第二十二章 死闘
ミゼルとロザリンは、同時に戦いの場に飛び出した。
ミゼルは、エルロイを抱き起こし、兜を脱がせた。エルロイは閉じていた目を開けて、弱々しく微笑んだ。
「ミゼル、済まない。まるで相手にならなかった。もっと一緒に旅をしたかったが、ここでお別れだ。だが、俺は満足だ。おそらく、この世でもっとも強い剣士の手に掛かって死ぬのだからな。いいか、ミゼル、俺が死んだくらいで、この旅の目的をあきらめるなよ。ロザリン、さようなら。俺なんかよりお前にふさわしい男を見つけて、幸せになってくれ」
エルロイは、その言葉とともに目を閉じ、息を引き取った。
「エルロイ! エルロイ!」
ミゼルとロザリンは、声を上げて泣いた。
やがてミゼルは涙を拭って立ち上がり、離れた所に佇んでいるルシッドを見、そして国王ロドリグに向かって言った。
「国王、お願いがあります。ぜひ、私と、このルシッドを闘わせてください。今度は、王者の剣に対して、この世の最高の名馬を賭けましょう」
ミゼルは、ゲイツに言って、ゼフィルを引いて来させた。
「それが最高の名馬だと? それほどの馬には見えぬがな」
ロドリグ王が言うのに対して、ゼフィルに近寄ってそれを調べていたルシッドが答えた。
「いや、陛下、この者が言う通り、これは滅多にいない名馬です。だが、実際に乗ってみないと、これがこの世で最高の名馬かどうかはわかりません。どうか、この者との馬上試合をお許し下さい」
「よいだろう。地上であれ、馬上であれ、ルシッドにかなう者はおるまい」
ルシッドも自分の馬を引いて来させた。乗り手にふさわしい堂々たる体躯の巨馬である。顔には槍よけの覆面をし、胴体は鎖帷子で覆われている。
ミゼルは、ルシッド同様に、鎖帷子だけの軽装備で、片手に槍、片手に盾を持ってゼフィルに乗った。
両者は、広場の端に別れて対峙した。
「始めよ!」
ロドリグ王の声で、両者は向かい合って突進した。
巨大な馬に乗り、長大な半月刀を振りかざして突進してくるルシッドの姿は、地上でエルロイと戦った時以上の迫力である。
ルシッドは右利きである。従って、自分の馬の右側の敵に対しては戦いやすいが、左側にいる敵には、馬の頭が邪魔になって、動きがかなり制限される。そう判断したミゼルは、両者が激突する寸前、ゼフィルを相手の左手側に跳躍させた。
ルシッドの半月刀がミゼルを襲うが、僅かに届かず、ミゼルの槍はルシッドの脇腹に刺さった。だが、飛び去りながらの刺突であったため、致命傷にはならなかった。
その後は、ルシッドの猛烈な攻撃の前に、ミゼルは防戦一方であった。見ている者たちは、いつミゼルが殺されるかと思うばかりである。しかし、ゼフィルと一心同体のミゼルは、ルシッドの攻撃をすべて紙一重でかわし続けていた。
嵐のような攻撃を続けている間に、ルシッドの脇腹から流れていく血は、ルシッドの体力を急速に奪っていた。激しい動きがそれを倍加させる。これまで、ルシッドの攻撃を十合以上耐えた相手はいなかったのである。だが、この、天馬のような馬に乗った少年は、自分の攻撃をことごとくかわし、自分の刀は空しく空を斬るばかりである。その攻撃自体が、彼を一刻一刻死に近づけて行った。
やがて、ルシッドの目は霞んできた。
暗くなった中に、突然、体全体が雷に打たれたような衝撃があり、ルシッドはそのまま死の闇の中に沈んでいった。
ミゼルの槍が、ルシッドの心臓に、深々と刺さったのである。ルシッドは馬から落ちて、地面に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。
今度は、アドラム宮廷の人々が悲鳴を上げる番だった。
茫然自失の状態から我に返った国王ロドリグは、「誰か、この者らを捕らえよ!」と叫んだ。
ミゼルとロザリンは、同時に戦いの場に飛び出した。
