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少年騎士ミゼルの遍歴 17

第十七章 首都ムルド

 翌日、マハンの家を出る時、アロンも付いていくと言ったので、一同は驚いた。
「何もできませんから、荷物運びでもさせてください」
 アロンの言葉に、ミゼルはためらいながら答えた。
「いや、人数が多いほうが、こちらも心強いが、お父上の許可は得られたのですか?」
「昨晩話しておきました」
 そこにマハンが現れ、アロンのことをよろしく頼むと言った。そして、思いがけないことをミゼルたちに告げた。
「実は、このアロンは私の本当の子供ではありません。レハベアムの元の国王モルデの息子なのです。十七年前、レハベアムで大僧正カリオスによって国王モルデが殺され、王位を奪われた時に、王はその一人息子のアロンを家臣の手に託し、その男は国外に脱出して、ここに旧知の私を頼ってきたのです。ロザリン殿が見たという未来は、もしかしたらアロンがレハベアムの王位に就くというお告げかも知れません。なら、アロンはここにいるべきではないでしょう」
「レハベアムの王位とは限らないわよ。アドラムかヤラベアムの王位かもしれないわ」
 ロザリンが言った。
「まさか! どうしてアロンがアドラムやヤラベアムの王位に就けるんですか」
「世の中、何が起こるか分からないものですよ。我々だって、ほんの三月前には、今頃自分がアドラムを旅しているなんて想像もしていなかったですからね」
 ゲイツがロザリンに代わって答える。ともあれ、アロンを新たな旅の仲間として迎えることには誰も文句はなかった。

 アサガイから、首都ムルドまで一週間ほどかかった。
 旅の間、アロンはずっとロザリンに話しかけ、周囲の者をやきもきさせたが、エルロイは素知らぬ顔である。それがロザリンには物足りないようだ。アロンというライバルが現れたことで、エルロイが少しは嫉妬してくれるかと思っていたのに、あてが外れたようである。
 やがて、彼らの前に、首都ムルドが現れた。ムルドの町は、アドラムの南部の山脈近くに開けた町で、近くには川が流れ、緑の多い豊かな土地である。王宮や寺院の荘厳な建物が遠くからでも目に付く。青いタイルの壁に、金色の円屋根が太陽に輝いて見える。
「宰相アブドラは、僕の知り合いですから、彼の家に泊めて貰いましょう」
 アロンの言葉で、ミゼルたちは、そのアブドラの屋敷を訪ねた。
 アブドラの屋敷は、マハンの屋敷にも輪を掛けて豪壮な大邸宅である。庭には噴水まである。様々な果樹の植えられた庭には、極彩色の鳥があちこちにとまっている。
「おお、アロン、よく来た。すっかり大きくなったな」
 アブドラは、マハンとよく似てでっぷり肥った目の大きい男である。温容の中にも、いかにも宰相らしい威厳がある。
「アブドラ様もお元気でなによりです。父が、よろしく申しておりました」
「マハンも達者だろうな。で、ここへはどんな用で来た。遊びかな?」
「まあ、そのようなものです。用はありますが、雲を掴むような話で」
「まあ、話はゆっくり聞こう。中に入りなさい」
 応接用の大広間で、アブドラはミゼルたちの話を聞いて、眉根にしわを寄せた。
「それは、無理な話だ。王者の剣は王家の大事な宝物。それを他人に渡すはずはない。それを口にしただけでも、お前たちは殺されかねないぞ」
 やはりな、とミゼルたちはがっかりした。
「だが、一つ方法がある。ロドリグ様は欲深で残忍な方だが、約束は守る人だ。あの方と賭けをして、勝てば王者の剣を手に入れることもできるかもしれない。それには、王者の剣に匹敵する宝が必要だがな」
 ミゼルたちは、ヴォガ峠の山賊から手に入れた宝石をアブドラに見せたが、アブドラは首を横に振った。
「そんな宝石など、王は腐るほど持っている」
「王のお好きな物は何ですか」
 アロンが聞いた。
「美女と、名馬だ。しかし、国中の美女はすべて後宮に集められているし、正妃のソリティア様以上の美女は世の中にいるまい」
「このロザリンではどうです」
 ゲイツが言った。仲間たちは驚いて、ゲイツを非難するように見た。
「いや、何も本気で献上しようというのじゃありません。賭けをして、勝てばよし、負けたら、ロザリンを一度献上した上で、隙を見て魔法で逃げてきて貰うのですよ」
 なるほど、名案だ、とミゼルは考えたが、どうもロザリンに済まない気がする。
「いい案じゃない」
 ロザリンは平気な顔で言った。アブドラは、何とも言わず笑っている。
「しかし……」
とアビエルが言う。
「確かにロザリンは可愛いし、美人と言ってもいいが、あのソリティアの絵に比べたらなあ……」
「何ですって!」
 ロザリンは、アビエルの無礼な言葉に怒って、懲らしめのために魔法を使おうとしたが、アロンがそれを押しとどめた。
「まあまあ、そんな危険な方法は最後の手段にして、何かいい案が浮かぶまで、少し待つことにしましょう」
 ミゼルたちは、アブドラの侍女たちに至れり尽くせりの世話をされ、腹一杯に御馳走を食って、その晩はゆっくり休んだのであった。

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酔生夢人
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空を眺め、雲が往くのを眺め、風が吹くのを感じれば、
それだけで人生は生きるに値します。

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