第二十四章 別れ
アサガイに着いた一行は、そこで何日かを過ごした。都からの噂では、宰相アブドラが、自分の私兵を連れてムルドを脱出し、各地の豪族に呼びかけて内乱を起こしているらしい。ミゼルたちを王に目通りさせた事が王の怒りに触れ、処刑される事を恐れて先回りして行動したものだろう。ミゼルは、アブドラにも済まないことをした、と思ったが、アロンの父のマハンは、笑って言った。
「もともと、今のエリアブ王家は、その前のダタン王朝に仕えていたヤラベアム出身の宰相カロンが王位を簒奪して作った王朝で、我々アドラム人の王家ではありません。見ての通り、我々とあなた方ヤラベアム人とは、肌色も髪の色も違う。アドラム人には、あなた方のような金髪や青い目の者はいません。アロンがアドラム人でないことは、見ればわかるでしょう。いずれにせよ、エリアブ王家の悪政に苦しめられたアドラム人が立ち上がるのは、時間の問題だったのです」
ミゼルは、アドラムに残ってロドリグ王との戦いに協力したいと思ったが、その一方では、早く風の島ヘブロンに渡って聖なる武具の二つ目を手に入れたいとあせる気持ちがあった。
ある日、アロンがロザリンを連れてミゼルの所に来て、ロザリンが自分の求婚を受け入れたということを告げた。ミゼルは喜んで二人を祝福した。
「そういうわけで、ミゼル、残念だけど、あなたの旅に付いていく事ができなくなったの。御免なさいね」
ロザリンはミゼルに向かって言った。ミゼルは頭を振って、ロザリンがアロンを選んだのは良かった、きっと幸せになるだろう、と言った。
ロザリンは、ゲイツやアビエルからも祝福を受けたが、その席で、驚くべき事を告白した。
「実は、私はヤラベアムの王女なの。本当の名前はエステルよ」
ミゼルたちは信じられない思いだったが、ロザリンが顔の化粧を拭い去って本来の色白の肌を顕した時、ミゼルは、彼女が、御前試合の時に少しだけ見たエステル姫本人であることが分かった。
「俺達はとんでもない人と一緒に旅をしていたんだなあ」
アビエルはあきれたように言った。
「これまでの無礼の数々、お許しください」
ゲイツは、青くなって詫びた。
「無礼どころか、皆にはいろいろと迷惑をかけたわ。それに、これまでの旅は、今までで一番楽しい思い出よ」
ロザリン、いや、エステル姫は、笑って答えた。
「エステルの魔法で、ロドリグ王と戦うことができるし、何とかしてヤラベアムに使者を送ることができたら、ヤラベアムからの援軍を頼むことができるでしょう。そうすれば、この戦いを勝利に導くことは、決して不可能ではありません」
アロンは自信に満ちた微笑を浮かべて一同に言った。
翌日は再び旅に出ようという前の晩、ミゼルの居室にゲイツが済まなそうな顔で現れた。
「ミゼルさん、お話が」
「何ですか」
「実は、あなたには申し訳ないんだが、私はここにしばらく残りたいんですよ。例のシケル山で見つけた燃える水で何か商売をしてみたいと思いましてね。うまくいけば、大儲けができそうな気がするんです。それに、あれは、もしかしたら戦の武器に使えるかもしれませんからね。アロンさんたちの戦いに、お役に立てるかもしれません」
「そうですか。それは素晴らしい事だ。ゲイツさんも、旅の目的に一歩近づいたわけですね」
「それで、これも言いにくいことなんだが、アビエルを私の片腕に欲しいんですよ。あいつは、目端が利くし、口も上手い。商売人にはうってつけだ。本人も私の話に乗り気なんだが、そうするとミゼルさんが一人になってしまうんで困ってるんです」
「ああ、それなら、気にしないでください。私はもともと、一人で旅をするつもりでしたから大丈夫です。これまで、助けてくれて有り難う。二人で頑張ってください」
ミゼルは、ゲイツを力づけるように明るく言った。
