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少年騎士ミゼルの遍歴 26

第二十六章 港町ハビラム

ミゼルとピオが、アドラム北西の海辺の町ハビラムに着いたのは、夏の終わりだった。二人はそこで宿を取り、ヘブロンへの船旅の準備をすることにした。ヘブロンまで、およそ三百海里、順風でも一週間はかかるが、今は西風が吹き始めているから、三、四週間くらいもかかるかもしれない。それに、南方からは、台風が時折発生する頃だ、と港町の古老は言っている。大風にも耐えられるだけの船は、すぐには手に入らない。船の乗組員の人数も揃える必要がある。
 ミゼルとピオは、漁民の家を回って、船を探してみたが、どの舟も、沿岸漁業用の小舟で、遠洋航海ができる船ではない。
「いっそ、新しく作らせちゃあ、どうだ。金はあるんだからな」
 ピオが言った。
 ミゼルは、レハベアムに行くのが遅くなる、と乗り気ではなかったが、ある日ピオは一人の少年を連れてきた。やせっぽちで、耳や鼻の大きい不細工な顔の少年だが、目には知的なきらめきがあった。
「こいつの名はメビウス。船大工だが、細工物ならなんでもできる天才的な男だそうだ。大きな船を作ったことはないが、作るのは簡単だ、と言っているぜ」
 ピオの言葉に、少年は平然と付け加えた。
「人手さえあれば、二週間で作るよ」
 ミゼルは驚いた。小さな舟でも、作るのに二、三ヶ月はかかるのが普通だからだ。
「もしも、金がたっぷりあるのなら、櫓も帆も無くても走る船を作ってやるよ」
 あっけにとられているミゼルとピオに、少年は、地面に図を描いて説明した。
「密閉した大釜に水を入れて、下から熱すると、蒸気が出る。その蒸気を、管に通して羽根のついた車に吹き付けると、車が回る。その回転の力で、船を進ませるんだ。もちろん、実際には、もう少し複雑な仕組みになるけどな」
 ミゼルの頭では、メビウスの言葉が実現可能なものかどうかわからなかったが、とにかく、この少年の頭が自分たちとは随分ちがったものであることは分かった。
 ミゼルは、メビウスに二千金を与えて、造船作業の一切の指揮を任せた。
 後は、ミゼルたちにはすることが無かった。ピオは乗組員を探しがてら港町の酒場で毎日酒を飲み、ミゼルは造船作業の進み具合を見るために、作業場に毎日通った。
 メビウスの仕事の進め方も、意表を突いたものだった。五十人あまりの人間が、幾つものグループに分かれ、それぞれ船の別の部分を同時に作っていくのである。各部分の設計図を見て作っていくのだが、最終的にそれらがきちんと一つに組み合わされるのか、ミゼルは不安でならなかった。
 十日目に、船はその全容を現した。作業場である海辺の小屋の側で組み立てられたそれは、全長およそ二十メートル、幅七メートルほどの大きさの船で、甲板と船室があり、船体の横には二つの外輪が両側にあって、船の中央には、煙突が突き出ていた。この当時の人間の目には、いかにも異様な形の船である。
全体が組み立てられた後、船板の継ぎ目にタールが塗られて防水された船は、タールが乾くのを待って海に浮かべられた。コロと滑車で海まで引かれていった船は、無事に海に浮かんだ。ミゼルとピオは、思わず顔を見合わせて、微笑した。
火釜に火が入れられ、しばらくすると、船は自力で動きだした。最初はゆっくりだが、段々と速度が上がり、思いもかけないほどの速さで船は走り出した。
「素晴らしい! これなら、レハベアムまで楽に行けるぞ」
ピオは叫んだ。

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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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