第二十一章 猛将ルシッド
一同は宮廷の中庭に出た。強い日差しに輝く、白砂の敷き詰められた馬場である。
エルロイは、アビエルに手伝わせて鎧を着た。ミゼルたちは馬場の隅に控えて並ぶ。もう一方の隅に、国王ロドリグと側近達が居並ぶ。他の宮廷人たちも、この戦いの噂を聞いて、見物にやってきている。その中に、ロドリグの后か側室らしい、侍女に傅かれた女がいるのにミゼルは気が付いた。ヴェールで顔は隠しているものの、並々ならぬ美女であることが感じ取れる。これがソリティアだ、とミゼルは直感した。エルロイにも、それが分かったようだ。ミゼルは、エルロイが戦う理由の一つは、ソリティアに自分の戦いを見せるためではなかったか、と思った。そういう形でしか、ソリティアへの思いを表せないと思ったのだろう。
やがて広場の一方からエルロイの相手となる男が現れた。長身のエルロイより、さらに頭一つ高く、肩幅も広く、胸も厚い。日焼けした顔は眼光が鋭く、鷲鼻で、顔の下半分は漆黒の髭に覆われている。鎧は着ずに、手に持った盾と鎖帷子と胸当てだけの軽装備である。見るからに並みの騎士ではない。手には、普通より大きな半月刀を軽々と持っている。これが、ヤラベアムにまで知られた勇将ルシッドか、とミゼルは思った。
ルシッドは、手にした半月刀を二、三度軽く振った。そのうなりが、離れたミゼルたちの所まで響いてきて、衝撃を与える。ゲイツとアビエルは青くなって顔を見合わせた。ロザリンは胸の前で、手を合わせている。ミゼルとアロンも顔を曇らせた。
エルロイは、ルシッドに向かって歩み寄った。その顔は、やや青ざめているが、冷静だ。彼は、国王の側の、ソリティアと思われる女性に向かって、軽く一礼し、十歩ほど離れた戦いの相手に向かい合った。ルシッドは無表情ながら、獅子のような闘志をみなぎらせている。
国王ロドリグが片手を上げ、「始めよ」と言った。
ルシッドが、猛然と走り寄った。重い鎧を着たエルロイは、ルシッドほど敏捷に動けない。その巨体から考えられない速い動きで跳躍し、ルシッドはエルロイにその半月刀を打ち下ろした。エルロイは、手にした盾で、それを防ぐ。しかし、ルシッドの刀の破壊力は、盾で防ぐことはできなかった。エルロイは盾ごと後ろに跳ね飛ばされた。ここで倒れたら、最後である。簡単に止めを刺されるだろう。必死にエルロイは踏みとどまって、倒れるのを防いだ。
エルロイは、剣を横に払った。剣はルシッドの胴を襲ったが、簡単に盾に防がれる。
エルロイの反撃らしい反撃はこれだけだった。後はルシッドの嵐のような攻撃に、エルロイはただ耐えているしかなかった。彼が板金鎧で完全武装していなければ、戦いはほんの数秒で終わっていただろう。ルシッドの剛剣は、エルロイの美しい鎧を惨めな姿にしていた。そして、鎧の中のエルロイは、その打撃ですでに意識を失いかけていた。彼が時折返す反撃は、簡単にかわされ、ルシッドの攻撃は鎧を通してすらエルロイの体を痛めつけていたのである。彼がこれまで相手をしてきたヤラベアムの騎士とは、まったく次元の異なる相手であった。
ロザリンは、ルシッドに念力を送って、その意識を攪乱しようとした。卑怯だが、エルロイの命には替えられない。しかし、百戦錬磨のルシッドの強靱な精神には、ロザリンの魔法は通じなかった。
ルシッドは、もはや相手が戦闘能力を失っているのを見て取り、その激しい攻撃をやめた。見ている者たちには、彼がなぜ動きを止めたのか分からない。しかし、一方のエルロイは立ったまま動かない。すでに意識をほとんど失っていたのである。
ルシッドは、その半月刀を大上段に振りかぶった。エルロイは、まるで断首を待つ罪人のように、その前で動かずにいる。
ロザリンが悲鳴を上げた。
ルシッドが刀を振り下ろした。すでにあちこちに亀裂の入っていた鎧の肩口に入ったその刀は、胸の半ばまで食い込んだ。エルロイは、地面に崩れた。その倒れた彼の鎧の隙間から、赤い血が流れ出て、白い砂を染めていく。
一同は宮廷の中庭に出た。強い日差しに輝く、白砂の敷き詰められた馬場である。
