされた。
倒れる大木から慌てて飛び退くマキルとザキルに構わず、ミゼルは今度は自分の側にあった大岩に、真っ向から剣を振り下ろした。
これもまた、ゼリーでも切る手応えである。岩は、まっぷたつに切れた。
ミゼルは、王者の剣を日にかざして眺めた。青白く輝く刀身には、刃こぼれどころか、物を切った跡さえない。
「恐ろしい威力だ。カリオスがどんなに化け物みたいな奴でも、この三つの武具にはかなわないだろう」
 ピオが言った言葉に、リリアは首を横に振った。
「いいえ、カリオスの力をあなどってはいけません。神の武具を身につけても、人間は人間、相手は悪魔そのものに近い力を身につけた男です。神の武具は、通常の魔法を利かなくする力はありますが、悪魔の力を借りた魔法にどの程度通用するか分からないのです」
「しかし、普通の人間なら、この武具にかなう者はいないだろう。千人の軍勢でも、ミゼル一人で倒せるんじゃないか?」
 ピオが言うと、リリアはそれには頷いた。
「千人どころか、何万人でも倒せます。ミゼルほどの勇者なら、汗一つかかないでしょう。この神の武具は、着た者の力を増幅させるだけでなく、疲れを癒す力もあるのですから。三つの神の武具を身に着ければ、たった一人で、この世界全体を征服し、世界の王者になることもできるのです。しかし、普通の人間が神の武具を着ても、自分の全能力を一瞬で使い果たすだけです。神の武具は心正しい者しか身に着けることはできません。それがミゼルですわ」
 リリアの言葉を聞きながら、ミゼルは、自分がそれほどの人間なのかどうか考えた。つい半年前まで、田舎で羊飼いをしていた無知な少年である自分が、それほどの人間であるとは、とても思えない。しかし、もしもカリオスが噂どおり悪魔の手下であり、この世を悪の支配下に置こうとする人間で、自分がカリオスを倒す使命の為に神に選ばれた人間なら、そのために命を捨ててもいいとミゼルは考えた。それによって、自分の愛する人間のすべてが救われるのなら。
 ミゼルたちの一行は、船に十分な水と食料を積み込んだ後、森の島エタムを離れた。季節はまもなく冬になろうかという冷たい風の吹く頃であった。

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男性
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仙人
趣味:
考えること
自己紹介:
空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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