アサガイに着いた一行は、そこで何日かを過ごした。都からの噂では、宰相アブドラが、自分の私兵を連れてムルドを脱出し、各地の豪族に呼びかけて内乱を起こしているらしい。ミゼルたちを王に目通りさせた事が王の怒りに触れ、処刑される事を恐れて先回りして行動したものだろう。ミゼルは、アブドラにも済まないことをした、と思ったが、アロンの父のマハンは、笑って言った。
「もともと、今のエリアブ王家は、その前のダタン王朝に仕えていたヤラベアム出身の宰相カロンが王位を簒奪して作った王朝で、我々アドラム人の王家ではありません。見ての通り、我々とあなた方ヤラベアム人とは、肌色も髪の色も違う。アドラム人には、あなた方のような金髪や青い目の者はいません。アロンがアドラム人でないことは、見ればわかるでしょう。いずれにせよ、エリアブ王家の悪政に苦しめられたアドラム人が立ち上がるのは、時間の問題だったのです」
ミゼルは、アドラムに残ってロドリグ王との戦いに協力したいと思ったが、その一方では、早く風の島ヘブロンに渡って聖なる武具の二つ目を手に入れたいとあせる気持ちがあった。
ある日、アロンがロザリンを連れてミゼルの所に来て、ロザリンが自分の求婚を受け入れたということを告げた。ミゼルは喜んで二人を祝福した。
「そういうわけで、ミゼル、残念だけど、あなたの旅に付いていく事ができなくなったの。御免なさいね」
ロザリンはミゼルに向かって言った。ミゼルは頭を振って、ロザリンがアロンを選んだのは良かった、きっと幸せになるだろう、と言った。
ロザリンは、ゲイツやアビエルからも祝福を受けたが、その席で、驚くべき事を告白した。
「実は、私はヤラベアムの王女なの。本当の名前はエステルよ」
ミゼルたちは信じられない思いだったが、ロザリンが顔の化粧を拭い去って本来の色白の肌を顕した時、ミゼルは、彼女が、御前試合の時に少しだけ見たエステル姫本人であることが分かった。
「俺達はとんでもない人と一緒に旅をしていたんだなあ」
アビエルはあきれたように言った。
「これまでの無礼の数々、お許しください」
ゲイツは、青くなって詫びた。
「無礼どころか、皆にはいろいろと迷惑をかけたわ。それに、これまでの旅は、今までで一番楽しい思い出よ」
ロザリン、いや、エステル姫は、笑って答えた。
「エステルの魔法で、ロドリグ王と戦うことができるし、何とかしてヤラベアムに使者を送ることができたら、ヤラベアムからの援軍を頼むことができるでしょう。そうすれば、この戦いを勝利に導くことは、決して不可能ではありません」
アロンは自信に満ちた微笑を浮かべて一同に言った。
翌日は再び旅に出ようという前の晩、ミゼルの居室にゲイツが済まなそうな顔で現れた。
「ミゼルさん、お話が」
「何ですか」
「実は、あなたには申し訳ないんだが、私はここにしばらく残りたいんですよ。例のシケル山で見つけた燃える水で何か商売をしてみたいと思いましてね。うまくいけば、大儲けができそうな気がするんです。それに、あれは、もしかしたら戦の武器に使えるかもしれませんからね。アロンさんたちの戦いに、お役に立てるかもしれません」
「そうですか。それは素晴らしい事だ。ゲイツさんも、旅の目的に一歩近づいたわけですね」
「それで、これも言いにくいことなんだが、アビエルを私の片腕に欲しいんですよ。あいつは、目端が利くし、口も上手い。商売人にはうってつけだ。本人も私の話に乗り気なんだが、そうするとミゼルさんが一人になってしまうんで困ってるんです」
「ああ、それなら、気にしないでください。私はもともと、一人で旅をするつもりでしたから大丈夫です。これまで、助けてくれて有り難う。二人で頑張ってください」
ミゼルは、ゲイツを力づけるように明るく言った。
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