エルロイは、アビエルに手伝わせて鎧を着た。ミゼルたちは馬場の隅に控えて並ぶ。もう一方の隅に、国王ロドリグと側近達が居並ぶ。他の宮廷人たちも、この戦いの噂を聞いて、見物にやってきている。その中に、ロドリグの后か側室らしい、侍女に傅かれた女がいるのにミゼルは気が付いた。ヴェールで顔は隠しているものの、並々ならぬ美女であることが感じ取れる。これがソリティアだ、とミゼルは直感した。エルロイにも、それが分かったようだ。ミゼルは、エルロイが戦う理由の一つは、ソリティアに自分の戦いを見せるためではなかったか、と思った。そういう形でしか、ソリティアへの思いを表せないと思ったのだろう。
やがて広場の一方からエルロイの相手となる男が現れた。長身のエルロイより、さらに頭一つ高く、肩幅も広く、胸も厚い。日焼けした顔は眼光が鋭く、鷲鼻で、顔の下半分は漆黒の髭に覆われている。鎧は着ずに、手に持った盾と鎖帷子と胸当てだけの軽装備である。見るからに並みの騎士ではない。手には、普通より大きな半月刀を軽々と持っている。これが、ヤラベアムにまで知られた勇将ルシッドか、とミゼルは思った。
ルシッドは、手にした半月刀を二、三度軽く振った。そのうなりが、離れたミゼルたちの所まで響いてきて、衝撃を与える。ゲイツとアビエルは青くなって顔を見合わせた。ロザリンは胸の前で、手を合わせている。ミゼルとアロンも顔を曇らせた。
エルロイは、ルシッドに向かって歩み寄った。その顔は、やや青ざめているが、冷静だ。彼は、国王の側の、ソリティアと思われる女性に向かって、軽く一礼し、十歩ほど離れた戦いの相手に向かい合った。ルシッドは無表情ながら、獅子のような闘志をみなぎらせている。
国王ロドリグが片手を上げ、「始めよ」と言った。
ルシッドが、猛然と走り寄った。重い鎧を着たエルロイは、ルシッドほど敏捷に動けない。その巨体から考えられない速い動きで跳躍し、ルシッドはエルロイにその半月刀を打ち下ろした。エルロイは、手にした盾で、それを防ぐ。しかし、ルシッドの刀の破壊力は、盾で防ぐことはできなかった。エルロイは盾ごと後ろに跳ね飛ばされた。ここで倒れたら、最後である。簡単に止めを刺されるだろう。必死にエルロイは踏みとどまって、倒れるのを防いだ。
エルロイは、剣を横に払った。剣はルシッドの胴を襲ったが、簡単に盾に防がれる。
エルロイの反撃らしい反撃はこれだけだった。後はルシッドの嵐のような攻撃に、エルロイはただ耐えているしかなかった。彼が板金鎧で完全武装していなければ、戦いはほんの数秒で終わっていただろう。ルシッドの剛剣は、エルロイの美しい鎧を惨めな姿にしていた。そして、鎧の中のエルロイは、その打撃ですでに意識を失いかけていた。彼が時折返す反撃は、簡単にかわされ、ルシッドの攻撃は鎧を通してすらエルロイの体を痛めつけていたのである。彼がこれまで相手をしてきたヤラベアムの騎士とは、まったく次元の異なる相手であった。
ロザリンは、ルシッドに念力を送って、その意識を攪乱しようとした。卑怯だが、エルロイの命には替えられない。しかし、百戦錬磨のルシッドの強靱な精神には、ロザリンの魔法は通じなかった。
ルシッドは、もはや相手が戦闘能力を失っているのを見て取り、その激しい攻撃をやめた。見ている者たちには、彼がなぜ動きを止めたのか分からない。しかし、一方のエルロイは立ったまま動かない。すでに意識をほとんど失っていたのである。
ルシッドは、その半月刀を大上段に振りかぶった。エルロイは、まるで断首を待つ罪人のように、その前で動かずにいる。
ロザリンが悲鳴を上げた。
ルシッドが刀を振り下ろした。すでにあちこちに亀裂の入っていた鎧の肩口に入ったその刀は、胸の半ばまで食い込んだ。エルロイは、地面に崩れた。その倒れた彼の鎧の隙間から、赤い血が流れ出て、白い砂を染めていく。
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