ミゼルは、エルロイを抱き起こし、兜を脱がせた。エルロイは閉じていた目を開けて、弱々しく微笑んだ。
「ミゼル、済まない。まるで相手にならなかった。もっと一緒に旅をしたかったが、ここでお別れだ。だが、俺は満足だ。おそらく、この世でもっとも強い剣士の手に掛かって死ぬのだからな。いいか、ミゼル、俺が死んだくらいで、この旅の目的をあきらめるなよ。ロザリン、さようなら。俺なんかよりお前にふさわしい男を見つけて、幸せになってくれ」
エルロイは、その言葉とともに目を閉じ、息を引き取った。
「エルロイ! エルロイ!」
ミゼルとロザリンは、声を上げて泣いた。
やがてミゼルは涙を拭って立ち上がり、離れた所に佇んでいるルシッドを見、そして国王ロドリグに向かって言った。
「国王、お願いがあります。ぜひ、私と、このルシッドを闘わせてください。今度は、王者の剣に対して、この世の最高の名馬を賭けましょう」
ミゼルは、ゲイツに言って、ゼフィルを引いて来させた。
「それが最高の名馬だと? それほどの馬には見えぬがな」
ロドリグ王が言うのに対して、ゼフィルに近寄ってそれを調べていたルシッドが答えた。
「いや、陛下、この者が言う通り、これは滅多にいない名馬です。だが、実際に乗ってみないと、これがこの世で最高の名馬かどうかはわかりません。どうか、この者との馬上試合をお許し下さい」
「よいだろう。地上であれ、馬上であれ、ルシッドにかなう者はおるまい」
ルシッドも自分の馬を引いて来させた。乗り手にふさわしい堂々たる体躯の巨馬である。顔には槍よけの覆面をし、胴体は鎖帷子で覆われている。
ミゼルは、ルシッド同様に、鎖帷子だけの軽装備で、片手に槍、片手に盾を持ってゼフィルに乗った。
両者は、広場の端に別れて対峙した。
「始めよ!」
ロドリグ王の声で、両者は向かい合って突進した。
巨大な馬に乗り、長大な半月刀を振りかざして突進してくるルシッドの姿は、地上でエルロイと戦った時以上の迫力である。
ルシッドは右利きである。従って、自分の馬の右側の敵に対しては戦いやすいが、左側にいる敵には、馬の頭が邪魔になって、動きがかなり制限される。そう判断したミゼルは、両者が激突する寸前、ゼフィルを相手の左手側に跳躍させた。
ルシッドの半月刀がミゼルを襲うが、僅かに届かず、ミゼルの槍はルシッドの脇腹に刺さった。だが、飛び去りながらの刺突であったため、致命傷にはならなかった。
その後は、ルシッドの猛烈な攻撃の前に、ミゼルは防戦一方であった。見ている者たちは、いつミゼルが殺されるかと思うばかりである。しかし、ゼフィルと一心同体のミゼルは、ルシッドの攻撃をすべて紙一重でかわし続けていた。
嵐のような攻撃を続けている間に、ルシッドの脇腹から流れていく血は、ルシッドの体力を急速に奪っていた。激しい動きがそれを倍加させる。これまで、ルシッドの攻撃を十合以上耐えた相手はいなかったのである。だが、この、天馬のような馬に乗った少年は、自分の攻撃をことごとくかわし、自分の刀は空しく空を斬るばかりである。その攻撃自体が、彼を一刻一刻死に近づけて行った。
やがて、ルシッドの目は霞んできた。
暗くなった中に、突然、体全体が雷に打たれたような衝撃があり、ルシッドはそのまま死の闇の中に沈んでいった。
ミゼルの槍が、ルシッドの心臓に、深々と刺さったのである。ルシッドは馬から落ちて、地面に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。
今度は、アドラム宮廷の人々が悲鳴を上げる番だった。
茫然自失の状態から我に返った国王ロドリグは、「誰か、この者らを捕らえよ!」と叫んだ。
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